第28話 エルフの軍隊
エルフ族の天才、【樹海の苗】ピクラスは苦労の末に研究を完成させた。
植物の兵士、ウッドウォークである。
大木を素材に作られたそれは、一見、本当にただの樹木に見える。
だがウッドウォークは樹木ではない。
動きは鈍いものの、トロールに近い怪力で枝のような腕を振るい、兵士として戦うことが可能であった。
「論理的帰結により、もはや我々エルフが野蛮な争いを直接する必要はなくなった。これからはこのウッドウォークが森を守るだろう」
ピクラスはそう説明した。
エルフたちは初めウッドウォークの存在を疑ったが、やがて驚愕の中でそれを認め、ついには狂喜して発明を讃えた。
ウッドウォークは早速、量産に移されて、森の守護者として配置されることになった。
※
数カ月後。
森の際に現れた大木の存在に気付き大騒ぎしたのは、森に隣接する草原に住む人間の国であった。
「なんだ、あれは!」
人間の王は森の端々で移動する樹木を見て驚愕した。
初めは物珍しさのあまり驚いただけであったが、それがエルフの作った兵士だと聞いて、人間の王は恐怖した。
人間の王は、エルフの長老の一人である【樹海の苗】ピクラスと手紙をかわし合った。
『森のエルフよ。なぜ兵士を置くのだ。平原を侵略するつもりか?』
『その論理は正しくない。ウッドウォークは森の守備用の兵であり、侵略の意図は皆無である』
『お前の言葉は信用が出来ない。戦う意思がないのであれば、今すぐあの樹木の兵士を破棄してもらいたい』
『その論理は暴論である。人間にも守備兵はいる。むしろ人間の軍の方が遥に多い。なぜ我々が守備兵を持つことが駄目なのか?』
『我々の軍は善良であるが、その樹木の兵は邪悪であるからだ』
『論理が破綻している。これ以上の文書のやり取りは無意味と判断する』
手紙での会話はそこで終了した。
激怒した人間の王は軍に招集をかけあわや開戦となった。
だがウッドウォークの戦力がわからぬ将軍に止められて、戦争はギリギリのところで回避された。
《千年前からあり、千年後にも残るであろう言葉。曰く「私はいいけど、君はダメ!」》
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