第5話 小話 最適な武器

【放浪の姫君】レィナスと、【朱の騎士】ベルレルレンが旅をしていた。


 レィナス姫は重い荷物を支えながら旅を続けていた。


 修行の一環である。


 しかし相変わらず飽きっぽいレィナス姫は、退屈の極みにあった。


「……つまらん」


 誰に言うともなく、レィナス姫が小声を吐いた。


 レィナス姫の隣にはベルレルレンがおり、そして彼以外には誰もいない。


 ベルレルレンはため息をついた。


 だが詰まらないと言いながらも、荷物を降ろさずに黙々と歩くレィナス姫に、彼はわずかながら敬意を示した。


「姫君、このようなお話がございます」


 ベルレルレンはレィナス姫の退屈を紛らわすために、物語を始めた。





 ある笑顔の男が、商店へと出かけた。


「武器が欲しいのだが、あつらえてもらえるかな?」


 商人が出てきて、男の応対をした。


「武器といっても色々ございます。相手はゴブリンでしょうか? でしたら剣が最適です。鍛えられた鋼は何匹ゴブリンを切っても折れることはございません」


 男は首を振った。


「いや、相手はゴブリンではない」


 商人は別の武器を持ってきた。


「では敵はエルフですか? それならば斧が最適でしょう。森の中に住むエルフは、木を切るようになぎ倒す斧が一番ですよ」


 男は首を振った。


「いや、相手はエルフでもない」


 商人は別の武器を持ってきた。


「もしかして敵はトロールですか? これは勇敢ですな。ならば武器には槍が最適でしょう。巨人のトロール族には普通の武器は届きません。しかし槍でしたらトロールの目にも届きます」


 男は首を振った。


「いや、相手はトロールでもない」


 商人はまた別の武器を持ってきた。


「もしや、相手はドラゴンで? これは勇敢を通り越して、無謀といえますな。しかし本気であるならば弓をオススメします。なにしろドラゴンは飛べますから」


 男は首を振った。


「いや、相手はドラゴンでもない」


 商人は首をかしげた。


「ではいったい何を殺すのです?」


 商人が聞いても、男は意味ありげに微笑むばかりで答えようとしなかった。


 そうしてようやく、商人は自分の勘違いに気が付いた。


 商人は倉庫から最後の武器を持ってきた。


「人間相手には、これが一番ですよ」


 男の前に置かれたのは、ドクロのマークの入った小瓶。


 男は喜んで小瓶を購入した。





【朱の騎士】ベルレルレンの物語が終わった。


 興味津々で話を聞いていた【放浪の姫君】レィナスが、大きくうなずいた。


「なるほど。面白い話であったな。わたしにはよく理解できたぞ」


「ほう、わかりましたか。では姫君の理解の程を、お話いただけますか?」


「うむ。この話から読み取れる真意。それは……」


 レィナス姫はすっと息を吸い込んで、大声で答えた。


「毒、最強!」


 自信満々で、恥じることも疑問を抱くこともないレィナス姫の言葉であった。


 一瞬あっけをとられたベルレルレンであったが、深く嘆息したのちに、その脳みそがたりない姫の後頭部を、渾身の力で思い切り引っぱたいた。




《俺が一番怖い敵? そりゃ決まってるさ。笑顔で武器も持っていない奴だよ。こいつが一番怖い。手土産付きなんて、怖くてしょうがないね》

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