第3話 放浪姫の武具

 放浪の旅に出ることになったレィナス姫は、旅に持っていく武器をなににするか考えていた。


 宮廷で働いている侍女が、剣をレィナス姫に勧めた。


「剣こそが最上の武器と聞きますわ。誰もが使っている武器なのですから、きっと扱いやすいでしょうし」


 レィナス姫が決めかねていると、別の侍女が槍を姫君に勧めた。


「姫君様。槍こそが最上の武器と聞きますわ。柄がとても長いから、相手の武器が届きませんもの」


 それでもレィナス姫が決めかねていると、別の侍女が弓を姫君に勧めた。


「姫君様。わたくしは弓こそが最上の武器と聞きましたわ。離れた場所から一方的に射ることができますもの」


 レィナス姫は色々と侍女たちの話を聞いていたが、しかしそれでも決まらなかった。


「さて、どうしたものか」


 姫君は喋りまくる侍女たちから離れ、一人、中庭において思案に暮れていた。


 そこへ赤い鎧を着た騎士が通りかかった。【朱の騎士】ベルレルレンである。


「さすが放浪の旅を決意なされた勇猛なる姫君。その慧眼には感服いたします」


 ベルレルレンはレィナス姫に深々と頭を下げた。


「……慧眼も何も、わたしはまだ結論を出してないじゃないか」


「武器を扱ったことのない者の話を聞いただけで、その武器のことがわかるとは。並の武芸者に出来ることではありません」


 皮肉の混じった言葉を聞き、レィナス姫は少し苛立った。


 だが意見はもっともであったので、レィナス姫は武器を決めるのを先延ばしすることにした。





 レィナス姫は城の中庭に古今東西のあらゆる武器を取り揃えさせた。


 居並ぶ武具の数々に満足すると、レィナス姫はその一つ一つを試しに使ってみることにした。


 中庭には、同席を命じられた【朱の騎士】ベルレルレンもいた。


「お前の意見も聞くぞ。良いな?」


「なんなりと。それで姫君は、今日中に自分に合う武器をお探しになるおつもりですか?」


「そのつもりだ」


「さすが放浪の旅を決意なされた豪胆なる姫君。その慧眼には感服いたします」


 以前に言ったのと似たような台詞をベルレルレンが言った。


 レィナス姫はそれがすぐに皮肉と分かり、意図を尋ねた。


「どういうことだ?」


「一日で結論が出せるほどのご慧眼の姫君に、わたしなどの助言は必要ないでしょう」


 ベルレルレンののらりくらりとした言葉に、レィナス姫は更に苛立った。


「お前は意見を言うためにここにいるはずだぞ」


「それもそうでしたな。ではご意見をするとしましょう。姫君のやり方では決して見つかりません」


 ベルレルレンは一つの武器につき、せめて一日を使って試行錯誤をする必要を説いた。


 だがベルレルレンはそう説明しつつも「どうせいうことを聞きやしないだろう。姫なんて生き物はどうせ飽きっぽいだろうし」という気持ちでいた。


 ベルレルレンの侮蔑した心はレィナス姫にも伝わり、姫の高すぎるプライドを更に苛立たせた。


 苛立ちのあまり、レィナス姫はベルレルレンの予想を裏切ってやろうと決めた。


「いいだろう。一つの武器につき一日だな。やってやる」


 レィナス姫は当て付けるようにのように言い放ち、結果として熟練の騎士ベルレルレンの言う通りにした。


 そして二ヶ月ほどが経過した。


「よし。これに決めた!」


 レィナス姫はようやく旅に持っていく武器を決めた。


 それは鎖付きの鉄球であった。


 およそ王族の姫君に適した武器ではなかったが、しっくりとくるその形状と重みに、レィナス姫はたいそう満足した。




《最強の矛と最強の盾が見つかったか。そいつは良かった。で、お前はなんでそれが最強だとわかったんだ。何を切った? 何から防いだ?

 まさか使ったことがないなんて、言わないよな?》

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