第85話 暴君竜と魔王②

【火炎山の魔王】ガランザンは【林冠】パヌトゥと配下のゴブリンたちを引き連れていた。


 暴れまわるドラゴン、【暴君竜】カーンの討伐するためである。


 ガランザンたちは、カーンの前へとやってきた。


 だが戦いを始める前に、まずはパヌトゥがカーンへと話しかけた。


「ドラゴン様。貴方様の望みは何でしょうか?」


 パヌトゥは危険なドラゴン討伐戦ではなく、話し合いで解決をしようとしていた。


「エルフよ。我は恐ろしいのだ。お前たちがいつか俺を殺そうとするのではないかと思い、夜も眠れない。だからお前たちを殺す」


「我々はドラゴン様を殺そうとは思っておりません」


「信じられぬ。お前たちがことごとく死ねば、我もその言葉を信じよう」


 それは今までカーンが滅ぼした国の全てで行われた会話であり、そして今もまた繰り返されていた。


 パヌトゥは粘り強く説得を試みた。理路整然とした納得せざるを得ない説明であった。


 だが理屈ではカーンの恐怖に基づく戦意を消すことが出来ない。


 カーンはなおも喋り続けるパヌトゥに近づいた。


 今までは、カーンが説得者を一飲みにしてお終いである。


 しかし今回は違った。


 パヌトゥの傍には、魔王ガランザンがいたからだ。


 舌を伸ばすカーンに、大剣を担いだガランザンは立ちはだかった。


「お前は何者だ?」


「【火炎山の魔王】ガランザンである」


「そこをどけ。そのエルフを食い殺してやる。お前はその後だ」


「断る」


「お前は……。我に何の用だ?」


「俺は貴様を殺しに来た」


 ガランザンに言い放たれ、カーンはそれを正面から受け止めた。


 一瞬にして凍りついた空気は、暴発寸前にまで張りつめ、魔王とドラゴンの間の空間を歪めた。


 それはカーンが生まれてからずっと恐れていた言葉であり、今まで一度も言われたことのない言葉でもある。


「おぉぉぉ!」


 カーンは大気を揺らすほどに遠吠えし、自身を鼓舞して体から恐怖を追い出した。


「来たか! ついに我を殺す者が来たか!」


 カーンは大地を揺らすほどに踏みしめ、ガランザンに改めて向き合った。


 ガランザンもまた大剣を構え、部下のゴブリンを下がらせるとカーンに対峙した。




《恐怖よ。我はお前が怖くて仕方ない。お前を消えされるのなら、他人なんていくらでも殺してやる。世界中を殺してお前がまだ生き残っていたら、我は我を殺してやろう》

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