第62話 船を調達

 正式に神官から貰った仕事ができた訳だけど、内容としてはかなり宗教的なものと言えるだろう。それこそ、女神を信仰していない人間に対して話すことも憚られるような内容なのだが……ギルドとして受けたい依頼なので、シェリーとクロト、それからオーバにはしっかりと話しておく必要がある。

 それで、重要だと俺が考えた3人を集めて事情を説明したら、シェリーはすぐに反応した。


「白き神獣が、まさか生きているなんて思っていませんでした」

「白き神獣?」

「女神に仕えた神獣は白き神獣と呼ばれて絵画にも何度も描かれているんです。大聖堂にある有名な『女神降臨』の絵画にもしっかりと描かれているでしょう?」

「でも、降臨した時はまだ神獣じゃないだろ」

「あくまで芸術ですので」


 えぇ……絵を描く人ってのも存外適当なんだな。まぁ、宗教画なんてのはわかりやすいものならばそれで良いってことなのかな。確かに、海外に明確なストーリーなんて用意したって教養がない人間にはその奥まで作られたストーリーが読めない訳ないんだから。識字率が100%でもないならなおさら明確なストーリーなんて意識する必要はないのかもしれない。


「で、その白き神獣がいるかもしれない場所を探してくれ、と」

「依頼の内容としては物探し、そして依頼による報酬はそこまで多いとは言えません。ですが……聖女シェリー・ルージュが所属しているギルドが神官の依頼をこなしたとなれば、それなりに話題にもなるでしょう」

「言いたいことはわかるが、それでは神官の私兵だと思われないか?」

「そうならないために、この依頼を終えた後はしっかりと他の依頼もこなしていくんです」

「行動で黙らせるって考え方か。ハイリスクではあるが、ハイリターンか」


 オーバの言う通り、俺たちが神官の私兵扱いされて評価が伸びない可能性は大いにあるが、逆に言えばそれぐらい人々に認識されることになるだろうと言うことだ。もし仮に、神獣を見つけてきてこのフェラドゥに連れてくることができたら、その評価を確固たるものにできるだろう。


「すみません。ギルドの評価なんて関係なく、女神に仕える人間として神獣探索はさせてください」

「わかってるよ。だからこの話を依頼として持ってきたんだから」


 シェリーがこの話を聞いたら、ギルド内で否決されて依頼として無効になったとしても個人で探しに行くだろうというのは想像できていた。神獣は女神に仕えた騎士のような存在で、同じく女神に仕えて世界を正しい方向に導こうとしている神官や聖女としては是非とも無事を確認して顔を合わせておきたい相手だろう。


「待て、受けないとは言っていない」

「それもわかってますよ。この博打、乗らないなんてありえないでしょう?」

「お前、やっぱり悪い奴だろ。どう考えても顔が悪い感じだもん」

「失礼なこと言わないでくださいよ。これでもクリーンな探索者として活動してるんですから」


 クロトからの不本意な評価に対してなんとなく反論する。ちょっと悪い顔はしていたかもしれないが、俺たちは今まで一度もグレーゾーンなこともしたことがないホワイトカラーな探索者ギルドだ。エルフたちの聖域に無断で立ち入ったことはあるが、あれに関してはエルフ側のルールを破っただけで、人間としてはただ森の中に入っただけだから。俺たちはホワイトカラーでクリーンな探索者だ……誰がなんと言おうとも、な。


「南の孤島……地図は確かにそれらしい場所が載っていたはずだが、当然だが行ったことなんてないよな?」

「勿論です。なんなら、俺はこのフェラドゥ周辺から外に出たことがないですよ」


 自慢ではないがこの王都に引き籠って生きてきた人間なので、孤島どころか他の都市にすらまともに行ったことがない。行ったことがあるのはレスターぐらいなもんだ。


「無人島なのだから当たり前だが、孤島までの船は出ていない。つまり……俺たちは自力で海を渡らないといけない訳だが」

「船を買えばいいのでは?」

「そうだな。そんな金があればな」


 あー……金がないのは何処のギルドも同じってことだな。勿論、俺たちみたいな弱小ギルドよりも『紅蓮獅子』の方が金は持っているだろうが、海を越えて孤島まで安全に迎えるような船となると確かに金がかなりかかるだろう。


「わかっていると思うが、命が金で買えるのならば安く済ませようなんて考えは全くない」

「神獣探索の前にちょっと金策が必要ってことですね」


 世知辛い話だが、ギルドに所属しているのは俺たちだけではないのだ。金に少し余裕が生まれたからってギルドにある金に手をつけて船を買うって訳にはいかない。あくまでもギルドの金を管理しているだけであって、別にギルドマスターのものって訳ではないからな。


「あの……船ぐらいなら聖堂の方から出せると思いますよ?」

「本当か!?」

「え、でもあの宗教団体にそんな船なんて……あったな」


 そう言えば、海を越えて他の国にも布教活動をする為の船があるって聞いたことがあるわ。海を越えた大陸でも女神の存在は認知されているが、ここの人々みたいに日常生活に関わるほどの深く女神のことを信仰しているような国は多くない。なので、女神の存在が本当であったこと、そしてその女神によって世界が今も平和でいられることを説きに言っている時があるらしい。まぁ、予想通りだがあんまりいい顔はされないらしいが。

 ま、どんな理由があるにせよ、女神に仕える者たちにはそれ用の船があるってことだ。シェリーはきっとそのことを言っているんだろう。


「でも、そんな大切なもの借りれるのか?」

「普通は無理だと思いますが、依頼主は神官ですし、なにより神獣を探索しに行くための足が欲しいと言えば、快く貸してくださると思います」

「確かに」


 普通に探索者の依頼程度に考えてたけど、シェリーが個人的な感情でも探したいと思うように、女神を信仰している人間からすると神獣を探索することはかなり重要なことになるだろう。増してや、今回は当てのない旅をする訳ではなく、目撃情報があった場所へと向かうのだから協力もしてくれる可能性が高い。


「じゃあ、他の神官にも話を通しておいた方がいいのかな」

「それは私に任せてください。これでも聖女として彼らに敬われている立場ですから」


 なんとなく胸を張ってドヤ顔をするシェリーに対して、ちょっと苦笑いを浮かべてしまったが……まぁ、頼りになることは間違いないので甘えておこう。

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