第81話 神様ってすごい
「取り敢えず力は受け取っておく……デザスターをなんとかしてやらないといけないからな」
『え!? あの子はまだ元気にしてる!?』
「……知らないのか?」
『うん。だって世界中の全てが監視できる訳じゃないから……心配してたんだよね。あの子、敵を裏切って私の方に来たでしょ? だから報復されてるんじゃないかと思って』
「されてる最中だな」
『えぇっ!?』
当たり前だろ。
普通に考えて、女神がいなくなっているならば魔の者にとって目下最大の敵はデザスターになるんだから、そこで何もせずに放置している訳がない。魔の者は結局、人間のことなんて全く警戒していないんだから。多分、あっちにとって人間は女神の背後に隠れて泣きつくことしかできない無力な生き物ぐらいにしか思ってないよ……その驕りを利用してなんとかしたいなと思ってるのが俺なんだけど。
『そんなぁ!? な、なんとか助けてあげないと……どうしよう!?』
「だから、その為にその力が必要だって話をデザスターとしてきたんだよ。だからさっさとくれ」
『私の力が……あ、異次元から干渉できなくしたいってことね! なるほどなるほど……やっぱりデザスターは頭がいいね!』
お前の頭が割と残念なだけではないのかと思ったが、隣にシェリーがいるので流石に黙っておいた。イメージと違う女神が出てきたせいで頭を抱えて現実逃避をしているシェリーだが、きっと俺が女神の頭が悪いって言ったら複雑な気持ちだろうし。
「……女神様が考え足らずなだけでは?」
言ったよ!? 俺が自重したのにシェリーが言っちゃったよ!
言われた女神様も、自分の信者である聖女に酷いこと言われて固まったよ!? しかもちょっと涙目になってるし!
『ち、力をあげるわ!』
「投げるなっ!?」
祭壇の上で光り輝いていた力をそのままこちらに投げつけてきた女神は、その瞬間に姿を消した。恐らくだが、力に意思が宿っていただけで、女神自身の意識がしっかりとこの場所に残っていた訳ではなかったのだろう。
投げ渡された力を受け取った訳だが……俺の身体になにか変化が起きた訳ではなかった。なんかちょっとぼんやり身体が光っているだけだ。これは……俺には女神の力を使いこなすことはできないってことなのかな?
『人間に女神の力が使える訳ないでしょ? 私が使うから安心して!』
「……人の身体の中で騒がないでくれますか? てか、勝手に人の身体に入らないでくださいよ」
『ふふん! 君は私が選んだ人間なんだからいいの! 君が世界を救うんだから……世界を救ったらきっと女の子にモテるよ?』
「そんなんでモテたら苦労しないですよ」
腕をぶんぶん振ったりして力が使えないものかと試していたら、身体の内側から女神の声が聞こえてきたのでちょっとイラっとして言い返した。モテるとか女神が軽率に言うなよ……努力したって生まれからして既にモテないことが確定している人間だって世の中にはいるんだからな? まぁ、俺にはシェリーがいるから既に勝ち組なんですけどね。
『うわ、キモ』
「出てけ」
『嘘! 嘘だから! 女神様ジョークってやつ!』
「人が笑えないジョークは駄目だろ」
『ド正論!』
幼女の女神、普通に腹立つな。とは言え、デザスターを助けるためにもさっさと力を手に入れて孤島に戻らなければならないからな……正直、この砂漠からはさっさとおさらばしたい気分になっている。
砂漠の遺跡を出て、サンドリザードに乗ってグレイルまで戻ってきた俺とシェリーは、そのままさっさと街を飛び出してフェラドゥに戻る為、砂漠を歩いていた。理由としては、俺たちが砂漠の迷宮に向かったことはグレイルの方でも把握しているはずなので、俺たちが行った後に迷宮内の構造が大きく変わってしまっていることに対してなにか言われることを面倒だと思ったからである。俺たちは他国からやってきた探索者な訳だし、中で何を見つけたのかを物凄く細かく聞かれることになると思うと……逃げ出したくなる気持ちも理解して欲しいと言うものだ。
真実を話すなんてことはできない。まさか女神が作った神殿が奥に存在していて、そこには女神の力が封印されていたんですなんて言える訳がない。しかも、その力には女神が幼女化した意識が残っていて、俺の身体の中に今はいるんですなんて言ったら間違いなく精神がおかしくなったと思われるわ。
『デザスター、何か言ってなかった?』
「なにかって?」
『ずっと放置してる私に対しての恨み事とか』
「……感謝の言葉は聞いたけど、恨みとかは聞いてないな。できたライオンだよ」
「あの、できたライオンって言い方はやめませんか? 流石に神獣に対して失礼だと思うんですけど……」
「でも、この女神よりはマシじゃないかな」
シェリーは反応に困るって顔をしているが、女神の信仰者であるシェリーが女神の頭がヤバいって話に対して怒る訳でもなくて反応に困っている時点で駄目だろ。
『いいもん! 女神としての威厳は自分自身の力で証明して見せるから! ちゃんと復活したら人間の守護者としての力を存分に見せてあげるわ!』
「それはいいんだけど……俺、女神の名前を知らないんだよな」
「え?」
ふと思ったのだが、人の身体の中に入ってきた失礼な神様の名前すら知らない。そもそも俺をこの世界に転生させてくれたって言うのに……名前すら知らないなんて割と失礼なんじゃないかな。
「知らないんですか?」
「うん」
「いえ、そうじゃなくて……女神様に名前なんてありませんよ?」
「そうなの?」
『いやー……これには深い事情があってね?』
ふむ……反応的に名前が失われた、みたいな感じなのかな?
名前と言うのはその存在そのものを示す重要なものだ。その名前を失っていることが、力と魂と肉体に別れてしまっている原因にもなっているのかな。
『名前は……消されちゃったんだよね』
「魔の者に?」
『うん。アイツは塗り潰す力を持ってるから』
塗り潰す……絵の上から黒色の絵の具をぶっかけて消しちゃうみたいなもんなのかな。その能力で女神は名前を消されて、ここまで弱体化しているってことなのかな。でも、魔の者も力を失っているんだよな。
『私の名前が人間に伝わっていないのは消されちゃったから。魔の者って呼ばれてるアイツの名前が伝わっていないのは私が意図的に隠したから……隠すことで復活を遅らせてるんだよ』
「なにその超概念的なバトル」
神様ってすごい。
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