第82話 女神は色々と雑
「デザスター! 女神の力を持ってきた、ぞっ!?」
『おぉ、すまない』
俺とシェリーが再び白き神獣であるデザスターが待っている孤島へとやってきた。森を抜けてデザスターがずっと黒山羊と戦っていた場所へとやってくると、そこでデザスターが太陽を背負って黒山羊を消し飛ばしている最中だった。デザスターが放った光の魔力は、黒山羊と森を吹き飛ばした勢いのまま海水まで簡単に蒸発させていた。その威力と魔力の波動に俺とシェリーは圧倒されてしまっていたのだが、デザスターはこちらに気が付くと愉快そうな声で笑いながらゆっくりと近づいてきた。
デザスターは俺も
『それはリンネが人間としての力しか持ってないからだよ。君も私と同じような神の力を手に入れたらその小さな身体のままデザスターが使う魔法よりも強力な魔法を使えるようになるよ』
「遠慮しておく」
人の心の声を理解して喋り出した女神に対しては適当に返事をしておく。しかし、女神の声を聞いたデザスターは、ずいっと俺に顔を近づけてきた。
『お前、まさか本当に女神の力を持って来るとは思わなかったぞ……それにしても、なんだその姿は。ぶはははははっ!』
『笑うな馬鹿!』
俺が女神の力を持って帰ってきたことに本当に驚いているって感じの表情を浮かべていたデザスターだったが、次の瞬間には堪えきれないと言わんばかりに笑い始めた。その笑い声に反応して、すぐさま俺の身体の中から幼女となってしまった秩序の女神が飛び出してくる。
ぷんすこ、という効果音がつきそうな動きをしている秩序の女神に対して、シェリーは苦笑いを浮かべており、俺はちょっと冷めた目を向けていた。
「んん……これで、隣の次元から無限に黒山羊がやってくるのを止めることができるのか?」
『ひー……ふふ……あぁ、すまん。前にも言ったが、次元に関しての詳しい知識が無ければどれだけの力があっても隣の次元を想像することもできずに、それを閉じることなどできないぞ』
「だよな……だから女神もついてきたのか?」
『次元を閉じるぅ? そんなことできたら私だって魔の者に苦労してないよ』
よくよく考えてみれば、そうか。
女神が自由に隣の次元に干渉してその扉を閉じることができるのならば、彼女はこの世界でわざわざ激しい戦いを起こして地上に幾つもの傷跡を残しながら魔の者と戦ったりしないだろう。てことは、魔の者が無限にこちらに送り込んでいる黒山羊に対処することは不可能ってことか!? 俺たちは何のために砂漠まで行って芋虫の体内で迷ったんだよ!
『次元を閉じることなんてできないけど、その無限にモンスターの召喚してくることへの対処方法は知ってるわよ』
「本当か!? 別に次元を閉じなくてもモンスターの対処さえできればそれでいいんだよ」
『なら簡単。ちょっと身体借りるね』
「へ?」
身体を、借りる?
俺の疑問に女神が応えるよりも早く、俺の身体に再び潜り込んだ女神によって、本当に俺の身体が勝手に動き出した。
「うぉっ!? なんだこれ、何が起きてる!?」
「り、リンネさん!?」
『私の力を取り込んでるんだから、私がちょっと身体を借りるぐらい当たり前だよ。言ったでしょ? 私が復活するには依り代が必要だよって』
「俺かよ!」
そこは儀式を済ませた巫女とか、そういうのを想像していたんだよ!
俺の抗議の声なんて無視して、秩序の女神はそのまま俺の身体を操って女神の力を解放する。その瞬間、身体の内側からとんでもない量の魔力が溢れ出し、周囲の木々を吹き飛ばした。
『……相変わらず出鱈目な力だな』
「す、すごい……これが女神様の、力?」
『魂も肉体も無いからまだ完全ではないが、確かにこれは女神の力だ』
これで万全じゃないのか……この世界に存在している唯一神なだけはあるってことだな。いや、だとしたらその化け物みたいな強さを持っている女神と対等に戦えていた魔の者って何者なんだよ。
女神が力を解放すると同時に、空間に歪みが発生していた。これは隣の次元から黒山羊のモンスターが出現する前兆なのだが……いつもと雰囲気が違う。
『ふふん。私の力を感知して更に強力なモンスターを召喚しようとしているみたいだね』
「大丈夫なのかよ!」
『まぁ見ててよ……女神様の威厳ってやつを見せてあげるからさ』
少し得意げにそう言った女神は、俺の身体を使って歪み始めた空間に向かって掌を向ける。その直後、空間を引き裂いて現れたモンスターを見て、シェリーは表情を歪めた。なにせ、空間からずるりと顔を出したモンスターは、あらゆるモンスターの特徴が合わさった気色の悪いキメラだったのだ。とにかく力だけを求め、生物としての造形を捨てた圧倒的な魔力の塊を前にしてしまえば、人間ならば誰でも表情を歪めてしまう。しかし、女神はそんなモンスターにも慣れているのか全く反応することなく、掌に集めていた魔力を無造作に放出した。
人間の拳ぐらいしかない小さな光の球を放った女神に対して、キメラがあらゆる生物の声が混ざったような不気味な咆哮を口から放ちながら、ずるりと前脚を出現させた──次の瞬間には、女神の光が膨張してぼっという音と共に消し飛んだ。
「きゃっ!?」
『おっと』
小さな光の球から放たれたとは思えないほどの爆発から、シェリーと俺の身体を庇うようにデザスターが前に立ってくれた。
『はい、なんとかしたよ』
「……これで?」
『うん』
光の球を放ってモンスターを消し飛ばしただけにしか見えなかったのだが……ちらりと地上を見ると、先ほどデザスターが黒山羊を消し飛ばした時とは比べ物にならない程の範囲が禿げあがっていた。しかし、今の攻撃だけで対処ができたとは思えないのだが……どうやったのだろうか。
『空間を引き裂いて現れるなら、その向こう側にまで届く攻撃すればいいだけじゃん?』
「……脳に筋肉でも詰まってる?」
『ムカっ! でも、次元に干渉する手段がないならこれ以外の解決方法なんてないじゃん? だから合ってるの』
確かに、こちらから干渉する方法が無いのならば敵が開けた瞬間に向こう側に届くような攻撃をすればいいのかもしれないけど……これが秩序の女神か? やってることはかなり脳筋だと思うんだけども。
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