第80話 女神降臨?
「さて、あれが神殿の最奥……女神が作り出したものじゃ。お前さんらのように女神の意思を尊重する者をずっと待っていた……まぁ、ここ数百年は芋虫に入口をずっと占拠されていたからそんな奴が来ていたかどうかもわからないがな」
「数百年? 嘘だろ?」
この骨は何年前から生きてんだよ。いや、骨だからいいのか……いいのか?
「奥には何があるんですか?」
「知らん」
「え」
「儂はここを守るように言われておるだけで、奥に何が隠されておるのかなんて全く知りもしないわ。興味もあまりないしな」
興味ないって……なんでそれで数百年、もしくはそれ以上も……それで意識が持っているかわからないぐらいにやる気のない感じだな。
「今まで何してたんですか?」
「見たいか? 儂がここで何をしていたのか?」
「う、うーん……見たいような見たくないような」
人間が考えられるような時間間隔の外側に位置している成果を見てみたいと思えば見てみたいが……覗いたら何が出てくるかわかったものではないからちょっと敬遠してしまう。
「ま、儂の話はいい……さっさと奥に行け」
「行こうか」
「え? 本当に見ないんですか!?」
「見てもしょうがないだろ」
俺たちは元々、女神の遺した何かを探しに来たんだから。結果的に意味があるものなのかどうかはわからないが、あの骨が作った何かを見るよりはよっぽど有意義だと俺は思うけどな。
さっさと先に進んでも骨のおっさんは特になにかを言うこともなく、そのままこちらを無言で見送ってくれた。本当に魔の者からここを守っていただけで、俺たちみたいな女神の声を聞くような人間には干渉してこないらしい。見た目からして魔の者の関係者だと最初に思ったことは心の中で謝っておこう。
階段のような場所を上り、最奥へと向かった先には……まるで空間そのものが変わったかのような厳かな神殿があった。ちらりと振り返ってみると、古い砂漠の中の遺跡であることには変わりがないようだが、ここだけどうも見た目が全然違う。
通路は黄土色のレンガのようなもので作られていたのに、ここは大理石のような美しい白色で統一されている。経年劣化したような様子も見られないし、まるでここだけ時間が止まっているかのようだ。そんな雰囲気を感じ取っているからなのか、シェリーも息を呑んで慎重に歩いているようだ。荘厳な建物を見ると、どんな人間もそんな風に身構えてしまうものなんだな……俺もちょっと足を踏み入れていいのか迷っていたんだけど、シェリーが慎重にとは言え普通に入っているから後に続く。
通路脇で揺らめく炎はどのような原理で燃えているのか、それすらも気にならないほどに神聖な雰囲気を肌で感じてしまって、踏み出す1歩が少しずつ小さくなっている。
『遅いっ! もっと早く来てっ!』
「へ?」
「おわぁっ!?」
2人でゆっくりと歩いていたら、いきなり背後に飛びつかれて腕を掴まれ、そのまま引っ張られて俺は引きずられるような形で神殿の奥まで移動させられた。慌てて俺を追いかけようとシェリーも走ってついてくるのだが、どうにも移動速度が早くて追いつけないようだ。
「お前、女神かっ!?」
『そうだよ!』
「なんか幼くなってないか!?」
『ここには私の力しかないからいいのだー!』
どうなってんの!? 自分を分割して封印しているのか知らないけど、力はこんな幼女みたいな感じになってるってことか!?
俺の腕を引っ張る幼女は、身長で言うと130㎝ちょっとぐらいしかなさそうだ。こんなの小学生の低学年レベルだと思うんだが、妙に力が強くて引き剥がすこともできずにそのまま俺は引きずられているしかできなかった。
『到着っ! ここが私の力が封印してある場所……白の神殿だよ!』
ようやく俺の手を放してくれた秩序の女神は、そのままくるくると空中を飛び回りながら中心の祭壇でぼんやりと光っている魔力の塊を指差しながら笑った。
「リンネさん!」
「シェリー……大丈夫か?」
「こっちのセリフです!」
そりゃあそうだ。
『おぉ、今代の聖女ちゃんもやるねぇ』
「今代の?」
聖女は人々が勝手に呼び始めただけの二つ名のはず……確かに、今となってはシェリーの代名詞みたいなもんだし、教会側も聖女という役職を勝手に作ってそう呼んでいるけど……まるで前から聖女という人物がいたかのような言葉だ。
『聖女について教えてあげてもいいけど、聞きたいのはもっと別のことでしょ?』
「そうだな。魔の者についてとか、デザスターについてとか、そもそも分割されて封印されている理由とか、こんな砂漠に力を封印していた理由とか──」
『わー! わー! 一度にいっぱい聞かないで!』
「……幼児退行ですか?」
「よくわからないが、ここの女神は幼女らしい」
本当によくわからないけど。
『それに、私はなんでも知ってる訳じゃないんだよ?』
「秩序の女神なんだから世界のことなんて基本的に何でも知ってるだろ」
『ぶぶー! 私はただの力の結晶でしかないのであんまり知りませーん! 知りたかったらフェラドゥにいる本体に聞いてね』
「あの神殿にいるのって本体だったのか」
「本体!? 秩序の女神様はあの神殿にいらっしゃるのですか!?」
『そうだよ? 声だけだと思ってた?』
そりゃあ、誰だって声だけだと思うだろ。まさか神殿に本体が住んでいるなんて、女神を信仰している人間だって信じないような嘘だぞ。
『なんでもいいけど、取り敢えずリンネがこの力を受け取ってよ』
「あぁ……ん? ちょっと待て」
『なに?』
「力、魂、肉体の封印を解除して復活させるんじゃないのか? なんで俺が受け取るんだよ」
『それのこと? そもそも力と魂と肉体を集めて私は復活しないよ?』
んん? そもそも前提からしてかなり崩れたんだけど……自分が復活すれば大抵のことはなんとかなるとか言ってませんでしたかね?
『復活するには君の力が必要だし、なにより依り代が必要だよ! 完全復活して独立するにはあと1000年ぐらい待ってね』
「待てるか!」
人間の寿命をなんだと思ってやがる。
『あ、でも安心して欲しいのは、アイツが復活するよりは早いから! あっちは……多分あと1万年ぐらいかな? そんなに変わらないけど、ギリギリ間に合うよ!』
「そんなに? あの……9000年も違うんですけど」
『寝て起きたら一瞬じゃん』
あ、シェリーすらも唖然とした表情のまま固まってしまった。声を聞いて信仰していた女神が幼女の姿だからとは言え、これだからな……まぁ、ショックを受けるのもわかる。
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