第56話 物騒な威嚇

 同盟を結ぶことに絶対反対と言う訳ではないが、同盟相手の実力を確認しておきたい。まぁ、普通に考えて見ればごく当たり前のことであり、俺もその条件を飲むことでしっかりとわだかまりを解消してから同盟を結びたいと思った。

 ギルドの副代表をしているオーバとしてはとても当たり前のことを言っているし、冷静になれるストッパー役がいると言うのはこちらとしても非常にありがたいことだ。ギルドマスターが切れ者で圧倒的なカリスマを持って率いているギルドでもないと、基本的にはこういう補佐役がいることで運営が上手くいくようになっているはずだ。


 で、俺の実力を確認したいと言うのはわかるのだが……なにかしらモンスターを討伐してくるように依頼でもされると思っていたら、まさかの決闘だった。確かに、実力を直に確認するって話ならばそちらの方が楽かもしれないけど、シェリーのように対人戦に向いていない魔法を使う人とかどうやって判別するのだろうか。シェリーなんて神聖魔法がなくても戦えるぐらいの経験はあるだろうけどね。


「決闘に勝てなんて言わない。ただ、お前の将来性を見たいと思ったからこの決闘を用意した。今回は勝てなくても、動きや魔法の使い方に将来を見込めれば、俺たちにとっても大きなメリットになるし、他のメンバーも説得しやすい……これだけの人数が見ていればな」


 決闘をするって話になってから、そんなに時間が経っていない筈なのに何故か『紅蓮獅子』のメンバーがそれなりに集まっていた。これだけの人数の目の前で力を示すことができれば、確かにギルドを纏める側としても楽だろうな。一々、説明や説得する必要がないんだから。


「なぁ……オーバ、あいつは大丈夫だって。なんなら俺より絶対に強いから」

「お前の謙遜はいつものことだから信用していない。大体、お前は簡単に人のことを信じすぎだ……この間もそれで運営資金を騙し取られそうになっただろう」

「あ、あれは事故だって言ってるだろ!?」


 ギルドマスターであるクロトは、俺のことを自分よりも強い人間だと思っているのか決闘なんてやる必要がないと言っているが、実際に力があるかどうかは問題ではないのだ。多人数の前で力を見せつけることで、ギルド内で受け入れる風潮を作ることの方が目的……恐らくだが、オーバだって俺のことをそれなりの実力者だと考えているのだろう。そうでなければ……決闘相手に自分の所の主力を出してこないだろう。


「手加減無しでやれよ、オリーブ」

「誰に言ってるんだか……アタシが手加減なんてできない女だって、知ってるだろ?」


 見るからに強そうな女が出てきたな、と俺は思っていたのだが……どうやらマジでギルドの主力級らしい。多分、本当に俺のことを実力が未知数の奴だと思っているのならば、もう少し弱い奴……あんまり良い言い方ではないが主力よりも劣る奴を出してきたはずだ。なのに、俺に対して自分たちのギルドの主力級をぶつけてくるってことはそれだけ俺の実力を認めていると言うことだ。

 オーバなんて初めて会ったのに何故俺の実力をそこまで評価しているのか。それはきっと、地竜討伐の話をクロトから聞いているからだろう。最終的には俺たち『夜明けの星』が、クロトに協力してもらいながら倒したのだが……ダメージを与えていたのは基本的にシェリーの神聖魔法だ。しかし、シェリーだけが強いギルドだったとしたら、そもそも地竜を相手にして生き残っている訳がない。ドラゴンを討伐した実績と言うのは、それだけの名声を生み出すってことだな。


「では、初め!」

「アタシの方が一応格上だから、先に撃ってきていいよ」

「そうなんですか? ありがとうございます」


 決闘が始まってから、オリーブと呼ばれた気の強そうな女性は、いきなり先制攻撃するチャンスをくれた。その赤い髪のように闘争心が燃え滾っていることは見ればわかるのだが、多分……なんの見せ場もなく自分が倒してしまうかもしれないから先に攻撃してもいいって言ってるんだろう。それと、微妙に挑発の意味もあると思う。

 残念ながら俺は先に攻撃していいって言われたら遠慮なく攻撃するタイプなので、挑発は効かない。そして……相手が何もしない状態で突っ立っているのを見て、小手先の技を使うほど俺は甘くない。


「死なないように気を付けてくださいね」

「ほう? 自信ありって訳ね?」

「そうですね……殺しちゃったら同盟を結べなくなっちゃいますから」


 相手が突っ立っているのならば狙いをつけるのは簡単だ。俺はオリーブを真正面に見据えながら


「あっ!? マズい回避しろオリーブ!」

「クロト?」


 あぁ……そう言えばクロトの前ではもう見せていたな。こちらの足が止まり、狙いがつけやすい相手にしか使えない魔法だが……威力は絶大。当たれば人間なんて簡単に死ぬような魔法だけど先に警告したし、クロトもああやって焦りながら大きな声を上げて警告してくれているから大丈夫だろうと信じて放とう。


「馬鹿野郎! あれに立ち向かおうとするんじゃねぇ! 死ぬぞ!?」

「クロト、お前はさっきから何を言っているんだ?」

「今、あいつが使おうとしてる魔法に関してだよ!」


 クロトの警告を聞いて、戦闘態勢にもならずにそのまま突っ立っていたオリーブは、即座に戦闘態勢に入って受け流そうとする構えになっていたが、それを見て更にクロトは焦りを浮かべて警告を強めた。隣に立ってその様子を見ていたオーバも、そのただならぬ警告の仕方に疑問を持っているようだが……俺には関係のない話だな。


「あんなの人間の身体で受けていい魔法じゃねぇんだよ! なにせあれは──」


 肺の中に溜まった空気と共に、膨大な魔力を消費して前方へと吐き出す。


疑似・竜の伊吹ドラゴンブレス

「──ドラゴンの奥義なんだからな!」


 破壊の暴風が吹き荒れる。俺の口から竜の伊吹ドラゴンブレスが放たれた瞬間に、オリーブは目を見開いてから全力で横に回避していた。それでいい……勿論、角度を調整することで横にずらして追いかけることもできるが……これはこちらを舐めた様子を見せている連中への牽制だ。同盟を結ぶことになったとしても、こちらのギルドを弱小として侮られてしまっては困る。だから、オリーブに対しても、そしてこの決闘を見ている連中に対しても牽制する目的で、俺は破壊の暴風を放ったのだ。

 威力はしっかりと調整してある。全力で放ちはしたが、継続して放ったわけではないので時間にして数秒間しか竜の伊吹ドラゴンブレスは放たれていない。にもかかわらず……地形は変わってしまった。


「は、はは……こりゃあ、驚いた」

「馬鹿な……ドラゴンの、魔法を……」


 全力で横に回避した状態で腰を抜かしているオリーブと、ドラゴンの魔法を間近で見て驚き戸惑っているオーバ。取り敢えず……威嚇は成功かな?

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