第47話 4人目

 報酬を受け取りながらも微妙な顔をする俺に対して、不思議そうな顔を向けてくるセレス姫だが、シェリーはセレスの肩を叩いて俺が満足しているのだと吹き込んでいた。


「そうなのですね……てっきりまだ報酬が足りないのかと」

「いえ、もう結構です」


 これ以上を貰ったら、仕事の難易度に対して報酬が高くなりすぎてしまうので……探索者協会にもなんて言い訳すればいいのかわからなくなってしまう。いや、これに関してはあくまでも俺たちと依頼主の話だから積極的に探索者協会がなにか言ってくる訳ではないんだが……それでもやっぱり探索者としてはある程度配慮してやらないとなって思うから。


 報酬を受け取った俺たちを見て、満足げに頷いているセレス姫は椅子に座ったままニコニコと笑顔になった。


「では、次の話なんですが」

「次?」

「はい。今回の依頼によって得た情報から、研究が先に進みそうでとっても気分がいいのです。ですから、これからも継続的に迷宮に連れて行って欲しいのです。そうですね……今から探索者の資格を取得して、このギルドに所属してもいいでしょうか?」

「は?」


 え、このお姫様は何を言ってるの?


「普通に考えて他国のお姫様が探索者やってるの駄目でしょ」

「今更ではありませんか? 先に言っておきますけど、私はあまり家から期待されている人間はありませんから、外で何をしていてもあまり気にされませんわよ」

「えぇ……それはそれでどうなの?」


 一応、王位継承権を持っているような姫様なのに期待されていないってのはどうなんだろうか。確かに、王族としてみれば研究者気質な彼女は異端者としてしか見られないだろうが……それはそれとして姫様という立場の人間が他国で探索者をやる影響力をイマイチ理解してくれていない気がする。


「安心してください。探索者としてバリバリ活動するわけではなく、所属しながらスポンサーのような形で金を出す、と言うだけのことです」

「それが既に駄目だよね」


 セレス姫が持っている金ってのは基本的にアルティリアの民が収めた税金から来ているはずだから、それを他国の探索者ギルドに投資するって……普通に考えたら暴動もんだと思うぞ。


「リンネさん」

「なに?」

「これはある意味、チャンスですよ」


 一緒に反対してくれると思っていたシェリーは、両手をぎゅっと握りしめて俺に熱弁するように顔を近づけてきた。


「金を出してくれるバックがつくというのは、探索者にとって素晴らしいことです。確かにその相手が他国の姫様というのは気になるところですが、逆に言えばそれ以外は完璧な相手なんですよ?」


 まぁ……シェリーの言いたいことはわかる。

 有名な探索者に対してスポンサーがついているのは珍しい話ではない。探索者として名が知れているということは、それだけ莫大な利益を生み出す土壌が存在していると言う訳だからだ。しかし、探索者とて命をかけて金を稼いでいるのだから、全てを自分たちの金で賄うなんてことは中々に難しい。そこで、スポンサーになってくれる有力な貴族や企業を味方につけ、彼らから莫大な金を受け取り、その金を使って迷宮を攻略、それをスポンサーに還元する。更に言うのならば、この探索者ギルドの後ろ盾には誰かがついていると、周囲が認識することがかなり重要だ。基本的に他の探索者とは成果の競い合いになる関係で、どうしても汚い手を使って相手を蹴落としてやろうと考える奴は一定数現れてしまう。そんな連中から探索者ギルドを守るのが、バックの存在である。他の連中を蹴落として自分が上にと考える奴だって、貴族や有力企業を相手に喧嘩を吹っ掛ける奴はいない。いたとして、それはただの命知らずの馬鹿だ。

 総じて、探索者ギルドに対してスポンサーがつくのはメリットしかない。勿論、迷宮探索で手に入れた富の一部を徴収される訳だから全くデメリットが無い訳ではないが、そんなはした金で身の安全が買えるのならばデメリットにもならないだろう。


「どうですか?」

「私は受けるべきだと思います。それだけ、探索者にとって後ろ盾というのは大きいですから」

「後ろ盾になるか? むしろ、他国の人間を後ろつけてる売国奴ぐらいに思われない?」

「その後ろ向きな発想はどこから出てきたんですか……フェラドゥはそんな細かいことを気にしたりしませんよ。この国は色々な意味で自由ですから」


 そうかなぁ……まぁ、確かに他国から探索者志望が沢山やってきて、迷宮に沢山の人が入っても最終的にフェラドゥに還元してくれれば何の問題も無しって感じではあるのか。


「……わかった。仮って形にはなるけど、よろしく頼む」

「はい。その代わり、私の研究のお手伝いはしてくださいね?」


 迷宮で拾ってきた昆虫の節を手にしながら、セレス姫は笑っていた。それはニコニコとした機嫌がよさそうなものでありながら、何処か背筋が冷えるような……不気味な何かを感じる笑みだった。



 結果的にメンバーが増えた訳だが、現状は4人。しかも魔法を主体として戦うのが4人……非常にパーティーのバランスが悪いのは言うまでもない。ここら辺で、やはり同盟相手を探すのがいいだろう。

 俺たちはたった4人の探索者ギルドではあるが、個々の強さはトップ層にだって劣っていないと自信を持てるだけのメンバーが揃っている。依頼の報酬としてセレス姫から貰った宝玉のお陰で資金は潤沢にあるし、スポンサーが存在しているという事実……これだけで多分、同盟相手には困らないと思う。後は、信頼できる相手を探すことだけだ。


「ギルドマスターが男の所がいい」

「それは、何故?」

「女所帯に俺1人だからだよ!」


 切実な問題である。女三人寄れば姦しいなんて言うが、この三人は寄っても姦しくなったりしないが、それぞれの個性が強すぎてそれぞれが姦しくなっている。シェリーはいつも通りの雰囲気で俺にくっついてくるし、メレーナはエルフであるが故に人間社会に無知すぎる。そして、モンスターの研究になると常識をどこかに投げ出して狂気に走る隣国の姫様だ。

 俺の精神はもうボロボロ……とは言わないが、流石に男が1人の場所に住んでいるとちょっと精神が安定しないので、同盟相手でも入団希望者でもいいからとにかく男が欲しかった。勿論、前衛が欲しいからって考えもある。

 俺の切実な叫びに対して、3人はよくわからないと言わんばかりに首を傾げていた。

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