第48話 救援依頼
探そうと思っても、信頼できる相手なんて簡単に見つかったりはしない。それはわかっているのだが……じゃあいつまで経っても人を探さないと言うのはなんとも馬鹿らしい話ではないかと思う。なので、俺は同盟を結べるような信頼できる人間を探す為にも少しばかり努力することにした。
もっとも簡単な方法は、探索者協会に仲介役を頼むことだ。なんだかんだ言って、探索者協会はもっとも信頼できる組織であることには間違いないし、探索者協会の方も探索者が無暗に死んでほしくないと考えているから仲介には積極的だ。多人数の方が死亡確率は下がるからな。
「うーん……仲介したいとは考えているんですが、こちらとしても中々信頼できる人と言われると……」
「いや、信頼できる人って言うけど、そこまで重くは考えてないですよ」
なんなら、最初は同盟を結ばずにただ仲間として一緒に依頼を受ける相手でもいいのだ。人間の信頼関係と言うのはそう簡単に作れるものではないが、そのきっかけとしては丁度いいものになるだろう。
「そうですね……あ、少し前にモンスターを討伐の依頼を受けたギルドが、自分たちだけでは難しいかもしれないので救援を、と言っていましたね。今から向かえばすぐに追い付けると思います」
「……それ、確かにそこそこいいかもしれないですけど、モンスターによってはこちらの戦力だけでは足りないのでは?」
内容としては凄い良いものとして聞こえるが、俺たちは所詮4人だけのパーティーだ。救援に行くといっても数的な戦力になる訳でもないし、突出して都市で最強の能力を持っている探索者たち、と言う訳ではない。シェリーは確かに神聖魔法によるモンスターへの特攻にはなるかもしれないが、それでも一度に大量の敵を殲滅できるような能力を持っている訳ではない。勿論、シェリーの力を疑っている訳ではないが……シェリーだって何でもできる訳じゃないんだから。
「討伐対象になっていたのは、確か地竜でしたね」
「……それ、本当に大丈夫なんですか?」
翼を持たず、しかし地を這いまわりながらも全てを蹂躙するドラゴンである地竜。その力は並みの探索者では歯が立たず、出現した場所から近隣に存在する集落には避難勧告が出される程のモンスター。すぐさま討伐依頼が国から出されるモンスターでもあり、迷宮外に生息しながら迷宮内のモンスターよりも脅威度が高いと言われている珍しいモンスターである。
「実力的には問題ないと思うのですが……確かに救援として考えると、人数が少ないですかね」
「いえ、まぁ……行きますよ。他にありませんし」
地竜が相手と考えると憂鬱になるが、それ以外に依頼もないのでこれを受けるしかない。勿論、俺は地竜と戦うのなんて初めての経験だし、自信はあまりないのだが……やるしかない。
「気を付けてください。相手は地竜ですから……警戒しすぎると言うことはありません」
「わかってるけど、倒さないと近隣に被害が出るんだろ? なら多少は無茶をしてでも討伐しないと」
「……近隣の避難は終わっているはずです。建物よりも、命ですよ」
じっくりと、時間をかけて安全に討伐してくれて大丈夫だと言ってくれているんだと言うのはわかる。しかし、実際に地竜によって家を破壊された人々はどう思うだろうか。国から補助金が出るとしても……住み慣れていた家は無くなってしまうのだ。頭では探索者が地竜を倒してくれたことで自分たちが安全に生きていけるんだとわかっていても、納得できるものではないだろう。
俺たち探索者は別に人々を助けるのが使命なんかじゃない。けど……誰かの安寧の地が壊されようとしているのを黙っていられるほど、俺は情が無い人間でもない。
持ち帰った依頼を、そのままの内容で3人に伝える。本当は危険な相手に対してセレス姫を連れて行くとか嫌なんだけど……ここでしっかりと誘わなかったら後で何を言われるのかわかったものではないので仕方なく伝えておく。
「……私は賛成しますよ。確かに、リンネさんの言う通り誰かの家が、思い出の詰まった場所が破壊されるのをそのまま眺めている訳にはいきませんから」
「うん……ありがとう」
シェリーは俺の言葉に同意してくれるが、何事にも限界はある。既に破壊されたものを直すことなんてできないし、そもそも本当に俺たちが行ってその誰かにとって大切な居場所が守れる保証もない。しかし、やはり見捨てる選択肢はない。
「私はそもそも反対するつもりがない。ギルドマスターであるリンネの選択には常に従うつもりだ」
「私としては、地竜の肉片を貰えればそれでいいのですが、このギルドのメンバーな訳ですから、私もしっかりと手伝いますよ」
「いや、セレス姫はまだ探索者の資格取ってないからまだギルドメンバーじゃないだろ」
「そういう細かいことはいいんです」
全く細かい話ではないんだが……まぁ、本人がついていくと言っている以上は、止められないだろう。こういうマッドサイエンティスト系は、逆に傍に置いておいた方がマシだったりする。1人にすると、なにをしでかすかわかったものではない。
すっかりやる気を見せているシェリーに、普段通りの表情のまま頷いているメレーナ、そして何故か狂気的な笑みを既に覗かせているセレス姫……濃いメンバーなので、同盟相手になる男がいてくれたらもっと普通な奴がいいな。
これから地竜を相手にしに行くって言うのに、なんとも気の抜けるような空気だが……彼女たちにはこれぐらいの雰囲気の方が合っているのかもしれないな。何と言うか、どんなモンスターの名前を聞いても気後れしないって、なんとも頼もしいような気がする。
勿論、俺だって地竜が相手だから今回は死ぬかもしれない、なんて情けないことは考えていない。危険な相手ではあるが、このメンバーならばきっと倒すことができると信じているからだ。俺だって沢山の魔法を習得することで自らの自信に変えてきた。後は、自らの力に対してどこまで自信を持てるのか……それだけだ。
「じゃあ、行きましょうか」
「今からですか?」
「単純な依頼じゃなくて、救援依頼だからね。今から行かないと間に合わないかもしれない」
協会が紹介してくれた依頼だが、果たして相手はどんなギルドなのか……地竜を相手に先に戦って全滅していないことを祈っておこう……後、まともな人たちであることを祈っておく。頼みます。
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