第67話 隣の次元

『どうだ?』

「駄目だ……全くわからん」

『だろうな。簡単に解析できるとは思っていない』


 デザスターの背中に乗せてもらい、島をぐるっと1周して色々と見て回ったのだが、どのような仕掛けで魔の者がこちらにモンスターを送り続けているのか全くわからないままだった。とは言え、そう簡単に理解できたらきっとデザスターが何とかしていると思うので、想定ないと言えば想定内だ。

 背中から飛び降りた先は、先ほどデザスターが足で抉ったことで禿げあがった森である。周囲を見渡すことができる場所を拠点にしようと考えてここを提案したのだが、デザスターには微妙な反応をされた。その理由は……この島の植物に理由があるらしい。


「すごい……本当に数分で芽が生えてきていますよ」

「興味深いが、この種を持ち帰ったら簡単に大陸が植物に覆われてしまいそうなぐらいの勢いだな」

「絶対に持ち帰るなよ?」


 植生を調べていたシェリー、オーバ、クロトに近づくとそんな会話が聞こえてきたので、周囲を見渡してみると……確かに地面ごと抉れて木々が吹き飛んでいたはずなのに、そこら中から植物の芽らしきものが生えてきている。だからデザスターは俺がここを拠点にすることに反対したのだろう。この成長スピードで言うと、明日には何事もなかったように森になっていそうだ。


「デザスター、黒山羊が出現する時間間隔は?」

『バラバラだ。先ほどのように数分で出現する時もあるが、長い時は1週間以上現れない時もある』

「今日は?」

『お前たちがこの島にやってきてから既に3回……恐らくだが、お前とそこの聖女から発せられている女神の気配を感じ取って攻勢に出ているのだと思う……む?』


 デザスターの考察を肯定するように、再び地面から黒山羊が湧いて出てくる。


「魔方陣で出現しているってより、地面の下から生えてきているって感じじゃないか?」

「じゃああの山羊は植物みたいなものだってのか? そんなことあり得ないだろ」

「モンスターを生み出す植物なんて聞いたこともない。それに、本当に植物だったのならばそんな間隔がバラバラになることはないだろう」


 俺の言葉をちょっと馬鹿にするように否定してきたクロトに対しては足を踏んでおく。痛いと叫びながら転げまわるクロトを無視しながらも、オーバはクロトの言う通りではあると言ってくる。確かに植物から生えてくるモンスターならば、この島の植物と同じようにもっと早く、そして常に同じ速度で生えてくるだろう。つまり、やはり何処かで魔の者か、もしくはそれに味方している存在の手が加わっているのだ。


『ふぅむ……やはりお前の考察は当たっているのかもしれん、なっ!』


 デザスターが再び太陽を背負って駆け出し、黒山羊の首に噛みついてから太陽の力を放出した。光の柱と見間違うほどの光線によって、黒山羊の首から先が消し飛び、残った胴体はそのまま闇へと消えていく。


『やはり私の魔法に反応できていない。つまり、経験を繰り返している訳ではなさそうだ』

「そうなると、やっぱり何処かで生み出されていることは間違いないと思うんだが……どうもその発生源が巧妙に隠されているみたいだな」

『島の外か?』

「可能性としてはなくはないが……そうするとこれほどまでに連続で出現させられる説明ができない。あれほどの大質量を持ったモンスターを移動させるには相応の魔力が必要になるってことは、この島の近くから運ばれているはずなんだ」


 そうでないとしたら……敵には恐ろしい空間転移の魔法を扱う奴がいることになる。仮に、空間転移系の魔法を扱う奴がいて、そいつがとんでもない使い手で遥か遠くから移動させているのだとしたら……俺たちにできることなんてない。ただ疲弊して、死ぬのを待つだけだろう。


『だが、島の外から運び込まれているのならば私は感知できる自信があるぞ』

「感知? 逆に聞くんだけども、今の黒山羊はどうやって出てきているって感覚なんだ?」

『そうだな……簡単に例えるならば、まるで別の空間からそのままやってきたみたいな感じか? とにかく、痕跡もなにもなく突然その場所に現れるような感覚だな』


 ん? それはおかしなことじゃないか?


「でも、出現する直前にいつも気が付いているだろ? それはどうやって?」

『空間に歪が生まれるのだ。その歪から漏れてくる魔力の波動を察知して、なんとか出現する数秒前に戦闘態勢に入っていると言う感じだな』

「歪?」


 本当に空間転移系の魔法なのか……しかし、デザスターが感知できない遥か外から運び込まれているらしいから、これは解決不可能な問題かもしれないな。


「……待ってください。ちょっと思い当たるものがあります」

「何の話? 植物?」

「違います! さっきから2人が話している転移魔法の話です!」

「あぁ……心当たりがあるんだ」


 それは驚いたな。俺は逆に遥か遠くから運び込まれているって部分で心当たりが全て消し飛んだのに……シェリーには逆に心当たりができたらしい。しかし、デザスターの感知範囲外からあれだけの大質量モンスターをこうも連続で持ってくることができる魔法……使い手は絶対に人間ではないと断言しよう。


「まず、魔の者が何処に潜んでいるかご存じですか?」

「いや? どっか世界の果てとかにいるんじゃないの?」

「違います。魔の者は……隣の次元にいると言われています」


 おーっと……いきなり意味不明な単語が飛び出してきたな。


「こことは異なる次元に存在し、自由自在に次元と次元を行ったり来たりすることができる力を持っているんです」

「でも封印されたんだろ?」

「力を封印され、隣の次元からこちらに渡る方法を失った、とした方が正しいのかもしれません。とにかく、今の魔の者はあまりこの次元に手を出すことができないんです」

「ふむ」


 なるほど? ちょっと理解するのに時間はかかるが、話が進まないのでここは納得している感じで進めよう。


「それで?」

「もしかしたら……先ほどから現れているモンスターは、隣の次元から来ているんじゃないですか?」

「でも封印されてるんだろ?」

「魔の者は、です」


 ははーん……つまり、魔の者の配下が次元に穴を空けて黒山羊を送り込んでいると。


「でも、ピンポイントでこの場所に送り続けることなんてできるのか?」

「それは……わからないですけど」

「だろ? ちょっと無理のある仮説だと思うけどなぁ」

「うぅ……駄目ですか」

『いや、あり得る』


 俺が否定した仮説に食いついたのは、黒山羊と戦い続けていたデザスター。


『隣の次元はただの空間ではなく、文字通り別の世界なのだ』

「つまり?」

『隣の次元にもこの島は存在していると言うことだ。つまり、隣の次元のこの島から空間に穴を空けると──』

「──あんな風に出てくる、と?」


 今度は上から降ってきた黒山羊を俺が指差す。

 マジか……次元間の移動とか俺には理解できないから考察なんてできる訳ないだろ。

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