第68話 女神の力
「じゃあなんだ? 隣の次元のこの島にはあんな黒山羊を育てている牧場でもあると?」
『モンスターを牧場で育てられる訳がないだろ。あれは魔の者が力を分け与えることで生み出している存在だ』
「だよな」
当たり前と言えば当たり前かもしれないけど、やっぱりあれは魔の者がちゃんと生み出している敵らしい。しかし、これだけの数を短期間に大量に連れてこられると流石に疑いたくもなるものだ。
「隣の次元に手を出す連中なんてどうしようもないぞ?」
『それは私もだ』
「でも、デザスターは元々魔の者によって生み出されたモンスターなんだろ? なにか方法はないのか?」
『魔の者にとって我々モンスターなど掃いて捨てるほどいる駒に過ぎない。異次元に送ったモンスターがどうなろうが知ったことではない……つまり、モンスターたちには帰る場所などなければ、帰る方法もないのだ』
予想通りと言えば予想通りか……まぁ、そんなことだろうとは思っていたさ。それにしたってもう少し捻って欲しいと思うぐらいにはテンプレな悪役思考だ。
空中から落ちてきた先ほどの黒山羊はこれまたデザスターが瞬殺してくれたが、こんな魔力消費ばかり続けていたらデザスターだっていつかは力尽きるだろう。俺たちがこの島にやってきたことで頻度が上がっていると言うのならば、俺たちがここを離れるべきなのだろうが……そうした場合、敵はあの黒山羊を何処に召喚するのだろうか。誰もいなくなった孤島に召喚されたとして、黒山羊はそのままここでゆっくり過ごすのだろうか……いや、絶対に海を越えて人間が住んでいる大陸までやってくるだろう。それがわかっているから、デザスターもこの島を離れずに戦い続けているのだ。
「次元間の移動を止める手段なんて俺には全く思いつかない。手段が思いつかないってことは、これからも延々と異次元からああやってモンスターが送られてくることになる訳だろ?」
『しかし、それを放置することもできまい』
「女神様の力でなんとかできないですか?」
『女神本人がこの場にいればなんとか抑え込むこともできただろうが、お前たちも知っての通り女神は今、地上にはいない』
「なら詰みだな。神官から依頼は失敗か」
「……女神の力を取り戻して、それを俺が使えばいいのでは?」
女神の力があれば可能だと言うのならば、何処かに封印されているという女神の力を解放してそれを俺が使えばいい。本当にそんなことができるかどうかなんてことは今は放置してでも、可能性を追求するべきだ。
俺の言葉を聞いて、オーバとクロトは何を言っているんだと言わんばかりの視線を向けてくるのだが、シェリーとデザスターは女神の力がこの世界の何処かに封印されていることを知っているので、なんとも悩ましそうな顔をしている。
『仮に女神の力を手に入れることができたとしても、異次元に干渉するほどの知識と魔力がお前にあるかどうか……想像もできなければ手出しもできないんだぞ?』
「逆に言えば、想像さえできれば異次元にも干渉することができる、だろ?」
そこら辺は問題ない。
俺の頭の中にある記憶には、空間や異次元に干渉する魔法なんてものはゴロゴロと転がっている。まぁ、アニメの情報だったりするんだけども……それでも、想像の足しにはなる。女神が他世界の人間をわざわざ連れてきたのは、こういうう部分があるからなのかもしれない。
「とにかく、力を手に入れることができれば可能性はある。何処にあるか知ってるか?」
「お前は何を言っているんだ? 秩序の女神は既に地上にはいないし、力がこの世界に残っている訳が──」
『──この島から更に南に行ったところに、大陸が存在している。その大陸は常に乾燥した風が吹き荒れる砂漠なのだが……その砂漠には女神が生み出したオアシスが存在している。女神が地上に降りてから、最初に魔の者から解放した地域……私が最初に女神と出会った土地だ』
「ありがとう」
デザスターはそこに女神の力が封印されているとは語らなかった。しかし、ノーヒントでひたすらに世界中を駆け回るよりはマシだろう。そう考えて、俺はデザスターに礼を言ったのだ。
『気を付けて行け。あの土地は女神が最初に解放した土地……つまり、それだけ女神と魔の者の戦争において重要な拠点になった場所だ。モンスターにも、人にも気を付けろ』
「わかった」
まぁ、フェラドゥを中心としたこっちの大陸とは全く文化も違うような場所だろうし、デザスターの忠告はしっかりと聞いておくべきだろう。俺は大陸から外に出たことがないような引きこもりな訳だしな。
「本気か? 女神が本当に力を残しているのかもわからないのに、そんな場所に向かうのか!?」
「……ずっと黙ってたんですけど、俺……実は女神から世界を救って欲しいと直々に言われたんですよね」
「はぁ? 女神からって……だから女神は地上には──」
「神の間、か」
クロトは俺の頭がおかしくなったと決めつけるように喋りかけてきたが、オーバは割り込んできた。そして、大聖堂の中にある神と対話することができると言われている神の間の名前を挙げた。俺はそれに頷き返すと、オーバは滅茶苦茶大きなため息を吐いた。
「お前が神官から依頼を受け、神獣に会いに来たのは女神の関係者だからだな?」
「勿論、同盟の知名度を上げるためって言うのは嘘じゃないですよ? ただ、同時に女神について色々と聞けるんじゃないかと思って来たのも事実ですけど」
「それが、今は話せないと言っていた内容か?」
「はい。もう隠し事はありません」
異世界から転生してきたってこと以外は。
「わかってると思うが、俺たちはついていくことができないぞ?」
「覚悟の上です」
今回のデザスターに会いに来たのは神官からの依頼だが、女神の力を求めて旅をするのは単純に俺が女神から言われているからやることであって、探索者としての仕事にはなんの関係もない。だから、探索者の同盟相手である『紅蓮獅子』を巻き込むつもりはない。
「最初から巻き込むつもりなんてないか……それはそれで腹が立つな」
「どうしろと?」
余りにも理不尽!
いや、確かに同盟相手から「これはお前には関係ない話だから最初から期待してないですよ」みたいなこと言われたらクッソムカつくと思うけどさ。
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