第11話 世界を救う方法

「大丈夫ですか?」

「ん……罰金払っただけだから」


 もう1回、同じことをしたら探索者の資格を剥奪されるだろうけど……次は絶対にこんなことしないから問題なし。今回は挑発に乗ってそのまま魔法を使っての戦いなんてしてしまったけど、これからは絡まれても二度と戦わないことを心掛けよう。

 それにしても……シェリーがすごいそわそわしている。まぁ、目の前で疑似再現とは言え神聖魔法の神の御手ホーリーライトを使われたんだから、流石に落ち着いていられる訳がないよな。シェリーは俺なら真似することができるんじゃないかみたいなことを前にも言っていたけど、まさか本当にできるなんて思ってもなかったから……俺としてはそれなりに気まずいんだけど、シェリーはどう思っているんだろうか。


「あの……リンネさん」

「どうした?」

「この世のあらゆる魔法を使えるとしたら、リンネさんは間違いなく世界で最強の魔導士だと思うんですけど……興味ないですか?」

「世界最強ねぇ……」


 興味がない、とは言わない。やっぱり異世界に転生したなら一度は世界で最強の人間を目指してみるのもありかなと思えるぐらいの熱量は、俺にだってあるからな。じゃあ実際に目指しますかって言われたらちょっとどうなんだろうって感じなんだけども……シェリーはもしかして、俺なら世界最強の魔導士になれると思っているんだろうか。いや、そもそも思ってなければそんな話はしないよな。


「神聖魔法、私も全てが使える訳じゃないんです」

「え、そうなの?」

「はい」


 俺はてっきり、シェリーが使っている神聖魔法が全てだと思っていたんだけど……そうでもないんだ。

 シェリーが扱う神聖魔法は全部で6種類。魔力を使って人の傷を癒すことができる神の慈悲リカバリー、天から光の杭を落とし相手を攻撃する神の御手ホーリーライト、光の弓を生み出してそこから光の矢を放つ神の射手ホーリーアロー、身体を犯す毒や呪いを取り除く神の愛隣キュア、人間を精神を落ち着かせる特殊な波長を放つことができる神の憐憫アガペー、そして莫大な魔力を消費して光そのものを天から降らせて敵を蒸発させる神の裁きホーリージャッジメント

 そもそもシェリー以外の神聖魔法を使える人間を知らないので、神聖魔法はこれが全てだと思い込んでいたんだけど……まさかこれ以外の神聖魔法が存在するとは知らなかったな。


「本当は、秩序の女神に選ばれた人間以外には教えちゃいけないんです」

「それはつまり、神聖魔法を使える人間以外は知っちゃいけないってこと? じゃあダメじゃん」

「リンネさんは神聖魔法が使えるので大丈夫です」


 全然大丈夫じゃないと思うんだけど……どこをどう考えても大丈夫な要素がないよ。

 立ち上がったシェリーは、俺の腕を掴んだ。


「と言う訳で、大聖堂に行きましょう」

「……えぇ? 俺、大聖堂なんて人生で1回も行ったことないんだけど」

「そうなんですか!? この国の人なら誰もが一度は訪れていると思うんですけど……いい機会だと思って行きましょう! 後悔はさせませんから!」

「後悔なんて文字が出てくる場所ではないと思うんだけどな」


 まぁ、いいか。



 シェリーに引きずられるようにして大聖堂にやってきた俺は、なんとなく厳かな雰囲気を醸し出している白亜の建物にちょっと気圧されながらも、ずんずんと先に進んでいくシェリーに連れられるまま入っていく。


「せ、聖女様っ!?」

「今日は聖女としてではなく、この人の付き添いできているだけなので気にしないでください」


 お偉いさんがやってきて気にするなって方が無理だろ。


「こ、この男は、神聖魔法を街中で使用した!?」


 噂が広まるのが早すぎるだろうがよ。


「神の間に通してください」

「は、はい!」


 神の間、というのがどんな場所なのか知らないが……どうやらシェリーと信徒たちの反応からして、それなりに重要そうな場所であることはわかる。神の間なんて名前がついていながら、全く重要な場所じゃなかったらそれはそれで笑えるんだけども。

 ずかずかと歩いていくシェリーの背後をついていきながら大聖堂の中を歩いていると、すれ違う信徒たちから神聖魔法を使った人間と何回も言われているのが聞こえてきた。昨日の今日でここまで噂が広まるなんて、それだけ神聖魔法が派手なのか……それとも昨日の事件がそれほど話題になっているのか。


「ここです」


 シェリーが扉を開けた先に指差したので、俺はゆっくりと中に入った。さっきまで歩いていた大聖堂とは全く雰囲気が違う……というか滅茶苦茶狭い。さっきまではどこも広い部屋だったのに、ここは安いアパートの部屋みたいな大きさだ。

 頭上には神のような存在が描かれたステンドグラスがあり、入ってくる光がキラキラと光っていた。


「ここは?」

「神の間……秩序の女神の声を聞くことができる人間にのみ入ることが許される神聖な場所です」

「女神の声……今、シェリーには聞こえてるの?」

「いえ……今から手本を見せますね」


 すたすたと部屋の中心にやってきたシェリーは、両手を組んで祈りを捧げるような恰好のまま……全身から神聖な魔力を放ち始めた。


「……」

『────』

「え?」

『──』


 もっと長いもんかと思っていたのだがすぐに終わったらしく、ちょっと困惑した表情のシェリーがこちらに振り返った。


「その……その男を1人にしろ、と」

「1対1で話そうぜってことか。まぁ、いいだろう」


 俺が転生する時に出会った女神が本当に秩序の女神だったのかも気になるしな……ここはしっかりと対話してやろうじゃないか。

 困惑した表情のまま部屋を出ていったシェリーを見送ってから、俺は見よう見まねで手を組んで祈りを捧げる。同時に、俺の身体をなにかが包み込むような感覚がやってくる。


『私の言葉、忘れていましたよね?』

「……世界を、救ってくれってやつ?」

『覚えてるじゃないですか』


 あぁ……やっぱり、俺が転生する時に出会った女神ってのは、そのまま秩序の女神だったらしい。やっぱり事前にシェリーに喋っておかなくてよかった……絶対にもっと面倒なことになってたからな。


『その感じだと、私との会話は殆ど記憶に残っていないんですね』

「うーん……転生した時のショック?」

『あながち間違いではなさそうなのが困るんですが……いいですか? もう一度言いますよ? 今、貴方がいるその世界は滅亡の危機に瀕しています。それを救うには、私のバラバラになった力と肉体、そして魂を回収して復活させる必要があるんです』

「……なんかゲームのアイテムみたいだな」

『そのための力も貴方に与えました。貴方は見るだけであらゆる魔法を自らのモノにできるでしょう』

「あ、これやっぱり貴方がくれた特典みたいなもんだったんだ!」

『…………わかったら早くなんとかしてください!』


 痛っ!?

 最後、なんか形のないものに殴られるような感覚があったんだけど……なんなのさ。

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