第12話 神の奇跡
何故か最後に秩序の女神によって頭を叩かれた俺は、いきなり世界を救えなんて言われてもどうすればいいのかわかんねーよっていう言い訳すら使えない方法で追い詰められてしまった。なにせ世界を救う方法とやらが女神様からそのまま示されてしまったからな。しかし……この国の国教でもあるはずなのに、女神がバラバラになって封印されているなんて聞いたこともない。力と肉体と魂に分けられて封印されていると言っていたが、なら喋っていた女神は何者なんだろうか。魂すらも封印されているのに何故会話ができるのか……まぁ、神様的パワーって言っておけば解決するか。
神の間と呼ばれる部屋から出た俺を待っていたのは、少し心配そうな顔をしているシェリーと……何故か興味津々って感じでこちらを見つめている神官たち。
「どう、でしたか?」
「あぁ……色々と話せはしたよ」
「やっぱり」
秩序の女神の言葉を聞くことができる人間は限られているんだもんな……俺がその声を聞くことができたなんて言ったら、神官たちが騒めいていたが……事前にシェリーが言っていたから流石に大きな声では騒いでいなかった。しかし、まさか世界を救うために女神のパーツを探して来いなんて言われているとここで公言するのは、ちょっと憚られる。
「シェリー、後で2人で重要なことを話したい」
「……わかりました」
シェリーは一瞬、顔を赤らめてから熱っぽい視線を向けてきたが……俺が神の間から出てきたばかりなことを思い出したのか、1人で首を振ってから真面目な顔で頷いた。ちょっと頭が色ボケになりかけているが、流石に自力で戻ってくるだけの頭はあったらしい。
重要な話は2人でするとして、今はとにかく神官たちの話を聞く時だな。
「こんなに集まってどうなさったんですか?」
「いやはや……神聖魔法の新たな使い手が現れたと聞けば、誰もが気になるものなんですよ」
「貴方は……確か、大神官の」
流石にこれくらい有名な人なら俺でも知ってるぞ。たまに街の広場とかでもよく女神様の教えを説いている精力的な人だったからな……いつも大変そうだなーぐらいに思っていたら、大神官だって聞いて驚いた記憶があるもん。
「クルスクです。聖女様に神聖魔法の伝えたのも私ですので、神聖魔法についてなにかわからなことがあったら、私にも聞いてください」
「そのことでも来たんです。私が扱えなかった最後の神聖魔法を教えて欲しいんです」
俺も聞いたことがない、シェリーが扱うことができない最後の神聖魔法。
大神官クルスクは、シェリーのその言葉を聞いて目を見開いてから固まり……しばらく目を閉じてから頷いた。
「いいでしょう……歴史上、女神様以外に扱うことができなかったとされる最後の神聖魔法、貴方にも使うことができるのか試す権利はある」
「権利?」
「神の声を聞くことです」
あぁ、そういう……俺、声を聞くだけじゃなくて叩かれたんだけどね。
前を歩く大神官クルスクと聖女シェリーを追いかけながら、俺は秩序の女神に言われたことを少し思い出していた。
あらゆる魔法を見ただけで再現することができるようになる力……それを与えたのが女神だと自分で言っていたが、本当にそうだとしたら俺は何故今までできなかったのだろうか。しかも、再現できるって女神は断言していたが……
「これです」
考え事をしながら2人の背後を歩いていた俺は、急に目の前に突き付けられた古文書のようなものを受け取って目を通す。
「……神の慈悲により傷を癒し、神の愛隣によって毒を洗い、神の憐憫によって精神を整え、神の御手によって天から光が降り注ぎ、神の射手によって罪人は撃ち抜かれ、神の裁きによって闇は光に消える」
「そして、神の奇跡で人間は天へと導かれる」
「
ふむ……秩序の女神の言っていたことは本当なのかもしれない。もしくは、自らに関する神聖魔法だからこれだけは簡単に理解できるように設定してあるのか、この古文書に事細かに記されている神聖魔法たちを眺めていると、頭の中にポンポンと神聖魔法の使い方が思い浮かんでくる。そして、同時に目の前の2人が使えなかったと言っている最後の神聖魔法
「これは駄目だ」
「え?」
「これは……人間が使っていい魔法じゃない」
ただ、俺はそれを見ただけでどんな魔法なのかを理解してしまったからこそ、使ってはいけない魔法であると判断する。神の奇跡なんて名前をつけられている神聖な魔法に聞こえるが、中身はとんだ厄災だ。
「使い方を誤れば人間の魂すらも変質させてしまいかねない魔法。無暗に使えば世界の法則を捻じ曲げ……それこそ世界が崩壊するかもしれない。こんな魔法、使わないで済むならそれに越したことはない」
ホーリーグレイル……聖杯のことを指す単語だが、名前負けしていない魔法だ。触れた物の病気を治すとかそんな可愛い魔法なら良かったんだがな……これは危険すぎる。何を考えて女神がこんな魔法をこの世に残したのか知らないが……こんなものをありがたがっても仕方がない。
「……リンネさんが言うなら、私は反対しません」
「ふむ、どちらにせよ我々には使えぬ魔法。貴方の心の内に秘めておくのも、いいでしょう」
「ありがとうございます。これは……無暗に広めれば争いの火種になるでしょうから」
他者の魂を犠牲に失われた魂を呼び戻す器なんて、存在するだけで厄介極まりない。そして、大切な人を蘇らせるために他者のことなど簡単に犠牲にできる人間は、思ったよりも世の中には多いからな。
失われた命は元に戻らない……それが世界の法則なのだから、こんな魔法はあってはならないんだ。
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