第13話 罰金だけじゃ許されなかった

「これからどうするんですか? 世界最強にも興味がなくて、迷宮探索も乗り気じゃないんでしょう?」

「……世界最強になれるかもって話なんだけど、ちょっと興味が湧いてきたんだよね」

「本当ですか!? この短い期間に何があったんですか!?」


 神の奇跡ホーリーグレイルは仮にもの名を持つ女神が残した魔法とは到底考えられない。同時に、秩序の女神が力と肉体と魂に分けられて封印されているという事実……明らかに何かしらの敵がいると考えていいだろう。

 転生させてもらった恩があるし、転生する時に何も考えずに請け負ってしまっただけってこともあるが……世界を救って欲しいと言われて一度は普通に頷いたのだから、俺はしっかりとその役目を果たしたいと思う。その為には……人間を超えた力が必要になってくると思う。


「だから取り敢えず、色々と魔法を勉強してみようと思う」

「おー……賛成って言いたいんですけど」

「え?」


 世界最強に興味ないですかって言ったのはシェリーなのに、そこでまさか反対意見が出てくるのか? 俺とシェリーってもしかして結構意見が合わない人間なのか?

 ちょっと訝し気な顔をしている自覚があるままシェリーの顔を見ると、なんとなく申し訳なさそうな顔をしたシェリーが、一枚の手紙を俺に手渡してきた。そのまま受け取ってなにも考えずに開封し、中身を取り出してから……俺は顔を覆いたくなった。


「その、問題起こして罰金だけで済む訳ないだろって」

「……そっか」


 うん……まぁ、街中にあんな光の杭を落としておいて、初犯だから罰金刑だけで済ませてやるよなんてできる訳ないわな。いや、多分だけど探索者協会は罰金だけで済ませようとしたんだろうけど、色々な所から苦情が集まってきて退けなくなったんだと思う。だって一枚目の手紙には高圧的に色々書いてあるのに、二枚目は急にちょっと申し訳なさそうな文章が書いてあるもん。

 で、手紙の内容から読み取るに……俺とは別に問題を起こしたアリウスさんも一緒になにかしらの罰を受けているらしい。俺に課せられた仕事は、ちょっと驚きの内容だ。


「街の防衛って……ギルドを設立したばっかりの初心者探索者に言うことか?」

「多分、神聖魔法を使っていたのと、私が一緒に所属しているからじゃないですかね……王都から西に行った街の防衛任務らしいですけど」


 おいおい……探索者協会さん、これは随分な雑用を押し付けられているのでは? てか、街の防衛なんて探索者じゃなくて王都の騎士団を動かせよ。何のための護国騎士団なんだよ……意味わかんねぇ。しかし、問題を起こした側である俺がこれに逆らうことなんてできる訳がないし……仕方ないか。


「出発するか」

「準備とかは?」

「いるかな……そもそもまともに活動も始めてない俺たちにまともな物資なんてないし、良く言えば身軽、悪く言えば何も持ってないじゃん」

「どっちも悪い言葉な気がするんですけど」


 身軽ってのはいい言葉なんだよ……少なくとも俺にとってはな。



 最低限の荷物だけ用意して、俺はシェリーと共に件の西の街を目指す馬車に乗った。


「王都から随分と離れた場所にある訳ですけど、リンネさんは?」

「行ったことないな……あんまり興味もなかったし」


 最近まで『竜の伊吹』で腐っていた無能でしかない俺が、王都の外に対して興味を持てる訳なかったしな。


 は「悪魔の迷宮」と呼ばれるモンスターが無限に湧いてくる地下迷宮の近くに作られた城塞都市だ。元々は地下から無限に湧いてくるモンスターたちと戦うために作られた前線拠点だった場所で、いつの間にか王様ができて国になって、国が大きくなって王都になったらしい。最初はただの拠点の名前だったフェラドゥも時代と共に城塞の名前になり、都市の名前になり、王都の名前になり、今ではそのまま国の名前になっている。王国であるフェラドゥの王都はフェラドゥなのだ……ややこしいけど、国名と首都名が同じって考えるとおかしくはないのかもしれない。そもそも首都から派生した国みたいなもんだし。


 迷宮都市の異名を持つフェラドゥは、今となっては世界中から「悪魔の迷宮」内部に隠されていると言われている神代の宝を求めて他国からやってくる人間ばかりだ。当然、それで金を儲けようと国は考える訳で、それによって生まれたのが探索者協会だ。迷宮に挑む人間を探索者と呼び、安全の為の情報や迷宮内のモンスターに関する情報、迷宮以外にも日常的な依頼人の外旋や武器調達の為の鍛冶師の確保など、様々なことで探索者の得になることをして、その代わりに月々決められた額を探索者は探索者協会に必ず納める必要がある。勿論、それ以外の部分でも仲介料とか色々あって儲けてるんだが。


は初めてですかい?」

「ん……まぁ」


 シェリーと喋っていたら御者が喋りかけて来た。俺たち以外に乗っている人間はいないしフェラドゥから真っ直ぐ進むだけだから話し相手が欲しかったんだろうな。


「レスターはいい所ですよ。なんて行ったって水が綺麗だ」

「あ、聞いたことがあります。レスターには確か……水の精霊様がいて、そのお方のお陰で水が綺麗になっているのだと」

「そうなんですよ。だから私らみたいな馬を扱う人間は、必ずレスターに寄るんです」


 馬にも綺麗な水を飲ませてやりたいってことなのかな。

 確かに、レスター産の飲料水って高く売られてること多いけど……あれって精霊様によって清められた水ってことだったんだ。へー……富士山のミネラルウォーター、みたいな?


「でも、最近は結構物騒でね……どうもレスター周辺にモンスターが多くなっているって話なんですよ。他国だと一夜で王都レベルの都市がモンスターの大群によって壊滅させられた、なんて噂も聞きますし……何も起こらないといいんですがね」

「一夜で……そんなことがあったんですね」


 不可解な話だ。モンスターは頭が悪い……これはモンスターと常日頃から相対している探索者なら誰もが思っていること。人間では考えられないような能力を持ち、人間とは比べ物にならない身体能力を持ち、人間よりも繁殖力が高いことが確認されているのに、モンスターが何故人間を滅ぼすことができないのか……それは知能の差だ。モンスターは個として圧倒的な強さを持っている種がそれなりに存在しているが、知能で人間と同等以上なんて存在はそれこそドラゴンぐらいにならないといない。

 そんなモンスターが……大群で行動する? まずあり得ない……だって奴らは自分たちと同種族とも殆ど協力することがないのに、大群で動くなんて誰かに操られでもしない限りは……いや、もしかしてこれが世界の危機なのか?

 うーん、わからん……これに関してはもっと情報が欲しいな。

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