第22話 次なる依頼

疑似・竜槍ドラゴンランス!」


 魔力を槍のような形に変え、それは放つ。何故ドラゴンなのかは俺が考案者じゃないので知らないが、放たれた槍は加速しながらモンスターの心臓に向かって行き……一撃でその硬そうな外殻を貫く。

 岩で全身が覆われていたアルマジロのようなモンスターは、その一撃だけで絶命したようでその場に倒れ伏した。


「……本当に、凄いですね」

「ありがとう」


 シェリーと魔法大会を見に行ったことで、俺は多数の魔法を模倣することができた。手数が増えるだけではなく、魔法を扱う者としての実力を上がっているのは確実で……今も岩の様な外殻を簡単に貫いてモンスターを殺すことができたのだから、昔からは考えられない成長だ。

 傍で俺の戦いを見ていたシェリーは、絶命したモンスターを指でつつきながら俺が放った魔法の威力に感心していた。


「これで討伐依頼は完了ですね。それにしても……まさかリンネさんが1人で全部片づけてしまうとは」

「そんなに多くなかったし、魔法の調整もしてみたかったから。それにしても……魔法が沢山使えるってのは楽しいなっ!」

「あ、あはは……」


 テンションマックスな俺にシェリーはちょっと苦笑いを浮かべていたが、俺はこの世界の転生してきて今が一番楽しい。

 ずっと無能として生きて来たから、その反動って訳じゃないけど……自分が沢山の魔法を使ってモンスターを殺せるってことに興奮している。今まで逃げ惑うことしかできなかった相手に対しても、真正面から戦うことができるようになる。それだけでこんなに世界が変わって見えるとは思わなかった!


「それなら、迷宮探索に行きますか?」

「あー……迷宮はいいかな」


 ちょっとウキウキしている様子のシェリーに「迷宮」という言葉を出された瞬間に、俺は冷や水をぶっかけられたみたいにテンションが落ちていった。俺の様子を見て慌て始めたシェリーを余所に、俺は下がったテンションの原因を分析するが……まぁ、多分トラウマ、みたいなものだろうな。

 探索者にとって迷宮探索とは金と名声を手に入れるもっとも手っ取り早い方法で、探索者として実力があることの証明になることだ。だから探索者を名乗る人間は必ず迷宮探索をしたがるし、そこで何かしらの成果を上げれば一生暮らしていけるぐらいの金が手に入ることだってある。普通は迷宮と聞いてテンションが上がらない探索者はいないのだが……俺の場合は違う。


「迷宮なんて通用するかな?」

「今のモンスターを倒せるのに迷宮で通用しない訳ないですよ! もっと自分に自信持ってください! さっきまでのリンネさんはどこに!?」


 俺にとって迷宮とは、薄暗くてモンスターが大量に出てくる怖い場所だ。無能だった頃の俺は、ギルドの仲間に何度命を助けてもらったかわからないぐらいで……あの場所は地獄よりも恐ろしい場所だと思っている。多少の成功体験ぐらいでは拭いきれない恐怖という感情が深く……深く俺の心に刻み込まれている。

 精神に刻み込まれた恐怖というのは、簡単に消えるものではない。増してや俺は元々一般人として戦いには無縁の人生を送ってきた記憶を持っている。モンスターという人外の怪物から襲われて命が散らされるかもしれないという恐怖は……一生消えないかもしれない。


「はぁ……わかりました。リンネさんが乗り気じゃないならやめておきます」

「その代わり、報酬が滅茶苦茶高いのを見つけたから」

「報酬が?」


 今の俺とシェリーには金が必要だ。

 勿論、俺とシェリーが「竜の伊吹」に所属していた頃の蓄えはまだあるが……蓄えってのは減っていくだけだから、流石になんとかしておきたいと思うのが本音。そこで俺は探索者協会に行って報酬が高そうな依頼を選んでおいたのだ。

 ちょっと自信があってシェリーに言ったのだが、シェリーの方は懐疑心が籠った視線を向けて来た。多分、報酬が高い=詐欺なんじゃないかと思っているんだろうが、これは大丈夫だ。


「依頼主は貴族なんだ」

「貴族、ですか? それは……報酬が高くなる代わりに面倒な仕事を要求されそうな相手ですね」


 報酬が高い理由には納得してくれたみたいだけど、結局仕事が面倒なんだろうなって疑惑を持たれてしまった。まぁ、報酬が高いんだから普通のモンスター退治よりも仕事が面倒なことには違いないのだが……単価の問題だ。モンスター退治をしてはした金を貰うことを何回も繰り返すか、1回大変な思いをしてから大金を貰うかって話しだ。俺は……後から苦労するのが面倒だから先に全て片付けておきたいタイプ。


「依頼内容は?」

「なんかね、精霊樹ってやつの枝葉が欲しいって依頼」


 精霊樹は噂だけ聞いたことがある。なんでも、魔力を帯びた特別な樹木で、夜の闇の中でも淡く白色に光る美しい樹木なんだとか。


「精霊樹……また厄介なものを頼まれましたね。正直、この報酬量でも文句言いたいぐらいですよ」

「そう、なんだ」

「はい。なにせ、精霊樹の近くには人間とあまり友好的じゃない種族がいますから」

「……あ! エルフ!」


 そう言えば精霊樹の近くにはエルフが住んでるって聞いたことある! え、俺は今からエルフに会えるかもしれないってこと? テンション上がってきたな!

 俺が勝手にテンションを上げていると、シェリーは露骨にため息を吐いた。勿論、エルフが人間のことを良く思っていない種族だってことは知っているけど、それはそれとしてエルフに会えると思うとちょっと興奮するでしょ?


「あのですね……エルフぐらいなら普通にそこら辺にいるじゃないですか。友好的じゃないだけで、別に人間と仲良くしている人がいない訳じゃないんですから」

「そりゃあそうだけど……俺は見たことないな」

「そうなんですか? 迷宮探索者にはエルフも何人かいますよ?」

「そうなの? それは……知らなかったな」


 エルフなんて基本的に森の中に閉じこもっている種族だと思っていたんだけどな。


「しかし、人間と関わっているエルフはまだいいですけど、精霊樹の近くに住んでいるエルフとなると……絶対に警戒されますよ」

「精霊樹の枝葉をちょっと盗むとか……できないかな?」

「無理だと思います。エルフにとって精霊樹とはそれだけ大切なものですから」


 うーん……他人の大切なものを盗んで来いって依頼って考えるとやる気がみるみるなくなっていく。勿論、報酬は欲しいけど……仕方ないと割り切るしかないか。俺たちが生きていくためには、金が必要だからな。

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