第21話 魔法を覚えよう

 レスターの防衛……一応の解決をしたことでそれなりに感謝の言葉を述べられた俺とシェリーは、魔法について詳しく書かれている魔導書を求めて再び国立魔導図書館にやってきていた。


「……わかったことがあるんだけど、本で魔法について読んでてもある程度わかるけど、他人が魔法使ってるの見れば一発なんだよね」

「そうなんじゃないかと薄々思ってました」


 俺の正面で小説を読んでいたシェリーの返答は予想外のもの。


「だって上級魔法を覚えるまでにそれなりに時間がかかったのに、私が使った神聖魔法やギドが使っていた闇の魔法はすぐ使えるようになってたじゃないですか」

「まぁね……でも、神聖魔法に関しては書物でも見るだけで使えたよ」

「それはやっぱり、リンネさんが神に愛されているからですね」


 うーん……微妙に反応し辛いんだけども、最近はあながち間違いでもないのかなって思うようになってきた。だって神の目とかいう意味の分からないものを与えられていると精霊には言われた訳だし……神の目だぞ?


「うーん……どうにかリンネさんに魔法を見せる方法、ありましたかね?」

「いや、別にどうしても魔法が沢山見たい訳ではないんだけどね。時間がかかるだけで、魔導書から知識を得ることだって普通にできる訳だから」

「あ! そう言えばいいイベントがありますよ!」

「話聞いてる?」


 なんですぐ暴走するのか俺には理解不能なんだが……もしかしてシェリーって結構やばい人なのでは?


「そろそろ、魔導士たちが魔法だけを使って誰が優秀なのかを決める大会があるんですよ。知ってましたか?」

「……それを観戦して全部盗めと?」

「それが一番早いと思います。実際、魔導士が参加する大会で一番大きいですから」

「なんか……ちょっと酷いことをしている気分にはなるんだけどな」


 世界を救うために神から与えられた力であることは理解しているのだが、それはそれとして一生懸命研鑽したであろう魔法を見るだけで盗むなんて気が引けないか? 気にしすぎって言われたらそうなのかもしれないけど……それでも他人の努力の結晶を金も払わずに見て盗むってのはな。


「リンネさんにとってはあんまり乗り気のしない話かもしれませんが……私は必要なことだと思います。だって、リンネさんはこれからも沢山の人を救わないといけないんですよ?」

「どこから来たその話は」

「神に選ばれるとはそういうことなんです」


 知ったように言うなと思ったけど……よくよく考えるとシェリーは女神に選ばれて神聖魔法を使えるようになった人間だから、俺と似たような境遇なんだよな。この世界の人間にとって理解できる存在か、理解できない存在かの違いはあるかもしれないが……共に神に力を与えられた存在。シェリーはそうやって生きてきたってことか。


「……わかった! 世界の為に俺も力を付けよう」

「はい!」


 シェリーが望んでいるのなら、そうしよう。

 女神が俺に世界を救うように望んでいる様に、シェリーも俺に自分と同じように神に選ばれた人間として振る舞うことを望んでいるのだろう。ここは先輩の顔を立ててやるのがいいだろう。






 シェリーに連れられて魔導士が覇を競う戦いを見て、俺は勝手に興奮していた。勉強の為に見に来たことはわかっているんだが……どの魔導士も見たことも聞いたこともないド派手な魔法を使って戦っている姿が、凄くかっこいいと思ったからだ。


竜槍ドラゴンランス

「ぬぅっ! 巨岩壁ギガントウォール!」


 まるでアニメや漫画を見ているような純粋な気分で観戦している。もう魔法を学ぶために見に来たなんて話は俺の頭からすっ飛んでいるし、隣にいるシェリーも興奮している俺に釣られて何故か一緒になって応援している。


 ド派手な魔法を幾つも見ていた訳だが、どれもハイレベルな戦いだった。そもそも参加するのに相応の成果が必要みたいで、この大会に参加している時点で偉大な魔導士なんだとか……そんな大会が娯楽として無料で見れるなんて最高だな。


「どうですか? 魔導士も結構いいでしょう?」

「うん……今まで探索者としてしか活動したことなかったから新鮮だったしな」


 迷宮探索者は、その特性上ド派手な魔法をあまり使用しない。迷宮の中で派手な魔法を使えば崩落の危険もあるし、基本的に複数で行動する探索者にとって味方を巻き込みかねない魔法ってのはそれだけで使えるものではないからだ。しかし、俺たちが観戦している大会にはそんな遠慮は存在しない。1発で全てを吹き飛ばす爆弾のような魔法、周囲を瞬時に凍結させる魔法、灼熱を身に纏って自爆する魔法、武器を生み出してひたすらに射出する魔法、どれも初めて見るし迷宮探索では使えなさそうなものばかりだ。

 見るだけで魔法を再現できる能力を持っている訳だが、どの魔法も素晴らしいもので……頭の中で多少こねくり回して疑似再現するのが精一杯だ。勿論、疑似再現の時点ですごいことは自覚しているが……それはそれとしてこれらの魔法を無から生み出している彼らには本当に驚いてしまう。


「見ただけで再現できない魔法はありましたか?」

「ん……いや、今の所は全部理解できてるな。肝心なのは想像することだから……できると思えばそりゃあできるさ」


 極論、目の前で見た光景をそのまま再現すれば俺の疑似再現は完成してしまう。全く違う原理で発動しているとしても、得られる結果が同じなら同じ魔法と呼べるだろう。


「……もしかしたら、この日だけでリンネさんは世界最強の魔導士になってしまったかもしれませんね」

「そうだなぁ……これだけ立派な魔法を幾つも見てると、本当にそうかもしれないと思うよ」


 魔導士ではないから大会に参加することはできないが、参加している偉大な魔導士たちと対等に戦うことができるかもしれない。そんな自信が付くぐらいには多数の魔法を今日だけで学んでしまった。

 今まで魔導書で学んでいた魔法が遊びだったかもしれないと思えるほどの魔法の数と質……確かにこれなら、シェリーの言う通り俺は最強の魔導士になれたかもしれない。ただ……あんまり調子に乗っていては駄目だよな。どれだけ凄い魔法だって、最後に制御するのは俺なんだから……あんまり調子に乗らない方がいいだろう。


 それでも……沢山のアニメみたいな魔法が使えるようになったって思うと、やっぱりある程度は実力を確かめてみたいなとか思ってしまうのは、一般人の感性なのかな。

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