第20話 とりあえず解決

 魔の者とやらは性格が陰湿で嫌がらせの上手い奴だと考える。ギドが命と引き換えに召喚したんじゃないかと精霊が言っていたワームのようなモンスターは、水面から飛び出して空中を泳ぎながら雷霆サンダーボルトをこっちに数発放っては、すぐに水の中に逃げ込んでしまう。その攻撃の苛烈さと逃げの速さ、面倒なことこの上ないのだが……俺以上に魔法が当たらないことにシェリーが結構イラついている。


「水の精霊なんだから、なんかないのか? あのワームを水の中から追い出す方法とか!」

「今やっている……しかし、身体が大きすぎて効いているのかどうかもわかり辛い!」

神の御手ホーリーライト!」


 天から降り注ぐ光の杭は水を切り裂いて湖の底まで到達しているようだが、底に到達するまでに水の抵抗で随分と威力と速度が落ちてしまっているらしい。そんな攻撃に当たってくれるほど、ワームも弱い訳ではなく……結局、俺たちは奴が水面から顔を出した瞬間に放ってくる雷霆サンダーボルトを避けることしかできないでいる。

 あれだけ水の中で雷の魔法を使用している癖に、一切感電する様子が無いのはやはり上級魔法である雷霆サンダーボルトを使っているからだろうか。通常の下級魔法のように簡単な魔法なら電撃も自然の法則通りに動くが、上級魔法の雷霆サンダーボルトにもなると使用者が自らで何処に飛んでいくのかを制御することができる訳だからな。


雷霆サンダーボルトに対して俺が雷霆サンダーボルト撃ってもどうにもならないだろうし……どうにかして水から出て来たワームに攻撃を当てなきゃいけない訳だが」

「相殺もできないですか?」

「うーん……根本的な出力が多分向こうの方が上だからなぁ」


 そこら辺は魔力の扱いの違いって感じよりも、そもそもの体格差がもろに出ている感じかな。どれだけ人間が頑張っても肉食の猛獣に膂力で勝てないように、あれだけ巨大なモンスターと純粋な魔力の出力で張り合っても勝てる訳がない。質で勝負すれば勝てるだろうが……魔法の質で大出力の魔法を相殺するのはかなり難しい。


「……よし、俺がなんとか水中から飛び出したワームの動きを止めるからそこに最大出力で叩き込んでくれ」

「そんなことできるんですか?」

「今から試してみるんだよ」


 水の精霊に任せていると一生かかってもあのワームを水から追い出すこともできなさそうなので、俺が何とかして見せよう……本当にできるかどうかはわからないが、方法は幾つか思いついている。

 水飛沫を巻き上げながら再び水面から飛び出してきたワームに狙いを定めて、魔力を集中させる。


疑似・闇の誘いダークコーリング


 水中から飛び出してきたワームが雷霆サンダーボルトを放つと同時に、ギドから模倣させてもらった闇の誘いダークコーリングを使用して、なんとか雷霆サンダーボルトを逸らしながらワームの身体目掛けて鎖を伸ばす。

 長いワームの身体に巻き付くよ様に伸ばした鎖をそのまま動かし、ぎゅっと縛り付けてその場に押し留めようとする。しかし、想像よりも重量感のあったワームによって繋がっていた鎖は次々に千切られていき……鎖を掴んでいた俺の腕の筋繊維がぶちぶちと悲鳴を上げている。


神の裁きホーリージャッジメントっ!」


 表現するのならば一本釣り。どう考えても数百キロでは済まないようなワームを、小さな鎖だけで釣り上げようとする無謀な行為……俺の腕がその無謀な行為によって悲鳴を上げ、額から脂汗が滲み出始めた時に、天から救いの手が差し伸べられた。

 ゆっくりと、曇天を切り裂きながら降りてきた光はまさしく天国への階段。太陽の位置など関係なく降り注いだ光は……ワームの身体に触れた瞬間に白い煙を発生させた。


「うぉっ!?」


 辛うじて繋ぎ止めていた最後の鎖が簡単に千切れ飛び、その衝撃で俺も一緒になった吹き飛んで湖の中に突っ込んでしまった。上下の感覚もなく溺れそうな状態で見たのは……天から降り注ぐ光によって肌を焼かれ、それ嫌って水の中に潜っていくワームと、それを物凄い速度で追いかけながら頭部付近のなにかに向かって武器を突き刺す精霊の姿。

 決定的な一撃が加えられたのを見ていると、不意に浮遊感を味わってそのまま身を委ねていると……水面を飛び出して地面の上を転がっていた。


「だ、大丈夫ですか!? 人工呼吸した方がいいですか!? き、キスしますからね!」

「大丈夫、呼吸してるから……そんなグイグイ来なくても大丈夫だからちょっと離れてくれ」


 水から引き上げてくれたのは素直に感謝したいけど、そんなにグイグイ来られるほどにピンチな訳じゃないからちょっと遠慮しちゃう。それより……水の精霊が潜っていったワームに対してとどめを刺しているように見えたけど……あっちはどうなったんだ?


「ぷはっ!? ふぅ……あの胴長、随分とタフだな」

「死んだのか?」

「いや……まだ生きてる」


 精霊の言葉と共に、ワームが再び水面から外に飛び出してきた。しかし、こちらに対して雷霆サンダーボルトを撃ってくる様子はなく、もがき苦しみながら空を飛んでいるようにも見えるので……あのまま放っておいても死ぬんじゃないのだろうか。

 俺と精霊はそのまま静観していようかと、ゆっくりと空を苦しみながら飛んでいるワームを見ていたのだが……その直後に複数の光の杭が天から降り注いでワームの身体を串刺しにしたのを見て、ゆっくりとシェリーの方へと視線を向けた。


「まだ死んでませんから」


 にっこりと笑いながらそう言ったシェリーは、追加で更に空から杭を降らせ……ワームの身体を何度も串刺しにする。緑色の気色悪い血液が周囲に飛び散るのを見て、精霊はげんなりって顔をしていたが……俺はそれよりも情け容赦のないシェリーの追撃にびっくりだよ。

 最終的に身体中を神の御手ホーリーライトによって貫かれたワームは、空中で爆散してしまった。湖に降り注ぐ汚い血と肉を見て、精霊は滅茶苦茶嫌そうな顔をしていたが……あんな気持ち悪い生物を殺してやったことに感謝して欲しいぐらいだ。


「これで一件落着ですね。人間の中に裏切り者がいたり、魔の者とやらがいるとわかったり大変なことはありましたけど、これで私たちの探索者資格は停止されないですし、オールオッケーです!」

「本当にオールオッケーか? まぁ……俺は別にいいけどさ」

「街は結構滅茶苦茶だし、湖が汚れたからしばらくは綺麗な水は王都に出荷できないし……オッケーじゃないぞ」


 精霊がなにか言っているが、まぁオッケーということにしておこう。水が汚いとか、街が壊れたとかは時間が解決してくれる問題だし、俺達には関係のない話だな!

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