第50話 竜の伊吹
間違いなく、何処かで地竜が戦っている。それも、かなり怒り狂っているのだと思われる。跡を追いかけて進むごとに地震は強くなっている……つまり、震源である地竜にどんどんと近づいていると言う訳だ。
数十分も走っているとそれは見えてきた。何もない平原……いや、周囲の感じからしてここにはそれなりに木々が生えていたようだが、全てが薙ぎ倒されて平原になっているその場には地を這う黒いドラゴンと、それと相対して今にも殺されてしまいそうな愚かな人間たちが見える。
「
「
「
「
今にも殺されてしまいそうな満身創痍の人間が相対しているのを見て、俺たち4人は同時に動いていた。俺の指から放たれた超高速の雷撃が地竜の身体に直撃する。ドラゴンなんて名前が付けられている通り、奴の身体はとても硬い鱗と甲殻に覆われているので、この程度の雷魔法では少しピリッとするぐらいにしか感じないだろうが……それでも意識をこちらに向けさせることはできる。
俺の
「私の
「そんなこと言ったら私の
貫通力のある2つの魔法を同時に受けながら大したダメージを受けていない地竜は、ダメージは関係ないと言わんばかりにこちらに視線を向けた。地竜にとって大切なのは傷をつけられたことではなく、矮小な人間如きが自らに向かって牙を突き立てたことなのだ。
ドラゴンとして分類されるモンスターは意外にも、少ないものだ。しかし、それら全てに共通して言えることが、高い知能を持ちながら圧倒的な生物としての格から生まれる高いプライドだ。誇り高きドラゴンにとって、人間など矮小な下等種族でしかなく、そんな存在が自分に向かって噛みついてきたら……しかも、今日の相手は怒りやすい地竜だ。
大気が割れるのではないかと思うほどの咆哮と共に、地竜はこちらに向かって走り出す──前に、天から光の杭が降りてきた。
モンスターを滅する無慈悲な光の鉄槌が直撃した地竜は、俺たち3人の魔法の時とは違い、すぐにその場から離れて光の影響から逃れた。地竜も、さっきまでのぺちぺちと身体に当たっていた魔法とは何かが違うことには気が付いたのだろう。その証拠、と言う訳ではないがさっきまで怒り狂いながらこちらに走り出そうとしていたのに、こちらを見つめて明らかに警戒していた。
本当なら、この距離で様子見をしながら遠距離攻撃を仕掛けたり、相手の動きに合わせて色々と対策を練っていくのが定石なんだろうが……今回の俺たちの依頼は地竜の討伐よりも、先に向かった探索者たちの救援の方が主だ。地竜は放っておいても、国から強い連中が集められて、なんとかなるかもしれないが、崩壊しかけている探索者パーティーを救えるのは今だけなのだから。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……救援か?」
「まぁ……たった4人で申し訳ないですが」
「いや、1人でも助かる」
リーダーらしき男の人が、立ち上がりながら俺の横に立ってくれた。全身ボロボロでまともに戦うこともできなさそうなのに、よくもそんな気合を入れて立てるものだ……まだ死人は出ていないらしいが、それも時間の問題だな。血が止まらなくなっている人もいるし、骨が折れて腕があらぬ方向へと曲がっている人も見える。
「シェリー、治療をお願いできるか?」
「でも……私が加わらなくていいんですか?」
「それぐらいの時間は何とかして見せるさ……これでも、ギルドマスターだしな」
虚勢だ。本当は、地竜が警戒するほどの出力を出せるようなシェリーがいてくれた方がいいに決まっているのだが、このままシェリーが戦闘に参加して地竜と戦っていると、きっと背後で倒れているうちの数人は死ぬだろう。俺たちの目的はパーティーの救援……つまり、死人を出すことがもっともやってはいけないことだ。
シェリーは俺が虚勢を張っていることなんてお見通しだろうが、それでも何も言わずに頷いてくれた。俺にも一応、男としてのプライドがあるので、ここはシェリーを後ろに下がらせてなんとか時間を稼ぐ。
「どれくらいできそうですか?」
「どうだろうな……持ってきた武器は粉々に粉砕されてしまったし、なにより俺は魔法が苦手だ」
「残っているのは?」
「この盾だけだな」
「充分じゃないですか」
ちらりと視線を向けた盾は、地竜との戦いの中でつけられたのであろう傷が残っているが……形はひしゃげておらず、まだ盾として使える形をしている。傷があるのに原型を保っていると言うことは、あの盾は地竜の攻撃を防ぐだけの耐久力があるということだ。
「酷なことを言います」
「俺に盾をやれって言うんだろ? わかってるさ……今の俺には、それくらいしかできない」
「ありがとうございます。
シェリー程の効果は見込めないだろうが、俺も神聖魔法は使える。男の傷を癒してやると、驚いた顔でこちらを見てきた。
「
「色々とありまして……お名前を聞いても?」
「あ、あぁ……俺の名前はクロト。この戦いで生き残ったら、お前の話を色々と聞かせてくれ」
「そういうの死亡フラグって言うんですよ。俺はリンネです」
「よし、リンネ……俺が盾になるから思い切りやってやれ!」
なんか急に元気出してきたな。
俺たちの様子を見つめていた地竜は、口を開けながらこちらに向かって突進してきた。それに対して、全く臆することなく突っ込んでいったクロトさんに俺は苦笑いを浮かべてしまった。
「横に避けてください!」
「わ、わかった!」
何もわかっていないはずなのに、俺に対して素直に背中を預けて指示に従うその素直さ……好感が持てる性格だ。
地竜は口を開いたまま、クロトを追いかけることもせずに俺の方に突撃してくる。いや、正確には俺の背後にいるシェリーに向かって、かな。
俺は大きく息を吸い込んで……魔力を身体の隅々まで行き渡らせる。同時に、地竜も全身から魔力を口に集中させていた。
地竜の口から放たれたのは
「
2つの
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