第60話 力を求めて

 シェリーが所属したという知名度を利用して成りあがる。言うのは簡単だがこれがかなりシビアなタイミングを要求されることだと理解しているのはきっとオーバだけだ。クロトはそこまで難しいことを考えるような性格ではないだろうし、ギルドの運営は基本的にオーバがしているからこういう事態には彼の方が慣れているだろう。


「それで?」

「うーん……まぁ、色々と考えまして、もっとも簡単に知名度を上げる方法はやはり有名な人間からの依頼を積極的に受けることですね」


 探索者として名前を轟かせるにはどうしても迷宮を探索する必要があるのだが、知名度を上げるだけならば別に迷宮に挑む必要はない。一般人からすると迷宮に潜ってどんなモンスターを倒したとか言われても、迷宮の中身を殆ど知らないのでみんな反応し辛いが、やはり外の世界で活躍する方が圧倒的にわかりやすいと思う。

 今回はシェリーの注目度を利用することになるのだから、老若男女問わずに知られているような場所で活動した方が知名度は上がる。探索者としての評価には繋がらないように見えて、実際は探索者協会も無視できない影響力になってしまえば向こうも対応せざるを得ない。


「有名な人間からの依頼な……たとえば?」

「神官、とか?」

「正気か!?」


 秩序の女神に仕える神官たちは、基本的に探索者に対してなにかの依頼をすることはない。何故ならば、彼らは元々優秀な魔法使いであり、探索者に頼らずとも自分たちの身に降りかかった不幸を跳ね除けることができるからだ。そんな神官たちが探索者に個人的な依頼をする時とは……つまり、神官ですらどうしようか対応に困るような案件だけだ。たとえば、この間のドラゴン討伐みたいな?


「正気かと問われると俺はずっと正気ですとしか答えられないですけど」

「いいや、お前は正気を失っている……冷静に考えてみろ。 聖女シェリーが所属するギルドの人間が神官の依頼を受けるなんて、それはもう大聖堂の直轄ギルドと言っているようなものだぞ? そんなことをすれば俺たちは探索者ギルドとしてではなく、秩序の女神を信仰する武装集団扱いだ」

「それに関しては問題ないですよ」

「どうして、そう言い切れる」

「ちょっと伝手があるので」


 確かに、シェリーが所属していると話題になっている中で神官たちの依頼を受けるなんて、当人たちは否定しても世間は神官たちの言う通りに動く武力として捉えるだろうが、それと真正面から対抗することができる存在とは縁がある。それは、俺とシェリーが金のない状況を考えて受けた精霊樹の依頼によって繋がった縁だ。


「貴族と知り合いなので彼に少し協力してもらって、それから……エルフであるメレーナを前に押し出します」

「そう、か……その手があったな」


 エルフであるメレーナを押し出すとどうなるのか。端的に言えば、彼らは秩序の女神を信仰している可能性はあるが、宗教によって動かされている団体ではないのだと認識されることになる。その理由は、そもそもエルフは秩序の女神を信仰していないからだ。

 エルフ族は古代から森の中に住んでいると言われている神聖な種族で、彼らは基本的に秩序の女神のことは神の1柱としてしか認識していない。神として最低限の敬いの気持ちはあっても、人間のように聖堂を建てて信仰するほどではない。これに関しては、探索者として活動している有名なエルフが数人いて、そういうスタンスで活動しているから一般人たちの中でもそういうイメージがついているのだ。

 俺たちは神官の依頼を受けるが、エルフが所属しているギルドならばそこまで秩序の女神を狂信している訳でもないのか、と思わせることが大切だ。勿論、勝手に色々と邪推して変なことを言うような人間は出てくるだろうが、それは勝手に言わせておけばいい。


「聖女シェリーの伝手があるのならば、神官からの依頼も受けやすいだろう。確かに知名度を上げる、という点だけで考えれば合理的な選択と言える」

「でしょう?」

「だが、それ以外にも有名な貴族の依頼を受けるとか、協会が手を焼いている依頼を消化するなんて方法もあるはずだが、何故神官を選んだ。なにか……裏がありそうな気がするのだが?」

「あー……貴方たちに不利益なことではない、とだけさせてくれませんか?」

「訳アリか」

「すいません」


 オーバの言う通り、知名度を上げるために有名な人間からの依頼をこなす相手は、別に神官である必要はない。それこそ土地を大量に持っている貴族であったり、地方の都市を仕切っている政治家なんかでもいい。もしくは、探索者協会が出している国からの重要な依頼なんかでも問題ないだろう。それなのにあえて神官を選んだ理由は……同時に女神のバラバラに別れた力、魂、肉体に関する情報が手に入るのではないかと考えたからだ。

 俺とシェリーの最終目標は女神を完全に復活させて魔の者を倒すこと。その過程で見つけなければならない女神の力と肉体と魂に関する情報だが、当然ながら殆ど見つかっていない。そもそもどうやって女神がバラバラになってしまったのか、何故封印されているのかなんてことも知らないのに闇雲に探して見つかる訳がないのだ。そこで考えたのが……秩序の女神に仕えている人間ならば何かしらの情報を知っているのではないか、ということだ。勿論、ただ聞いたところで教えてくれる訳がないだろうことはわかっているし、たとえ知っているとしてもただの神官が知っていることはないだろう。情報を持っているとしたら……大聖堂のトップであり、この国で国王と真正面から語ることを許されている大神官だけか。


「まぁ、お前が俺たちに危害を加える奴ではないことはわかっているつもりだ。だからそこまで深く聞いたりはしないが」

「はい、いつか……いつか必ずお話します」

「なら、いい」


 仲間に対して隠し事をするのは少し嫌な気分だが、女神を復活させるなんてことはおいそれと他人に言えることではない。それこそ、神官にだって簡単に喋ることができる内容ではないのだから。

 俺は力をつけなければならない。探索者として結果を残そうとしているのはその1つの方法として考えているからだ。力をつけなくても探索者として活動していくことはできるかもしれないが、俺は女神から世界を救ってくれと頼まれた人間だ。その為には……魔の者に対抗する力をつける必要がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る