無能はいらないと言われてギルドを追放された俺、悔しさを糧に努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていたみたいです

第74話 砂漠の案内人

「可能ですよ？」

「嘘ぉ……」

　俺とシェリーは、現在グレイルの中心近くにある建物にやってきていた。そこは発掘者……フェラドゥで言う所の探索者に当たる職業なのだが、これが古い時代の遺跡とかを発掘したりする仕事をする人たちを纏めている場所だ。砂に埋もれた遺跡の内部とかには、モンスターが入り込んでいたりするらしく、モンスターと戦うことができないと名乗れないのだとか。

　フェラドゥで探索者をやっていたと言うと、ならば大丈夫だろうと外から来た人用の資格を出してくれた。それで、聞いて見るだけって感覚で王族管轄の砂漠の迷宮に入れるのかと聞いたら、あっさりと許可が出ると受付の人に言われてしまった。

「今の国王様が積極的に遺跡を発掘するって方針ですから、あの迷宮もどんどん掘ってしまえってことになってるんです。前の国王様は逆に遺跡の発掘なんて不敬だろうって消極的だったので駄目だったんですけどね」

「へー」

　良くも悪くも、街のトップである国王の政策によって全てが左右されるってことだよな。砂漠で唯一発展している街にして国であるグレイルな訳だが、そりゃあフェラドゥより国力は落ちる訳だよな。

「どうします？」

「どうもこうも……中に入れるならさっさと入ってしまった方がいいだろうな。あんまりちんたらしていると、デザスターの方が根負けしちゃうかもしれないし」

「あれが根負けするなんて思えないんですけど」

「例えばの話だよ」

　俺だってデザスターがあの程度のモンスターと戦い続けたぐらいで消耗してやられるなんて思ってもないけど、それはそれとして早く片付けた方がいいのは事実だろう。なにせ、世界を救うためにやらなければならないことが多すぎるのだ。今回、俺たちが探しているのは女神の力なのだが、肉体と魂も発見しなければならないし、そもそも女神を復活させることができたとしても、その後に世界を滅ぼさんとする魔の者もなんとかしないといけないんだから……こんな最初の所で躓いていたり、時間をかけている暇はない。

「魔の者だって手当たり次第に動きしている訳だし、女神より先に復活されたらそれこそ手が付けられないかもしれない。そういう意味でも、そこそこ急いだほうがいいだろうな」

「そうですね……確かに、そうなった場合なんて考えたくもないです」

　魔の者を打ち倒すような力を持っている人間なんていない。デザスターが戦っていた黒山羊の力を見て、俺はそう確信した。あの程度のモンスターとは思っているが、それはデザスターに比べての話であって、俺が実際に相対してあんなモンスターと戦って勝てるかどうかと言われたら……難しいかもしれない。あんなものをポンポンと生み出してこちらの世界に送っている存在に勝つには、やはりこちらも相応の戦力を用意しなければならない。それが、女神ってことだな。本人も自分が復活すれば大抵はなんとかなるって言ってたし……そこに賭けよう。

　発掘者としての資格を貰った俺たちは、街の外れの門近くでトカゲのようなモンスターに餌をあげていた。

「サンドリザードは水をあげれば1日中走っていられるからね」

「ありがとうございます」

　広大なこの砂漠を金持ちたちはどうやって移動しているのかと思っていたのだが、街の端っこにサンドリザードを貸してくれる店があった。サンドリザードなんてモンスターは聞いたことがなかったのだが、大きな体を持っているが俊敏で、水を飲んで砂を食べれば生きていける温厚なトカゲらしい。ここの住人は、みんなサンドリザードに乗って移動するんだとか。

　シェリーと2人で2匹のサンドリザードを従え、門から外に出て……俺は発掘者の資格と共に渡された青い石を掲げる。

「おぉ……これが」

「凄いですね」

　青い石が何でできているのかは聞いていない。しかし、砂漠でこの石を掲げることで次の目印までの案内してくれると、受付の女性が言っていた。事実、俺が掲げた青い石からは真っ直ぐ西の方向に光が伸びている。これを追いかけていけば、迷宮に辿り着くって話らしい。

「よろしく頼むぞ」

　サンドリザードの首を撫でると、小さな声で鳴きながらゆっくりとした速度で加速し始め……数十秒で馬並みの速度になった。砂の上をこれだけの速度で走れるなんて大した脚力だなと感心しながらも、砂塵が目に入らないように外套を深く被る。

　サンドリザードの足を使ってもグレイルから迷宮の入り口まで1日はかかると教えられているので、そこまで急いで進んではいない。もっとも、サンドリザードの制御の仕方なんて今日ちょっと聞いただけなのでサンドリザードに任せているのだが。

「砂漠の迷宮……女神様は、どうして砂漠に迷宮なんて作ったんでしょうか」

「さぁな……なにか理由があったことは間違いないだろうけど……てか、それを調べるための発掘者なんじゃないのか？」

「基本的に金が目当てって感じでしたよ」

「それはそうなんだろうけどさ」

　発掘者の多くは遺跡から発見される珍しい遺物なんかを買い取ってもらうためにやっているらしい。古代の研究目的で遺跡に潜るような変人は相違ないってことなんだろうけど……それにしてももう少し浪漫を求めてもいいと思うのに。

　石から放たれる青い光をぼーっと眺めていて、数十分もすると青い光が発射されていた場所に辿り着く。

「なんだ、これ？」

「旗、ですか？」

　青い石から放たれていた光線は砂漠に突き立てられた旗のようなものの先端に向けて発射されていたようだ。しかし、その旗なのだが……どうも実体が存在していない。幻影で作られた旗、と考えると……俺たちが行きで迷っていた砂漠の中にも見えないだけで同じものがあったのだろうか。盗賊の男は、この旗を目印に歩いているのか？

「うぉっと！？」

　旗の下にゆっくりと近寄った瞬間に、青い石から再び別の方向へと光が放たれ、俺が指示を出す前にサンドリザードがその光を見て走り出した。急な方向転換にちょっと驚いたが、サンドリザードはこの光を追うように調教されているようだな。温厚とは聞いていたが……ここまでの大きさのモンスターがこんな風に調教できるなんて、単純にグレイルの人間が凄いだけな気もしてきた。フェラドゥじゃあまともにモンスターを使役できる技術なんてないからな……地下迷宮がある街だから、モンスターは敵って印象が強すぎるのかもしれないけど。