第15話 怪鳥と騎士

「でも、なんで急にモンスターが襲ってくるようになったんでしょうね」

「そこなんだよな」


 昼飯に具材をパンで挟んだ軽食……まぁ、簡単に言えばサンドイッチみたいなものを食いながら俺とシェリーは話していた。大通りに面した店の外テーブルで食っているのだが、人通りが少ないことがやはり気になる。

 シェリーが言った通り、モンスターが精霊を狙って襲ってくるようになったのはここ最近の話らしい。ずっと前からそんな感じなんだったら納得できなくもないんだが……ここ最近、しかも数週間ぐらいの話らしいんだよな。


「そもそもモンスターがどこからやってくるのか、誰かに操られているのならばその誰かが何処にいるのか……そこら辺を整理しないと今回の問題が完全に解決する訳じゃないよな」

「……え?」

「ん?」


 何気ない会話をしていただけって俺は認識なんだけど、なにか気になるのことがあったのかシェリーは素っ頓狂な声をあげて手に持っていたサンドイッチをそのまま紙皿の上に置いて真っ直ぐ俺の方を見てきた。


「この騒動に、黒幕がいて……その黒幕がモンスターを呼び寄せているかもしれないと、リンネさんは考えているんですか?」

「あくまでも可能性の一つとして、だよ? モンスターが徒党を組んで戦うなんて頭を使ったことをするなんて考えられないから、誰かに入れ知恵されていると考えるのが一番自然じゃないか? 何が目的で、誰がやっているのかなんて全く見当もつかないけど……少なくともモンスターが自然に惹かれてやってきたって言われるよりも俺は納得できる」


 何度も言うが、モンスターの知能は低い。裏側から誰かが操っているでもない限りは、一つの目標に対して徒党を組んで何度も攻撃するなんてことをするほどの頭は存在しない。

 俺の言葉に気になることがあったのか、シェリーは考え込むような仕草を見せた。


「ま、そもそもモンスターを操る方法なんて俺は知らないから本当に誰かがやっているのかどうかは知らないけど、裏側には誰かがいるかもしれないってことも認識しておかないとってことだよ」

「契約魔法、それを使えばモンスターだけではなく、力で劣る人間も縛り付けて自らの思い通りに動かすことができると、聞いたことがあります」


 手に持っていたサンドイッチにかぶりつこうとしたら、いきなりシェリーから核心に迫るようなことを言われてしまって手が止まる。はみ出た具材が皿の上に落ちるのを見てから、俺はゆっくりとシェリーに視線を向ける。


「その魔法、どこで見れる?」

「少なくとも、王立魔導図書館には存在しない筈です……なにせ、人を操って大犯罪を巻き起こしかねない危険な魔法ですから」

「だろうな」


 表社会に出てきていい真っ当な魔法ではないことはわかる。しかし、シェリーが効いたことがあるってことは……マジで実在する可能性が高いってことだ。

 手の中に残っていたサンドイッチを口に詰め込み、皿に転がった具材も口に放り込む。


「悠長に飯食ってる場合じゃないかもしれないな」

「……遅かったみたいですね」


 さっさと食い終わってそこら辺を調べてみないといけないと思ったが、それよりも早く……街の上空を巨大な鳥のようなモンスターが通り過ぎていった。全部で30匹ぐらいはいそうな群れがそのまま街の北側、つまり精霊が住んでいるらしい湖の方へと向かって行った。

 俺とシェリーは無言で街の北側に向かって走り出す。あのデカイ鳥を撃退して街を守るのが今回の俺たちの仕事になる訳だからな……必死になって守らないと探索者協会になんて言われるかわかったものではない。


 街は湖のすぐ近くまで続いている。空を飛ぶ怪鳥の群れに気が付いた住民が逃げているのを横目に、湖の方へと近づいていくと……そこでは複数人の人間が既に応戦していた。まぁ、普通に考えて街の生命線である精霊を守ろうとする人間が俺たちだけな訳はないな。


「シェリー、いけるか?」

「はい」


 30匹いた怪鳥は、既に5匹ほど駆除されて残りは25匹になっている。どうやら口からなにか吐き出して攻撃するようなタイプでもない、ただフィジカルだけで攻撃する弱いモンスターだったらしく、精霊を守ろうとしている人間たちに大した損害は見受けられない。

 シェリーが俺の前に飛び出し、神の射手ホーリーアローを発動して次々に怪鳥の頭を撃ち抜いて落としていくと、防衛の為に戦っていた人たちがこちらに気が付いてゆっくりと近づいてくるのが見える。


「助かったが……君たちは?」


 シェリーが最後の1匹の頭と心臓を撃ち抜くと同時に、騎士のような恰好をした男が俺に喋りかけて来た。探索者……ではなさそうだ。この街に常駐している騎士だろうか?


「ちょっと王都の方でやらかして、その罰でここを手伝うように言われて来た。こっちも色々と知りたいことがあるから……情報交換ってことにしないか?」

「……わかった」


 王都でやらかしたって言葉を聞いて本当に大丈夫かって顔をされたが、俺ではなくシェリーの方を見て大丈夫だと判断したらしく、素直に受け入れてくれた。シェリーみたいな美少女がいるとこういう時に便利なんだよな……俺が1人だったら怪しい奴って話から身分証明まで行ってたな。


「僕の名前はギド。一応、このレスターの街で騎士をやっている」

「騎士ねぇ……一応って部分も気になるけど」

「あぁ……正式に騎士として任命されている訳ではないから、一応って言ったんだ」


 だろうね……この国で騎士を名乗れるのは王族に認められた人間だけのはずだから、そんな奴がこんな場所で街を防衛している訳がないもん。しかし、実際に剣を持って人々を守ってるならそれは騎士だよな。


「モンスター退治の専門家が来てくれたのは嬉しいよ。僕たちにはモンスターと戦うような知識はないから、君たち探索者に色々と教えてもらえると嬉しい」

「任せろって言いたい所なんだけど……俺はそんなに詳しくないから、聞くならこっちにしてくれ」

「まぁ、確かにモンスターに関しては私の方が詳しいですけど……」


 俺がシェリーを指差すと、すごい不満そうな顔をされた。しかし、俺は今まで迷宮でも足手まといになった思い出はあるが、しっかりとモンスターを倒した思い出なんて殆どない。実際、モンスターに関してはそれなりに知識だけを持っていて、実践経験なんて殆どないからな……そんなもんシェリーに聞いた方が早い。

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