第58話 同盟成立

 オーバが言葉で制止するのを無視して、オリーブは更に魔力を滾らせながらこちらの向かって歩き出した──瞬間に、俺の前にクロトが立つ。


「止まれ。これはギルドマスターとしての命令だ」

「……意外だな。お前はアタシと同じ、決闘の重要性をしっかりと理解している人間だと思っていたのに」

「思ってるさ。けどな……はっきり言って、お前はもう負けたも同然なんだよ。最初に油断の言葉と共に派手な攻撃され、それ以降も悉く攻撃を始める前に初動を潰されて連撃を叩きこまれている……お前が一番わかってるだろ? こいつが、リンネが手加減してなかったらお前、3回は死んでる」


 まぁ、竜の伊吹ドラゴンブレスを当てるつもりで本気で放ってたら数十回は殺せたと思う。確かに、俺は殺さないように加減をした中で決闘をしていたが……基本的に相手の初動を速度や範囲で潰しての追撃が基本だから、横から見ると滅茶苦茶卑怯な戦い方なので、決闘に相応しいかと言われたら相応しくないかもしれない。けど、俺は近づかれた時の近接戦闘が滅茶苦茶苦手なので仕方がない。これは自分が勝つための仕方のない方法なのだと自分を納得させて……いや、俺はどちらかと言えばどんな形であろうとも最終的に生き残った方が勝ちだと思っているから卑怯とか納得させてとか思ってもないけど、それでもそういう態度を見せることで相手の信条を慮っているのであってだな。


「ちっ……この勝負はまた後に預けておくよ。アタシとの決着を忘れるんじゃないからね!」

「……面倒な人ですね」

「そう言うな。あいつだって真剣な戦いが好きなだけで、別にそういう部分しかない訳じゃないから」

「本当ですか? あんな感じの戦闘狂って何処まで行っても思考が戦闘かそれ以外かに別れてるのが普通ですよ。俺、経験ありますもん」


 トップ層のギルドになってくるとそういう感覚がイカレた探索者が沢山出てくる。いや、逆にまともな感性ではトップの人間にはなることができないってことなのではないかと俺は思う。そもそも、あんな強力なモンスターが大量に湧いてくる迷宮に対して突っ込んでいくような連中が正気とは思えないし、それにトップ層ともなれば察するに余りあるだろう。要するに何処かしらイカレている部分を持っていないと、探索者として成功するなんてことは人間にはできないのだ。まともな感性、まともな性格、まともな人生観、それら全てを投げ捨てた先に探索者最強の称号と人間性を捨てた怪物としての未来がある。

 俺の言葉に思う所は一応あるのか、クロトはオリーブの性格を擁護することもなく苦笑いで流して。それはつまり、性格に難ありというのを認めているようなものなのでやめた方がいいのでは? まぁ、多分クロトも問題だと思ってるんだろうけど。


「それで、同盟を結んでくれるんですか?」

「まず、それ以上にお前のギルドについて聞きたい。メンバーは4人だと聞いているが」

「そうですね。女所帯で滅茶苦茶息苦しいのでなんとかして欲しいギルドです」

「それは……いや、今は関係ないだろう」


 一瞬、オーバの視線に同情が乗っかったがすぐに消えてしまった。やはり簡単に情に流されてくれるような人間ではなさそうだが、こういう人って1回でも身内に入ると滅茶苦茶甘くなるんだよな。まだ俺は身内じゃないからこういう厳しい態度を取られているけど、そのうち軟化してくれるだろう。


「メンバーの名前と特徴は?」

「シェリー・ルージュ」

「聖女シェリーか!? 確かに『竜の伊吹』から抜けたとは聞いていたが……まさか、お前も『竜の伊吹』に所属してたのか?」

「まぁ、当時はまともな魔法も使えずに無能扱いされてましたけど」

「無能扱いからよくここまで強くなれたものだ。同盟に関しては関係のない話だが、個人としてお前に敬意を表したい」

「あはは……まぁ、俺が魔法をここまで使いこなせるようになったのも、シェリーのお陰なんですけど」


 本当のことだ。シェリーが魔法の基礎的な使い方を教えてくれなかったら、見た魔法を模倣することができる俺の力も宝の持ち腐れになっていただろう。彼女との出会いが俺の人生を変えた……まぁ、ちょっと気持ち悪い言い方になるならば、シェリーは俺にとっての運命だったのだろう。


「他は?」

「メレーナ・プリム。エルフ族の人で、ちょっと前に森に向かった時に仲間になってくれた人です」

「エルフ族か」

「勿論、精霊魔法も使えますよ。基本的には弓とそれを補助する魔法を主に使っていますね」

「また遠距離か。ちょっと偏り過ぎでは?」

「それは俺も思ってます」


 だからこそ、同盟相手には近接戦闘ができる人を求めてきたんだけどね。クロトが俺の要望にぴったりの人物だったので、こうまして同盟を結ぼうとしているのだ。


「最後は?」

「セレ……あー……」


 そのまま名前を告げようとしたのだが、聞く人が聞けば一発で他国のお姫様だってわかるよな……でも、この流れでフルネームを出さなかったらそれはそれで何かあることを隠してますって丸わかりだし、これはどうすればいいのだろうか。


「どうした?」

「セレス・メレニシアス・サロモニア・ティリエル……です」

「長い名前だな」

「ティリエル? それは──」


 オーバはそこで言葉を切って口を噤んだ。多分、セレス姫が隣国アルティリア王国の王族であることに気が付いたのだろうが、それをここで言えばどうなるかわかったものではないと察してくれたのだろう。やはり、オーバはこの『紅蓮獅子』の頭脳役も務めているらしい。


「わかった。お前たちと同盟を結ぶ方向で話を持っていく」

「本当か!? さっきまでなんか色々と言って同盟を結ばないとか言ってたじゃないか!」

「事情が変わった。メンバーは粒ぞろいだし、それに……大きな後ろ盾を持っているようだからな」

「お転婆ですから本家そのものが俺たちの後ろ盾についているわけではないですよ?」

「……位階は?」

「7位、って言ってましたね」

「なら本人が思っていなくても、向こうの国では勝手にそういうことになる」


 ですよね。

 結局、セレス姫の影響が大きかったがなんとか無事に同盟を結ぶことができそうでほっとした。同盟無しで単独で活動するには限界があるし、新規メンバーを募って集まるような人望もないので、仲間が大量に増えるのはありがたいことだ。後は正式的な手続きを踏んで、しっかりと同盟であることを知らしめるだけだな。

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