第18話 人外の力
何が目的か知らないがよくもまぁこんなことをしてくれたものだ。助けて欲しいと俺たちの助力を求めながら自分は裏からモンスターを操って精霊を攻撃するなんて用意周到なこと……なんのためにやっていたのやら。まぁ、本人に聞けばいいか。
「リンネさん、シェリーさん、どのようなご用件で?」
「惚けるな。状況的にお前以外の誰にできる」
いつでも攻撃できるように手を開いて魔法をちらつかせながら、俺はギドに詰め寄る。こいつだ……こいつ以外にモンスターを操って的確に精霊を攻撃することなんてできはしない。俺たちがやってきたのは探索者協会からの依頼だが、そもそも探索者協会に対して救援を依頼したのはギドだと聞いた。何故救援を依頼したのか……そんなことは知らないが、とにかくこいつ以外にできる奴なんて今のこの街には見当たらない。
「なにかの間違いでは? 僕はこの街を守る為に騎士として……ずっと戦ってきました」
「そうか」
「女神に誓って、僕は魔の者とやらの手先になってはいないです。僕は……レスターを愛しているのですから」
シェリーはちらりとこちらに視線を向ける。女神の名前を出されたことで本当にこいつが黒幕なのか、ちょっと疑っているのだろうが……息を吸うように嘘を吐く人間なんてこの世にはごまんといる。こいつもその一人だ……間違いなく、嘘を吐いている。ただ、その嘘をしっかりと大衆の面前で示さなければ、俺がいちゃもんを付けているようにしか見えない。そもそもレスターの地元民からしたら、俺たちの方が外からやってきた怪しい人間だからな。そうやって疑いの視線が俺たちに向くように、外から救援を呼んだのかもしれないが。
「モンスターたちは正確に精霊がいる場所を知っているよな。何度も襲っているからなのか知らないが……よくもまぁ毎回、精霊の近くまでやってこれるものだ。あれでも毎回精霊は姿を現す場所を変えているのに」
「だから、なんですか? 僕たちだってその場所は知りませんよ。なにかしらの力を感じ取ってモンスターが襲い掛かっているのでは?」
「まぁ、問答をするために呼んだわけじゃないからここら辺のことはどうでもいいんだよ……その右腕、見せて貰おうか」
騎士を名乗り、常に全身を覆うようなプレートアーマーを身につけているギドは、顔は見せてもそれ以外の素肌は絶対に見せないようにしている。シェリーが言っていた契約魔法……それにはどうしても隠さなければならない紋様が浮かび上がるから。
「言いがかりはやめてくれませんか? こんなことをして……僕たちを分断するのが目的ですか?」
「御託はいいんだ……さっさと魔の者とやらの話を聞かせてくれ」
ぶっちゃけレスターがどうなろうとも俺には関係ない話……とまでは行かないが、魔の者とやらの方が重要だ。
「……どうしても僕が黒幕だと思いたいようですが、この場にいる者は逆に貴方の方が怪しいと思っているんですよ? それを理解してから──」
「──
「おいっ!?」
どうやってギドに認めさせようとかと思っていた俺の耳に聞こえてきたのは、シェリーの詠唱。言葉と同時に天から光が出現し……精霊の湖に柱が降り注ぐ。水を大量に巻き上げながら突き刺さった光の柱に対して、反応して飛び出してきた精霊はびっくりした様子を見せている。まぁ……住んでる家にいきなり柱が落ちてきたら誰だってびっくりするわな。
「何事っ!?」
「……いつまでもごちゃごちゃとうるさいんですよ。さっさと認めてこの街から出て行けばいい」
「くっ!? 乱心したか……やはり彼らこそ敵だ!」
「
ギドが抜刀して俺たちを差したが、周囲の人間たちも困惑している。そりゃあ、腕を見せれば無実を証明できるのに、いつまでもグダグダ言って戦闘になっているんだから多少はギドの態度に違和感を覚える人間もいるだろうな。それにしても……シェリーってこんなに喧嘩早いっけ?
ギドが剣に魔力を纏わせるのと同時に、シェリーは更に神聖魔法を発動する。
「また光の魔法っ!? ぐぁぁぁぁっ!?」
天から降り注ぐ光がギドに触れた瞬間に、右腕から肉が焼けるような音を発しながら煙を上げる。魔に生きる者だけを焼く光なんて、言い換えれば焼かれた人間は即ち敵であると判断するかなり異端審問みたいな魔法なんだが……実際にギドの右腕だけを焼いているのだから信憑性はあるか。
右腕の鎧だけ溶けだし、ギドの皮膚を露わにすると……そこには黒い蛇のような紋様が浮かび上がっていた。あれを見てもタトゥーぐらいにしか見えないのだが……精霊にはそれが別のものに見えたらしい。
「……魔の者に力を貰ったな? 何故だギド」
「ぐっ……聖女なんて呼ばれている女の力、まさか本物だとは思わなかった。ただ強いだけの女が、王都でちやほやされているものだと油断した」
「お前、馬鹿だろ」
あれだけ
「なんでお前が魔の者から力を……いや、それ以前にどうやって封印されているはずの存在と接触した」
「……何故この力を手に入れたのか? 力に飢えていた僕を突き放したのお前だろうっ!」
「知らん」
おい精霊……人間ってのはそういう細かい所から簡単に反転する生き物なんだから覚えておけよ。しかし……力を飢えていた人間に対して無造作に力を与えるとは、魔の者とやらは随分と効率的に人間を支配しようとしているんだな。
「この力はすごいぞ……どんなモンスターだろうと簡単に支配できる。精霊がいなくなれば僕はこの街を支配して……王都を滅ぼしてやる」
「何故そこで王都が出てくるんですか? 頭がイカれてるんですか?」
「王都が僕たちを放置しているからいつまでもこんなぼんくら精霊に街の命を握られることになる。精霊が死ねば街が滅ぶ? 冗談じゃない……僕たちはこんな人外に生かされるために生まれてきた訳じゃない」
ふむ……一理ある。
人外の掌の上で平和に過ごしていることを知った人間が考えることは大体3つ。1つはそのまま現実を見ないようにする、2つ目は人外に感謝して守ろうとする。そして3つ目は……人外に支配されることを嫌って排斥しようとする。俺もそのタイプだな……どちらかと言えばだけど。
「だからって新しい人外に力を貰ってたら世話ないだろ」
「黙れ!」
まぁ、俺だって女神からよくわからない力を与えられているから似たようなものか。ここは黙って片付けて……さっさと王都に帰ろう。元々、この街を救いたくてやってきた訳でもないしな。
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