第9話 疑似再現
天から落ちる光の杭は不浄なる者を貫き神の裁きをもたらす。それが秩序の女神を信仰する者たちによって描かれた古代の文書に残されていた、神聖魔法の説明。
聖女シェリー・ルージュの使用した神聖魔法「
胴体を貫かれた紫の亜竜は血を吐きながら痛みに対して叫び声を上げていた。しかし、
「
「
ドラゴンが口を大きく開いてからやることなど決まっている。体内に溜め込んでいた魔力を口から解放して、絶大な威力を発揮するドラゴンブレス。完成された生物とすら言われるドラゴンにのみ許された、万物を消し飛ばすだけの威力を持った魔力の咆哮。それを察知した俺とシェリーは、即座に魔法を放ってその発動を止める。
俺とシェリーの魔力に反応して、上空には黒い雷雲が現れる。そこから俺が放った雷の上級魔法
「危ないっ!?」
「
背後の翼を動かしながら空を駆けるシェリーは、神聖魔法を更に発動する。自らの周囲に大きな光の弓を作り出し、魔力だけでそれを動かして敵を滅する光の矢を放つ神聖魔法、それが
すぐさま助けようと思って俺が間に入ろうとしたが、シェリーに視線だけで止められてしまった。確かに、今の俺がシェリーと亜竜の間に入ったところで大して役には立たないだろう。これは事実であり、俺が認めなければならない今の俺の立ち位置だ。
シェリーが動きを止めた一瞬を狙って、亜竜の口に溜められていた魔力が一気に解放される。
「ぐぅっ!?」
絶えず放たれる複数の光の矢によって、
亜竜とシェリーの我慢比べ……それが始まってから既に数時間の時が経ったんじゃないかと思えるぐらいに、俺の体感時間は圧縮されていた。それは自らの命の危険を感じているからなのか、それともシェリーが危ないと思っているからなのか……それはわからないが、誰かがどうにかしなければこのままではシェリーが死ぬ。それだけははっきり理解できたし、シェリーと亜竜の戦いに割って入ることができる人間は、俺しかいないということもわかっていた。
もうここまで来たらできるできないは問題にはならない。やるのか、やらないのか……俺に残された選択肢はそれだけだ。
頭の中で思い描くのは凄まじい魔力の奔流。魔法を使用するのに必要不可欠なイメージは今回に限って言えば必要ない……何故ならば、想像するよりも目の前にあるものを参考にした方がいいからだ。あとは、その目の前にあるものをそのまま俺が放つことができるのかどうかだが……できなければ死ぬだけなら、わかりやすくていい。
「っ!? リンネさん!? 何をっ!?」
魔力と魔力が衝突して周囲に破壊を撒き散らしている場所までやってきた俺の姿を見て、シェリーが動揺しているが今の俺には関係ない。
身体の中に渦巻いている魔力を同じように循環させて、両手の間に出現させる。竜の顎のように手を上下に合わせてからゆっくりと開いていき……間に出現した魔力に向かって思い切り体内の魔力を噴出、起爆させて前方に向かって射出する。
「
本物の
シェリーの前に飛び上がって放った
「ぐぅっ!? は、早く追撃してくれっ!」
「
三度、天から降り注いだ裁きの杭は亜竜の身体を貫く。痛みと衝撃でガクン、と態勢を崩した亜竜の隙を見て、俺は
自らの破壊の奥義が破られたことに対して呆然とした様子を見せた亜竜は、そのまま眼前まで迫っていた
前々から姿を確認されながらも、誰も発見することも討伐することもできなかった亜竜が、できたばかりのギルドの探索者が倒したなんて情報は一瞬で広まっていた。最近はSランクギルドとAランクギルドぐらいしか話題にならないから、新しい話題に誰もが飢えていたってこともあるんだろうが、亜竜を1匹倒しただけで少し騒ぎ過ぎだと思ってしまう。
勿論、亜竜を倒すことが大したことではないなんて思っている訳ではないが……流石にこうまで騒がれていることの当事者になると、どうにも気後れすると言うか。
「
「俺も驚きだよ。でも、固有魔法すらも模倣できたんだからどうにかしてあらゆる魔法を模倣することもできるんじゃないかと思ってさ。命がかかってたってのもあったし、火事場の馬鹿力ってやつかもね」
完全にドラゴンがブレスを吐く原理まで真似できた訳ではないからあくまでも疑似ではあるが、実際にドラゴンが持つ破壊の奥義を模倣したのは我ながら凄まじいことだと思う。
小さな祝勝会としてシェリーと共にお茶を飲んでいたが、そこにずんずんと人が近づいてきた。
「表に出な」
「……アリウスさん」
木製の机にナイフを突き立てるアリウスさんの姿に、俺は何も言えなかった。
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