第64話 衝撃
クロトは強い。地竜との戦いでも完全な有効打にはなっていなかったものの、地竜に対して鬱陶しいと思わせるほどの攻撃を放っていたことからもわかっていたことではあるのだが、こうやって直にモンスターを倒している姿を見ると本当に実感する。ともすれば、ギルドのランクとは釣り合っていないと思えるぐらいにはクロトの強さは圧倒的だった。ただし、地竜のように外殻が硬い相手であったり、特殊な攻撃しか通用しないモンスターには極端に弱いだろうなってのが俺の感想だ。クロトの攻撃は、見ての通り物理一辺倒だから。
槍ではなく、剣からあれだけの突き攻撃を放つのは見事だと思わなくもないが……それにしたってあの威力は少し引いてしまうぐらいの力だな。海から飛び出してきたモンスターだって大きさから考えて弱い訳ではなかったはずなんだが、それは簡単に沈めることができるんだから凄まじい力だ。
「あんなモンスターが出てくるなんて思ってもなかったな。念のために剣を持ったままで助かった」
「剣を持っていなかったらどうしていたんですか?」
「そりゃあ……素手でなんとか頑張ってたんじゃないか?」
「無謀ですね。まぁ、らしいと言えばらしいのかもしれませんけど」
「無謀って言うなよ。別に勝算が全く無い訳じゃないんだぜ?」
それはそれでどうかと思うけどな。魔法が苦手なはずなのに無手でも勝算があるぐらいには手札があるって考えると末恐ろしく……いや、別にそこまで言うほどでもないか。シェリーだって基本的に無手で何でも倒してるし。
「楽しそうにしているが、そろそろ船が加速するぞ」
「え?」
船が加速? そんなエンジンを積んでいる船じゃないんだから加速なんてする訳がないだろう、とオーバに対して言おうと思ったら、船が大きく揺れて明らかに加速したことがわかった。
「な、なんで加速するんですか!?」
「海流だ。ここら辺は大陸から離れようとする海流が常に発生していることで有名なんだ。だから、この方角から上がってフェラドゥに向かう船は存在していない。それに……こっちは原因不明だがここら辺は常に北から南に風が吹いている。だから海流に乗って更に追い風で加速することができるってことだ」
帆船ならではの加速方法だが、原因不明の風って怖くないか? どんな生物が潜んでるかもわからないような場所に良くもまぁ、船で突っ込んでいけるものだ。
「じゃあ帰り道はここら辺を迂回していくんですか?」
「そうなるだろうな。俺だって正確に孤島の位置を知っている訳じゃないから、どういうルートで帰ることになるのかを明確に示せるわけではないが、基本的にはこの海流と風の影響でこのルートで帰ることはできない。完全に行き専用だな」
へー……事前に航路とか聞いていた訳じゃないから全然知らなかったけどそんな感じだったんだ。まぁ、俺的には目的地の航路についてくれたらなんでもいいからそんなに興味ないんだけども。
しばらく船に揺られていると、島らしきものが薄っすらと見えてきた。島が近づくに連れて、オーバが言っていた海流と風が弱くなっていき……次第に元のスピードへと戻っていった。ちらりと先ほどまで走ってきた海域に目を向けると、何故か寒気がしてきたのだが……これは風によって運ばれてきた冷気によるものなのか、あるいはあの海域に存在しているなにかを俺が勝手に感じ取ってしまったのか。どちらにせよ、通り過ぎた海域のことなんて気にしても仕方がないので海を眺めるのはやめにしよう。大海原の真実など、誰にもわからないのだから。
島の方へと視線を向けると、海岸沿いには港のようなものは当然ない……と思ったのだが、どう見ても自然にできたものではない破壊の跡が三日月型にできており、船はその中へとゆっくりと進んでいった。
「神獣って、光線とか吐くのかな」
「え、どうしてですか?」
船から島を探索する為に用意した食料などの荷物を降ろしている最中に、俺は足元に広がっている破壊の跡を見ながらそう呟いたら、シェリーが首を傾げていた。
この港のような跡が神獣によって生み出されたものだとして、爪や牙を振るってもこんな跡にはならないのは明白なので、必然的に魔力の光線とかで地面を爆発させたとかじゃないと説明がつかないだろう。
「何の話かわかりませんけど、神獣の戦っている姿についてはあまり詳しく残っていないのでわかりませんよ?」
「そうなんだ。まぁ……モンスターが光線吐くなんて当たり前のことかもしれないしいいか!」
「なんだぁ!?」
「女神様が降臨したのか!?」
船の乗組員たちが天へと昇っていく光を見て女神様が降臨したのかと言っているが、探索者である俺たちには見慣れた光景とも言える。あれは……魔力の奔流だ。
「
冷静に地面を隆起させて正面に壁を作ると、同時に放たれた光の衝撃波がここまで届いてきた。この
どう考えてもこちらを狙った攻撃ではないのだが……情報通り神獣らしきモンスターがここで戦っていることは間違いないようだ。ちらりとシェリーたちの方へと視線を向けると、全員が硬い顔をしていた。
「まぁ、簡単に見つかりそうでよかったですね」
「……暢気な奴だな。いつ、あの攻撃がこちらに向かって放たれるのかもわからないのに」
「本当にこちらに向かって放たれると思ってるんですか?」
「可能性の話をしているんだ」
「それこそ無いですよ」
正直、あれだけの出力を放つことができるモンスターなんてのはドラゴンか特別なモンスターだけだろう。そして、こんな孤島にドラゴンが住んでいるとは思えない。なにせ彼らは天敵が存在しない絶対の種族なのだから、こんな小さな島に留まる訳がない。十中八九神獣で、魔法による攻撃も悪魔のようなモンスターに対して仕掛けたもので間違いないだろう。
問題があるとしたら、女神に仕えた神獣に襲い掛かる悪魔のようなモンスター……それはどう考えても魔の者関係だろうなって話だけだ。魔の者が深く関わっている問題ならば、簡単には片付かないだろう。そう確信できるだけのことを、積み重ねてきたのだから。
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