第100話 先手必勝
どうにも解せないことばかりだ。
国王が消えたって言うのに国はなんの影響もないかのように動いている。まだ翌日のことだから色々と誤魔化しているのかと思ったが、王城の方にも目立った動きはなく、騎士団も特に騒いでいる様子はない。昨日は王城でデザスターが暴れているはずなんだが……その影響も全く感じさせない。
「どうしたんですか?」
「……いや、なんでもない」
王城の現状ばかり気にしても仕方がないので、今はとにかく女神のことを考えよう。掌の上にある白色に発光する球体を眺めながら、ゆっくりと聖堂に向かう。
女神の魂は発見した。王城の中で不気味な魔力を放っていた部屋の中心に、魔法陣で囲まれて置かれていたこの球体が女神の魂であることは、一目見ただけですぐに理解できた。
国王はこの魂から溢れる力を魔の者に捧げることで、自らに力を分け与えて貰っていた。魔の者は人間に対して興味を持っていないし、下等な種族として見下しているが……女神の魂から力を得ることができる方がメリットがあると考えて、国王のようなクズに力を与えていたのだろう。俺に負けた瞬間に、殺すぐらいには下に見ていたようだしな。
「色々とあったけど、これで女神の魂も、肉体も、力も取り戻したんだから……なんとかなるよな?」
「はい。女神様は遍く大地をその光で照らし、闇を打ち倒すことができるとされています」
「実際に会話してみて、できそう?」
「……多分、大丈夫だと思います!」
ねぇ、シェリーの信仰心がちょっと薄れてない? でも、俺は悪くないよね? 女神が等身大の自分を見せちゃったから、シェリーの中にあった過剰に装飾された女神様って偶像が崩れただけだよね?
誰に告げる訳でもない言い訳を心の中で並べながら、俺は女神が待ってる部屋に足を踏み入れた瞬間、手の中にあった光の球が浮かび上がって消えた。
「あ?」
「え?」
いきなり手に持っていた物が消えたことに思考が追い付かなかったのだが、俺の気持ちの整理がつく前に安置されていた女神の肉体がゆっくりと起き上がり……腕を伸ばしながら欠伸をしていた。
「うん、身体の調子は悪くないわね。ちょっと力を抜かれちゃったみたいだけど……これぐらいなら充分に戦えるし、なんとかなりそうかも」
「あの……」
「あぁ! ありがとう! 私を助けてくれて!」
いや、女神の肉体が動き始めた時点で理解はしていたよ……この軽い感じで喋っているのが女神なんだろうなって。でもさぁ……まるで昼寝していた人が起きて仕事しなきゃみたいな感覚で起き上がられるのは、ちょっとどうかと思うんだよね。そんなことしてるからシェリーの信仰心が薄まるのでは?
「酷いなぁ……私はいつも通り、普通に過ごしているだけなのに」
「ナチュラルに人の心を読むな」
これだから人外は。
「でも、ちょっとマズいことになっているのは事実なんだよね」
「マズいこと、ですか? 女神様が復活したのに解決できない問題があるんですか?」
「うん。私の魂が削られているみたいなの……心当たりは?」
「ある」
魂が削られるって表現は全く理解できないが、女神の魂になにかしらの仕掛けを施していた奴のことは知っているのでそれ以外にないだろう。
俺は手短に国王と魔の者が関与して女神の魂に細工していたことを伝えた。
「あちゃぁ……だからか」
額に手を当てて、女神はやらかしちゃったみたいな感じになっているんだが……俺とシェリーは全く状況が飲み込めていない。そこら辺をしっかりと説明して欲しいんだが。
『魔の者が予想よりも遥かに早く復活しかけているのは、女神の魂を削って自らの力に変換、もしくは封印を破る為に使っていたからだろう』
「デザスター……姿が見えなかったからてっきり騎士団に捕まったのかと思ったぞ」
『阿呆。この私がそんな簡単に捕まるか』
何処から入り込んだのか、いつの間にか子猫ぐらいの大きさになっているデザスターが女神と俺たちの間に割り込んできた。一瞬、敵かと思って身構えてしまったのだが……普通に考えてこんな小さい敵はいないか。
「デザスター、やっぱり魔の者は?」
『うむ……既に気配を感じるほどに封印が破られかけている。お前の力が戻る方が先だったのは幸いか』
「女神の魂を削ってか……じゃあ、魔の者の配下が女神の遺した遺産を狙っていたのも?」
『封印を弱めるため、と考えるのが妥当だろうな。逆にそれ以外の候補が見つからん』
「人間が魔の者に対抗する為に遺したものだったんだけど……裏目に出ちゃったなぁ」
心の底から落ち込んでるって感じに項垂れている女神をみるに、そこまで深く考えていなかったようだ。まぁ……本来ならばあと数千年は封印が持続するはずだったんだから、そんなことを想定するなんて無理だろう。と言うか、既に起こってしまったことで女神を責めるつもりなんて俺にはさらさらない。
「過去を悔いる前に今からどうするかを考えるべきだろ。魔の者はもう復活する……復活してしまえば女神ですら完全に倒し切ることができないんだろう?」
「うん」
「なら、復活する前に叩きに行くべきだ。今ならまだ……間に合う」
魔の者はもうすぐ復活する……そう、まだ復活はしていないのだ。今ならまだ間に合う……世界が滅茶苦茶にされる前に、女神が対処できないことになる前に、叩きに行けばいい。律儀に敵の封印が解けるまで待ってやるほど俺は優しくない。てか、復活したら倒せないかもしれない敵がいるなら、復活する前に倒してしまうのが一番の正解だと俺は思う。
俺の言葉にデザスターと女神もそれしかないかと言わんばかりに小さく頷いていた。女神の魂が削られるってのが、何処まで弱体化に繋がっているのかわからないのだが……封印されている状態の魔の者が相手ならまだ戦えるってことなんだろう。
『それしかないか……だが、隣の次元にどうやって渡る。そんなことができるのか?』
「うーん……私の管轄外だから、正直に言っちゃえば無理なんだけど……方法が全然無い訳でもない」
「流石女神様! ならその方法を実践してしまえばいい訳ですね! リンネさん、準備しましょう!」
「その方法は?」
「……仮死状態になって冥府から無理やり渡るの」
ま、また冥府かよ。
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