第29話 いざ探索

 まず、遺産を探す前に確認することが幾つかある。


「まず、女神はこの場所でなにをしていたのか、それが知りたい」

「ここに私を植えたのは女神だ。意図は知らないが……お前たちが住んでいる王都を中心として結界を張るためじゃないか?」


 いきなり知らない情報が出てきたな……まぁ、意味はわからなくもない。精霊樹が存在しているこの森は王都フェラドゥの南に位置しているから、四方を囲んで精霊樹が植えられているのだとしたら、それによって魔の者を遠ざける結界を作っていると考えるのが妥当だろう。


「この遺跡は王都にある大聖堂と同じ造りをしている……人間が作ったもので間違いないんだよな?」

「あぁ……まぁ、数百年前に人間はモンスターとの戦いに敗れてこの場所を捨てたがな」

「その後にエルフが住み着いたってことか」

「そうなるな」


 ふむ……じゃあ人間が女神の意図を汲んでこの場所を守るために聖堂を作ったってことなのか? その場所を襲ったモンスターは魔の者によるものだとしたら……中々に複雑な戦いを繰り広げているらしい。


「ん? ちょっと待てよ……人間がいなくなってからエルフが住み始めたとしたら、どうしてエルフたちが女神の遺産のことを知ったんだ?」

「さぁ? そこは私も知らん」

「……人間が住んでいた時から、エルフはこの場所を知っていた。そして、人間たちがモンスターとの戦いでその遺産を使っていたのを目撃した、らしい」

「それって、普通に人間がどっかに持ち去ってないか?」


 普通に考えてそんな切り札をこんな場所に放置していなくなる訳ないだろ。これじゃあトレジャーハンターする前からやる気がなくなってくるよ……どうしてこう、楽しくないことを言うのか。


「じゃあそんな武器があることを聞いたことがあるかい? 私は人間にそんな力があるなんて聞いたこともないけどな」

「……確かに、女神様が残した神器と呼ばれるものは現存していません。しかし、過去には複数存在していたことが確認されています。この森に安置されていた遺産かどうかは、知りませんが」


 ふむふむ……かなり望み薄だけどもしかしたらあるかもしれない、ぐらいの感じね。マジでトレジャーハンターするには確率が低すぎる気がするけど……そこがいいんだよな。宝物を掘り当てるのに確率なんて気にしていたら一生手に入らないから。ここは確率を無視して、運命力で引き入れるのがトレジャーハンターってもんよ。俺は探索者だから別にトレジャーハンターではないんだけども。


「ごちゃごちゃ言っていても仕方ないから早く探しましょう」


 ふむ……まぁ、確かにシェリーの言うとおりだ。こんな所で遺産がある、ないの話をしていても真相が分かる訳ではないから、さっさと探しに行った方が効率はいい。と言う訳で、話し合いはこれぐらいにしてさっさと探しますかね。




 普通に考えて、大聖堂と同じ造りをしている建物を作っておいて、そこに女神から授かった遺産を保存していない訳がない。そういう推理にも満たないなにかで場所を絞っていくのがいいだろう。森の全域を探そうなんて無謀なこと、普通に考えてありえない。なにせこの森の面積は、ざっと見た感じで王都フェラドゥよりも広大だ。そんな場所を3人で探そうなんて……一生かかっても見つかる訳がない。


「エルフが仲間を一緒に連れて探してくれたりすると嬉しかったんだけどなぁ」

「無理ですよ。メレーナさんは人間のこと滅茶苦茶に嫌っている訳ではないからあれだけ話せますけど、森に住んでいる普通のエルフとまともに会話できると思わない方がいいです。それに、たとえ協力してくれたとしても、遺産はエルフのものだって権利を主張し始めて喧嘩になるだけですから」

「喧嘩ではすまないだろうが」


 まぁ、シェリーの言いたいこともわかる。エルフってのはそれぐらい排他的で面倒な種族ってことだ。


「……なぁ、せめて本人がいないところで喋ってくれないか?」


 隣で一緒に歩いていたメレーナが青筋を浮かべながら俺とシェリーの会話に割り込んできた。一緒に歩いている訳だから、当然ながらシェリーの言葉も聞こえている。彼女は自分の同胞が心の狭い連中だと言われて怒っているようだが、実際にそうだから仕方がない。そんでもって、俺とシェリーはそういうことを隠して喋るタイプじゃないから。


「あ、建物の構造的に多分ここら辺が保管庫になりそうじゃないですか?」

「廃墟だから本当かどうかわからないけどね。疑似・闇の衝撃シニスターインパクト


 入口にあたる柱部分から推測した形を勝手に思い浮かべて歩いていたシェリーが、聖堂の保管庫になりそうな場所がここら辺だと主張する。まだなにかブツブツ言っているメレーナを無視して、俺はシェリーがこの辺だと指定した地面に向かって、思い切り魔法をぶっ放す。


「おい!」


 大切な聖域で平然と魔法を放つ俺に対して抗議の声を上げたメレーナだったが、その先の言葉は口から出てこなかった。何故ならば、破壊された地面から階段が見つかったからだ。こんな明らかに怪しいですって場所が実際に発見されてしまえば、そりゃあメレーナだって何も言えなくなるってもんだ。

 しかし……多分この先には何も隠されないだろうな。崩れた瓦礫をどかしながら階段の奥をちらっと眺めてみたが、どうにも神器が収納されているような立派な造りはしていなさそうだ。精々物資保管庫として使われていたか、あるいは罪人を捕まえていたかだろう。


「次行こうか」

「はい」

「私たちエルフがどれだけ探しても発見できなかったものをこうも簡単に……どうしてだ?」


 どうしてってメレーナは疑問に思っているかもしれないが、俺からすると当たり前のことだと思う。だってこの場所を聖域として通常の立ち入りを禁止している訳だから、エルフたちは俺たちみたいに無理やりな調査はしないだろう。さっきの石階段もそうだが、経年劣化でまともに開かなくなっているのだから多少は無理なことをしないと発見することもできないのに、エルフたちは神聖視してまともに荒らすことができないでいる。そりゃあ……見つからないわな。


「それにしても女神の遺産ですか……どんなものなんでしょうか?」

「剣とかだったら俺は使えないんだけどな」

「あ、そういえばリンネさんは武器の扱いだけは致命的に下手くそでしたね」


 俺のことを無駄に神聖視している節があるシェリーにすらこの言われ様である。俺がどれだけ武器を扱えないのか、よーくわかるというものだ……悲しい。

 そういうところにも考慮して、持ってるだけ効果を発揮するなにかとかだと嬉しいな。

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