第28話 トレジャーハンター

「対策会議を始めまーす。意見がある人はしっかりと挙手してから発言してくださーい」

「はい」

「はい、綺麗にピンと手を挙げたメレーナさん」

「なんの茶番が始まったんだ?」

「はい、質問ありがとうございました」

「自分で挙手して発言しろって言ったのにしっかりと答えないのはどういうことだ!」


 真面目か。

 ギャーギャーと騒いでいるメレーナを無視して、俺はシェリーに視線を向けたがこっちは全部貴方に任せますみたいな信頼の目を向けられた。そんな目を向けられても俺は神様じゃないんだから、無理なものは無理だぞ。


「まず、魔の者とやらをそのまま倒すことはできないんだよな」

「あぁ……そもそも封印されている奴を倒すなんてどうするのか私には皆目見当もつかない」


 精霊樹さんが答えてくれたが、全く参考にならない。


「じゃあ遺産をこちらが手に入れれば、魔の者は聖域に手を出してこなくなると思う?」

「ん……多分な。魔の者は遺産が手に入らないとわかれば恐らくはそのまま放置するだろうと思う。勿論、遺産をお前が手に入れてお前が持ち運べばお前のことを狙うだろうし、エルフが管理すると言って集落に置けば、集落に向かって襲い掛かってくるだろうな」


 詰んでね?


「魔の者は世界中に手下を放って自ら復活する方法を探っている。そして、復活した後に敵になりそうな連中を先に消そうとしているのだ……お前がさっき言っていたレスターの水の精霊もその一つだな」


 なるほどねぇ……じゃあ、結局は俺たちが遺産を見つけてこの森から引き離さないと精霊樹の枝葉は手に入らないと。でも……そもそもその隠された女神の遺産とやらがどこにあるのかわからないんだよな。魔の者もその場所を知らないから森を至る所から攻撃しているし、エルフたちも魔の者に反撃するためにその遺産とやらを探したけど全く見つけることができなかった。挙句の果てにたとえ見つけたとしてもその遺産は選ばれた人間にしか扱うことができない……馬鹿かな?

 もうあらゆる状況が詰んでいるようにしか見えないんだが、もしかして俺たちって騙されてるのか? 精霊樹の意志そのものが譲ってやると言っているから釣られたけど、状況的に詰んでいるから今から精霊樹を探して枝葉を切り取って逃げ出した方が早いのでは?


「物騒な考えをしていそうなので妥協案を出してやろう。襲い掛かってくる魔の者の手下を片っ端から殺すことだな」

「それ、いつまでやってくるかもわからない敵と戦い続けろってことだろ。流石に許容できないな」

「なら無理だな」


 くそったれが。

 すっっとシェリーが挙手して立ち上がった。静かなのに妙に圧力を感じるその仕草に、俺も精霊樹もメレーナも黙り込んでしまった。


「遺産を探せばいいんですよね? ならこの辺の地形を全て更地にしてしまえばいいのでは?」

「嘘だろ?」

「こっわ」

「おい、お前の連れなんだからしっかりと制御しろ」


 どうやってこんなのを制御しろって言うんだよ。普通に考えてこの森を更地にすればそのうち遺産も見つかるだろって考える奴をどうやって俺に止めろって言うんだよ。


「しかし、恐らくその魔の者とやらはそれを実行してきますよ。時間をかければかけるほど、その可能性は高まります……だって、魔の者にとってこんな森がなくなろうが知ったことではありませんから」

「それは……そうなんだが」


 一理ある。

 実際、世界を征服したいのか世界を滅ぼしたいのか知らないが、魔の者とやらからしたらこんな森一つが焼け野原になっても大して気にしたりはしないだろう。水の精霊を殺して街をそのまま滅ぼそうとした奴なんだから、当然そういう考えをしているはずだ。

 ますます、こちらからやることなんて遺産を無理やりに探すしかなくなったわけだが……いや、よくよく考えると遺産を探す以外に方法がないんだから悩むことないだろ。


「よし、探そうか」

「そうですね!」

「正気か? 私たちがどれだけ探しても見つけることができなかったものを探そうなんて、まともな発想じゃない」

「悪いけど、俺たちにそれ以外の選択肢は精霊樹から無理やりに枝葉を奪ってこの森を放置する以外ない。この森を放置しないなら遺産を探すしか選択肢が無い訳だから、こんな所で悩んでいても仕方ないだろ」


 森を見捨ててもいいって言うのならばそれでもいいけど……そっちも魔の者に遺産が渡ってしまうのも時間の問題であることを考えると、結局は俺たちが手に入れないといけない訳だから……実質的な選択肢なんて存在していない。


「探してもお前たちには使えないかもしれないぞ」

「ふふ……安心してください。貴女たちは知らないかもしれませんが……リンネさんは女神に愛された人間ですから、きっと選ばれた人間としてその遺産とやらを使いこなすことができるでしょう」

「俺を無理に持ち上げるのやめない?」

「事実ですから」


 女神に愛されている……まぁ、この世界に住んでいてまともに女神と会話することができない人間よりはよっぽど愛されているかもしれないけど、実際にはシェリーの方が愛されてないか?


「……女神と会話したことがあると見える。それなら確かに、お前たちに託すのも悪くはないな」

「エルフとしては複雑な気分だ。私たちに受け継がれてきた女神の残した遺産が、人間を選ぶとしたらな」

「いや、この遺跡を見ればわかるけど……元々は人間が住んでいた訳だから、どっちかって言うと最初から女神は人間に託していたんじゃないか?」


 別に女神がエルフに期待していないなんてことはないと思うが……基本的にあの女神は人間の方を優先していると思う。

 俺の発言を聞いて、メレーナはちょっと頬を膨らませていたが……恐らくちょっとは考えたことのあることだったのだろう。特に反論してくることなく、そのまま受け入れていた。


「よーし、じゃあ俺たちはこれからトレジャーハンターだな。遺産を発見したらすぐに精霊樹に枝葉貰うから今のうちに自分の身体を千切っておけよ」

「言い方が悪いぞ」

「事実だろ? どうせすぐに見つかる……見つからなかったら俺たちが選ばれた人間じゃなかったってことで、千切った枝葉だけ貰って逃げるから」

「やはり人間は信用できない」


 そう言うなよ……俺たちだって自分の命がかわいいだけなんだからさ。

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