第26話 精霊魔法
精霊の起こす暴風が俺とシェリーに襲い掛かる。人為的に起こされた自然現象に少し戸惑いながらも、普通に風を切り裂きながら俺とシェリーは反撃の隙間を狙っていた。精霊魔法というのものがどんなものなのかは詳しく知らないが、魔法であるのならば術者の意識を刈り取ることができればそれで終わる話だ。
風の妖精が巻き起こしている暴風は時折、こちらを攻撃するように吹き荒れるが……命を直接的に脅かすようなものではない。それこそ、こちらの肌が切れるような鋭い風が飛んでくる訳でもないし、身体が持っていかれるほどの風って訳でもない。一緒に飛んでいる木々の枝葉が風に巻き上げられて当たったら血が出るかなぐらいの脅威度なので気にする必要はないだろう。
「
先に動いたのはシェリーだった。元々あんまり気が長いタイプではないから仕方ないのだが、風を巻き起こすだけでなにかしてくる訳でもないメレーナというエルフに痺れを切らしたのだろう。放たれた光の矢に対して、メレーナは特になにかすることもなく、そのまま緑色の瞳で迫る矢を見つめていた。
当たると思った
「……この風は攻撃用じゃなくて防御用なのか?」
「
ムキになってるな。
しかし、これだけ強力な風を巻き起こしておいて防御の為だけとは拍子抜けだな。ただ、
「
おもむろに矢を番えずに矢だけ構えたメレーナが、ぽつりと小さな詠唱をこぼしてから放った魔力の矢は、風なんて関係ないと言わんばかりにこちらの飛んできた。何故、神聖魔法を使っているシェリーじゃなくて俺を攻撃するのだろうかと思いながら、普通に身体の動きだけで矢を避ける。
「はっ!?」
しかし、避けた矢はグネグネと曲がって再びこちらに向かって飛んできた。再度身体を逸らして避けると、その矢は直角に空に向かって飛んでいき、そこから大きく弧を描いて俺を狙って降ってくる。同時に、シェリーが放った
「
「追尾弾とか、そんなのアリ?」
放たれてから確実にこちらを狙って飛んでくる魔法の矢……まさに魔弾と呼ぶべき驚異的な魔法だ。様子見は終わったのか、メレーナは同時に10発ほどの
真っ直ぐに俺の頭を狙って飛んでくる魔法の矢に対して、俺ができることは少ない。そもそも避けたら追いかけて来る魔法の矢なんて防ぐ以外に方法がないのだが、その防ぐのだって面倒だ。
「
地面に手をついて岩の壁を出現させると、ボコボコという音と共に幾つかの魔弾が弾け飛ぶような音がする。しかし、その音が3回続いた次の瞬間には壁を貫通して4つ目の魔弾が俺の方に飛んできて、その穴を通って後続の残り3発も突っ込んでくる。貫通力が半端じゃない……身体に当たったら即座に大きな穴が空きそうだ。
シェリーの方をちらりと見ると、
「ふぅ……
「っ!」
指を銃のような形にして、人差し指と中指から魔力の弾丸を発射する。弓を持っていない俺でもできるように少し改良しての疑似再現。
「やはりお前は危険だ……その女よりも」
「それは褒められてるのか?」
「
また精霊魔法か……俺には真似できないな。構造は理解できなくもないが、あの魔法は精霊と契約する必要があるので、再現できても契約していない俺にはそもそも効果が発動することがない。
「焼き払えっ!」
メレーナの指示通りに口を開いたサラマンダーが、そのまま口から火炎を放射してきた。同時に、周囲で吹き荒れていた風がサラマンダーの炎を押すような動きに変わっており、炎は勢いを増してこちらに迫ってくる。
当然ながら、そのまま全身で受けたら即死しないまでも、全身火傷で簡単に逝けるだろう。対抗する手段は……あるな。
「
風と炎を合体させた攻撃なら俺にも可能だ。自分の目の前に
「
「
「
炎のぶつかり合いで視線が遮られている状態なら当たると思ったのだろう。同じことを考えていた俺が放った魔弾によってメレーナが放った魔弾が相殺される。同時に、自分のことを忘れるなと言わんばかりにシェリーが魔法を起動して、メレーナを狙う。
間一髪で天からの杭を避けたメレーナの目の前に、俺が飛び出す。
「なっ!?」
「昔はこっちの方がどっちかっていうと得意だったんだよっ!」
魔法がまともに使えなかった俺は、迷宮探索者として戦うためにどうにか自分を強くできないかと考えていた時期があった。武器も持てない、魔法も使えない俺に残された道は他人のサポートをするか……素手で相手を殴るかだ。
魔力で強化した拳をメレーナがなんとか受け止めたのを確認してから、軽く足払いをして無防備になった胴体に掌を当てる。
「
「がっ!?」
放たれた闇の衝撃波はメレーナの身体の内側を貫通し、背後にあった樹木をへし折った。なにか物体を飛ばして貫通させたわけじゃないから死んでいないと思うが……これで意識は飛ばせたな。
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