第98話 掴んだ端
世界を破壊することなどできないと国王は言っていた。しかし、そう言っていた本人が俺の方へと向かってくるのは何故なのだろうか?
シェリーとデザスターが間に入って攻撃を繰り返しているから俺の所までは届いていないが……明らかに俺のことを警戒して戦っているように見えるが、それでも国王は俺のことを脅威ではないと考えているのだろうか。国王の行動から考えても、俺が今やっていることは間違いなく通用している……つまり、この領域を破壊することができることは間違いないのだ。
『ぐっ!?』
「
デザスターとシェリーの妨害を超えてこちらに向かって攻撃を放ってくるが、白き神獣がその巨体で盾になってくれていた。なにがなんでも俺を守ると言わんばかりの行動に、俺は少し焦ってしまうが、ちらりとこちらに視線を向けてきたデザスターの瞳は、焦るなと語っていた。
「女神の力を持つ者が平然と闇の力を扱うとはな。しかし、全くの無意味……お前たちのやっていることはただの時間稼ぎにしかならず、儂の世界を破壊することがただの人間にできる訳が──」
『ごちゃごちゃとうるさい奴だ。そんなに気になるなら止めてみたらどうだ? お前にそれができるとも思えないがな』
「獣畜生が儂を挑発しているつもりか? そんな見え見えの挑発に乗せられて儂が踏み込むとでも思っているのか? そもそも、お前たちが立っているこの場所は儂の世界なのだから、踏み込むまでもなく攻撃することが──」
「
言葉をぶった切るような勢いで上空から光の杭が落ちてくる。当たる直前に空中で停止した杭を見つめながら、国王はため息を吐いていた。
「もういい……理解できないと言うのならば教えてやる。儂の世界に足を踏み入れて戦うのがどういう意味なのか、しっかりとその身に刻んで……なに?」
国王が大袈裟な動きで両手を動かしていたが……しばらくしてその動きを止めた。世界が揺れて景色が変わっているはずなのに、シェリーとデザスターを攻撃することができないことに困惑しているのだろう。世界の全ては自分の思うままに動かせると思っているからそんなことをしているのだろうが……いつまでも俺が世界を破壊する為にじっとしていると思ったら大間違いだ。
国王が生み出した幻の世界は、魔法によって生み出された結界の内側に存在している自由自在に操ることができる空間だ。しかし、当然ながらそんな空間の内部でも操ることができるのは自らの魔力のみ……たとえ空間に他人が入ってきても、その人間を直接操ることなどできない。なら、その空間の中に新しい空間が現れたらどうなるか……答えは簡単だ。空間内に生み出された新しい空間の魔力は、操ることができない。
「儂の世界を蝕んでいるのか? 馬鹿な……外殻で覆わず、自らの影を伸ばすことで領域を広げている……そんなことができる訳がない」
「できるから、こうしてお前の攻撃を防げている訳なんだが?」
『予想以上の成果だ』
俺が広げている影の中に避難していたデザスターが、口を開いてブレスを放つ。レーザー型の敵を消し飛ばすためのものではなく、周囲に広がって全てを焼き尽くすためのドラゴンのようなブレス。
幻の世界とは言え、自らに降りかかる全ての攻撃を避けることができる訳ではない。まず、国王は攻撃を受けてから自らが生み出した幻影に肩代わりさせている。正確には、本体が受けた攻撃も幻で受けたように書き換えているのだが……とにかく幻にダメージを押し付けているようなものだ。逆に言えば、押し付ける幻が無ければ国王は攻撃を避けることはできない。デザスターが広範囲を一気に攻撃したのはこれが理由だ。
「ふん……貴様らが考えているよりもこの世界は広い。何処まで攻撃範囲を広げようとも儂を殺すことなどできんよ」
問題は、国王はこの世界の何処にでも好きなタイミングで幻を生み出すことができるって点だ。デザスターが強力な神獣と言っても、この世界を覆いつくすような超範囲攻撃はできないので、どうしても避けられてしまう。しかし……その幻の世界を狭めることができればどうだろうか。
国王が展開している幻の世界を少しずつ内側から削っているのは俺の影。影が存在してる場所は国王の領域ではなく、俺の領域だ。
「
「ちっ……厄介な」
そして、あれだけ強気の発言をしていてもシェリーが神聖魔法をちらつかせるだけで舌打ちしながら逃げていく姿を見るに、やはり何百年も国王としてフェラドゥを見てきたからこそ、魔の者に与する存在に対して神聖魔法がどのような効果をもたらすのかを良く知っているのだろう。自分にはなにも効かないって頻りに言いながら、神聖魔法が放たれると大袈裟に避けるのは控えめに言ってもクソダサいんだけども。
『どうだ?』
「……魔力を操ることができる領域を削ることはできているけど、流石に端まで辿り着いて領域そのものを破壊するには時間がかかるな。元々、
そういう使い方ができるってだけで、あくまでも暗黒魔法に利用する自らの影を延長することができるだけの魔法なのだ。こんな感じにひたすらに自らの領域を展開するようなものではないのだ。女神の力を宿していた影響で魔力が溢れているので、結果としてそんな風に使えているだけだ。
「幻影の騎士たちよ……奴の首を刈り取ってくるのだ」
『集中していろ……敵はこちらに全て任せろ』
俺を庇うように前に出たデザスターは、背後で輝いていた太陽の形を変えていく。左右に大きく開いていくその姿は……まるで天使の翼だ。
光り輝く炎の翼を大きく広げたデザスターは、空気を揺るがすような獣の咆哮を放ちながら……俺の周りを囲むように出現した騎士たちに突っ込んでいった。
「殺せ! 獣畜生如きにいつまでも時間をかけて──」
「
「がっ!?」
デザスターの動きが変わったことを察知したのか、国王が幻影の騎士たちを動かそうとした瞬間に、シェリーが放った神聖魔法の矢が右腕に刺さった。じゅわっという肉が焼け焦げながら蒸発するような音を発し、黒い煙が国王の右腕から上がっていた。
「おの、れっ!?」
「
「盾共っ!」
シェリーが一気に攻勢をかけようとした瞬間に、俺は感覚としてなにかを掴んだ。それは布の切れ端のようなものであり、世界に垂らされた暗幕のようなものだったのだが……それがなんなのか、俺は正しく把握していた。
思い切り、掴んだ布を引っ張ると……何処までも広がっているように見えた空に罅が入った。
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