第104話 最後にものを言うのは

 女神の攻撃によって胸を貫かれた魔の者は、すぐさま鎖を引き千切りそうな勢いで右腕を動かして女神に反撃していたが、女神はそれを予測していたように避けながら距離を取った。

 左腕を飛ばされ、胸に大きな穴を開けられた魔の者は忌々しそうな顔で女神を睨み付けていたが、瞬きした瞬間に胸の穴が塞がっていた。


「は?」

『小賢しい真似をしてくれる……以前はこんなことをしてなかったと記憶しているが?』

「それは私と一緒に戦ってくれる人がいなかったから。こうして複数人で戦うならどんな手段だって使います。卑怯汚いは生き残った後に出てくる言葉ですから」


 女神の言いたいことはわかる。勝ち方に汚いとか卑怯なんてものは存在しないと俺も思っているし、女神がやったことはある意味では当然の行いだと思っている。なにせ、女神からしても魔の者はそうでもしないとまともに攻撃を当てることすらできない相手なのだから……実力差を考えれば女神の対応も当然だと言えるだろう。

 俺の攻撃によってバリアに罅を入れられ、それがシェリーとデザスターの攻撃によって砕かれた瞬間に女神が攻撃をしっかりと当てる。考え付かなかった連携だが、考えてみればこれ以上にな有効的な手段はないと思えるような攻撃だ。


「またバリアが展開された訳だけど……また破壊した方がいいか?」

「どうかしら。卑怯な手も使うって言っても、魔の者はそんな簡単に攻撃を許すような奴じゃないから……二度と同じ手は通用しないと思った方が、いいかも」


 だよな……そんな甘い奴だったら、女神が数千年前に倒しているだろうし、そもそもさっきの攻撃だけで殺し切れているだろう。それができないと言うことは……女神にとっても魔の者がそれだけ強力な敵ってことだ。

 うぅむ……しかし、しばらく戦っていてわかったが、魔の者は俺やシェリーが闇雲に戦ってなんとかなるような相手じゃない。人間を相手にしたらどんな敵とだって戦える自信はあるが、流石に世界そのものに影響を及ぼすほどの敵を相手に大立ち回りができるかと言われれば……首を傾げてしまうだろう。


「それにしても……胸の傷は即座に再生したのに、なんで左腕は?」

「まだ封印が残っているから……以外にないでしょう。私はさっきから何度か重ね掛けしていますが、拮抗状態……さっきの攻撃でちょっとこっちが有利になったぐらい」

『ぐ……どうする? このまま続けるのか?』

「私はまだ、いけます」

「シェリー、無理しないでくれよ?」


 さっきから神聖魔法を連発している姿を見ると本当に大丈夫なのかと言いたくなるのだが、本人が大丈夫だと言い張っているので俺からはなんとも言えない。勿論、本当に駄目そうになったら無理やりにでも止めるつもりだが……シェリーは女神と共に魔の者と戦えることを自らの使命として捉えているから。

 そこら辺のことを考えると、デザスターの方が現実的な気がする。さっきから女神の援護をしれっとしているし、仮に女神が魔の者にやられたら、即座に俺たちを連れて逃げ出すぐらいのことはすると思う……この次元に入った時点で逃げ切れるなんて俺は考えていないが。


『む……ちぃ……やってくれる』


 なんか知らないところで魔の者が動きを止めていると思ったら、地面から大量に鎖が生えてきた身体をぐるぐる巻きにしていた。即座に半分程度は破壊されていたが、それでも動きは阻害されるようで、魔の者はギロっと女神を睨み付けた。


『我はそいつを観察していたいのだ。お前たちに用などない……消えろっ!』

「はっ!?」

『まさかっ!?』


 魔の者が俺に対して異常な興味を抱いているのは理解していたが、魔の者が鎖を更に引き千切りながら魔力を放出させた瞬間に、女神が慌てた表情で俺の前に立とうとして、そのまま背後に吹き飛ばされていった。同時に、俺の後方の空間に穴が開きシェリーとデザスターが一瞬で吸い込まれていった。


『さて、これで片付いたな』

「はは……今の、何したんだ?」

『次元に穴を開けて元の世界に戻してやっただけのことだ。最初はもう少し相手をしてやろうかと思ったが、お前の相手をしている方が楽しそうだ……』

「おいおい……勘弁してくれよっ!? 俺はお前みたいな化け物と違って簡単に死ぬんだからなっ!?」

『ならば足掻いてみろ』


 今までも随分と足掻いてきただろうが!

 俺の文句なんて知ったことではないと言わんばかりに、魔の者は大規模な攻撃魔法を連発してくる。先ほどまでのようにどうやって攻撃しているのかも理解できない斬撃や隕石などではなく、しっかりとした魔法を使ってきているのは……俺が魔法を模倣することができると知っているからだろうか。


『そら、業火ヘルフレア!』

疑似・業火ヘルフレアっ!」


 指から放たれた炎を塊を、なんとか疑似再現することで対消滅させると、魔の者は更に目を輝かせながら俺の方へと向かって魔法を放ってきた。


『面白い! 次はどうだ? 氷嵐アイスストーム!』

疑似・氷嵐アイスストームっ!?」

『ほぉ? このレベルの魔法では完璧に再現できないのか?』


 氷の嵐を氷の嵐で打ち消そうなんて考えが間違っていた。魔の者が発動する魔法はどれも災害のような規模で……ただの人間である俺には対抗することすらできないような超強力な魔法ばかりだ。しかし、ここで諦める訳にも行かない……女神は何処かへと飛ばされ、シェリーとデザスターはいなくなってしまったが……だからと言って1人で勝手に諦めることはできない。


轟雷サンダーボルト

疑似・業火ヘルフレア

『ん?』


 魔の者から放たれた雷を避けながら業火ヘルフレアを放つ。当然ながら魔の者に対してこの程度の魔法でまともなダメージを与えられるなんて考えてもいない。ただ、放たれる魔法をそのまま疑似再現してぶつけるだけではどうにもならない。轟雷サンダーボルトを敢えて再現せずに避けながら、業火ヘルフレアで視界を塞ぎ、左側に回り込んでから女神の力を利用して、最大の魔力を込めて放つ。


疑似・神の御手ホーリーライト!」

『下らん真似をするな。お前に求めているのはそんなことでは……なに?』


 闇を切り裂いて降ってきた光の杭は、魔の者のバリアによって阻まれ……バリアと共に砕け散った。俺の攻撃によってバリアが破られたことに目を見開いた魔の者に接近して、思い切り殴りかかる。

 最後にものを言うのは、己の拳だっ!

 余裕ぶっこいてた魔の者の顔面に、俺の拳が突き刺さった。

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