第86話 きな臭い
「……頼んでおいてなんですか、本当に見つけてきて、しかも連れて帰ってくるなんて思ってもいませんでした」
「でしょうね」
フェラドゥに戻ってきた俺とシェリーは、真っ先に依頼人であった神官の元を訪れて、俺の肩に乗っかっている白き神獣……デザスターを発見したことを報告した。
最初に俺たちが帰ってきた時には、如何にも任務失敗してしまっても特に怒ることはありませんよみたいな表情をしていたが、俺が肩にのっけているデザスターを見せると表情が一転、驚愕で暫くの間、動けなくなっていた。
「まさか本当に孤島で戦っていたとは……女神様からの命を守っていただけとは言え、我々人間を魔の者から守っていただいていたこと、感謝します」
『そこまで畏まられると逆に不思議な気分だな。以前の人間はもう少し気安く接してきたものだが』
「え」
あ、そう言えばデザスターが普通に喋るよってことを教えてなかった。
『時間が経っても悪意のある人が神官をやってないみたいで私は嬉しいわ』
「幼女は黙っててくれ。後で本体の所に連れてくから」
俺の心の中で勝手に喋る幼い女神は無視しておっけーだろう。
デザスターに喋りかけられた神官は驚きながらもゆっくりと俺の肩に乗っかっていたデザスターを抱え上げ、まじまじと見つめている。多分、人形かなにかで音声がどこかから出ていると思ったのかな?
『どうした?』
「ほ、本当に喋っていますね」
『ふむ……一瞬、リンネたちが使っている言語とは別なのかと思ったぞ』
「会話できてるんだからそんな訳ないだろ」
「身体が小さいのは、消耗しているからなのですか?」
『いや、本来の肉体の大きさで街に入ればいらぬ混乱を招くだろう? だから少しばかり縮んできた』
本当に数日かけて小さくなった時は驚いたよ。寝て起きる度に目に見えて小さくなっていくデザスターに、最初はどういう反応をすればいいのかわからなかったんだけど、まぁ本人が納得して小さくなっているからいいのだと無理やり納得した。
「大神官様はいらっしゃいますか?」
「え? はい……いつも通り、奥の間にて女神様に祈りを捧げています」
「そうですか……リンネさん、行きましょう」
「あ、あぁ」
シェリーとしては女神に関する話の方が大事なのかな? デザスターは自分から小さくなっただけで問題があってこの姿になっている訳じゃないから、そういう意味では女神の方が重要であることは間違いないか。
ずんずんと廊下を進むシェリーの背中からは特別な感情を感じ取ることはできなかったが、いつもより少し歩幅が広い気がする……こんなこと、直接言ったらストーカーみたいで気持ち悪いが、なんとなくそんな風に感じている。
『うわぁ』
「おい」
心の中で俺がなにを考えているのか、それをはっきりと理解できる唯一の存在が俺の心の中を勝手に覗き込んで引いている。普通に考えて人が何を考えているのか覗き込むような奴の方が「うわぁ」って感じなんだからな。内心の自由はどんな人間にも許されているんだから。
「大神官様」
「ん? 入っていいですよ」
奥の部屋、と言われてそのままシェリーの背中をついてきたのだが、大神官は普段からこの部屋にいるのだろうか。シェリーが遠慮なく扉を開くと、そこは大量の書物が積まれた資料室のような部屋だった。
部屋の中央で外から差し込んでくる光を使って本を読んでいたらしい大神官がゆっくりと立ちあがり、こちらに視線を向けてそこで目を細めた。
「白き神獣と、女神様の力を探してきたようですね」
「え、そんなのわかるもんなの?」
「私にはわかりませんけど、大神官様はなにかを感じたんじゃないですか?」
そう、なのか。
「要件は、この聖堂にいる女神様に力を返すことですか? それなら案内しますが」
「あぁ……うん」
ここまで行動を先読みされると少し気持ち悪いと思うのだが……正直、そこまで嫌うようなことでもないからいいかと流しておく。しかし、大神官が手にしていた本は……女神にしか扱うことのできなかった最後の神聖魔法「
『
「は?」
女神が頓珍漢なことを言いだした。
最後の神聖魔法である
『
「おい、ちょっと待てよ。じゃああの書物に記されている
「どうかしましたか?」
「……いえ、なんでもないです」
随分ときな臭い話になってきたな。これは……教会の方もしっかりと調べておく必要があるか。それと……この国の過去に何があったのか、色々と詳しく調べないとな。
取り敢えず、今は大神官とシェリーについていって、女神の意識と力を繋げてやらないと。
案内されるままに再び聖堂の中を歩いていると、心がなんとなくそわそわしてきた。恐らくだが、女神の感情が俺にそのまま伝わっていると思うんだが……どうしてそこまでそわそわしているのかわからん。
『ほら……久しぶりに実家に帰ったらなんとなくそわそわしたりするでしょ?』
いや、知らんが?
『デリカシーがないなぁ……君、そんなんじゃモテないよ?』
「知るか」
『くぁ……くだらないことばかりだな、お前と女神は』
俺が背負っている袋の中から顔を出したデザスターが呆れたような声で喋りかけてきた。デザスターには俺と女神の会話が聞こえているらしい……つまり、デザスターもさっきの
『知らんぞ? そもそも女神がどんな魔法を使えるかなんて興味も無いからな』
「だろうな」
デザスターはそういうことを詳しく知りたいと思うタイプではないだろうと思っていた。しかし……一度、心の中で怪しいと判断してしまったら全てが怪しく見えてしまうのが人間の悲しき性か。前を歩く大神官も、聖堂の彫刻すらも怪しく見えてくるのは……少し疑心暗鬼すぎるかな。
『でも、誰かが悪意を持って私の魔法を歪めて使ったか、歪めて伝えたことは確かだよ』
「はぁ……勘弁してくれよ」
ただでさえ、魔の者の相手だけでこっちは忙しいって言うのに。
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