第85話 凱旋

 巨大な爆発と共に女神が持つ神聖な魔力が弾け飛ぶ。神聖に近く、それでいて更に強力なモンスターへの毒となる女神の魔力が弾け飛ぶことで周囲に広がり、爆発のダメージと共に大きな傷を魚野郎に与える。


「ぐがっ!?」

「ふっ!」


 しかし、その程度の魔法で死ぬなんて思っても無いので、追撃に落下の勢いを乗せて拳を顔面に叩きこむ。近づいてわかったことだが……あれだけの爆発と神聖な魔力を直に受けておいて、魚野郎の肌は少しずつ再生していた。魔の者の配下が持つ能力なのか、それともこの魚野郎が持っている固有能力なのかわからないが、驚異的な生命力と再生能力には驚かされる。


「ま、だ」

「いや、もう終わりだよ。疑似・穿つ暗黒シャドウランス


 空中で自由に身動きができず、ひたすらに落下していく中で俺はそのまま暗黒魔法である穿つ暗黒シャドウランスを発動して魚野郎の胸を刺し貫く。追撃にしてはかなりオーバーキルに気もするが、ここまでの再生能力を持っている奴に対して手加減なんてする意味はないし、魔の者の関係者に対して手加減をする意味なんてもっとないのでこれでいいのだ。


『ふぅ……』

「やべ」


 落下していく中で、下にいたデザスターが口を開いたのを見て、俺は急いで脱出する。魚野郎の息の根はまだ止まっていないが……このまま追撃していたら巻き込まれることは間違いない。


「ぐっ……こ、の」

『失せろ』


 デザスターが大きく口を開いて放ったのは、太陽を背負っていた時よりも更に強力なビームだった。黒山羊を幾度も消し飛ばしていた白色のレーザーではなく、ドス黒い色で圧倒的な魔力を感じさせるそのレーザーは、空中で身動きが取れなくなっていた魚野郎の身体を飲み込んで……上空の雲を吹き飛ばしながら空へと消えていった。


『むぅ……まさかあれぐらいの強さを持った配下を生み出せるぐらいに復活してるなんて思わなかったな』

「は? 1万年ぐらいかかるとか言ってなかったか?」

『私としても予想外だったってこと。あんな力を持ったモンスターを生み出せるぐらいの力があるなら……いつ復活してもおかしくないよ』

「なんだそれ……かなりマズい状況だったりするのか?」

『うん』


 マジか……どんな方法で女神の封印とやらを破壊しているのか知らないが、それにしたって1万年早く復活するのはマズいだろう。はっきりと断言するが、人間が魔の者に勝つことは不可能だ。今まで、女神の言葉通りに俺は色々と場所を巡って魔の者の関係者と思われる敵と戦ってきたが、全てが人間には想像もできないような力を持っていた奴ばかりだ。それを考えれば、必然的に魔の者は配下より強くなる訳だから……マジで人間に対処できる限界を超えている。


「じゃあさっさと力を取り戻さないと世界がヤバいんじゃないか?」

『もうヤバくなってるでしょ? あんなモンスターが平然とこの世界に送り込まれている時点で、いつ復活してもおかしくないわ』


 そういうことね。

 うーん……女神の本体は聖堂にあるってことだから、後は本当に復活するだけなんだが……そこに至るまでが長いんだよな。


『聖堂に存在しているのは意識だけ……でも、意識と力が結合すれば魂が何処にあるのかもしっかりと完治できるわ』

「そもそも、肉体と魂が無い状態でなんで意識があるのか全く理解できないけど、自分で感知できないのか?」

『自分でバラバラにしたのは確かだし、力をあの砂漠の神殿に取り残してきたのは私……でも、魂と肉体を聖堂から持ち去ったのは私じゃないわ』


 それってさぁ……結構面倒なことじゃない?

 恐らくだけど、女神が力を砂漠に残してきたのはその力を誰かに悪用されないためなんじゃないかと思う。実際、魔の者は力を狙って砂漠の神殿を迷宮に変えていた訳だし、俺が羽織っている外套だって狙っていた。ただ、魂と肉体が分離して持ち去られているのは全くの想定外だったということならば、誰かが利用しようとしたのか……あるいは、宗教的な争いで過去に持ち去られたのか。


「シェリー、聖堂が巻き込まれるような過去の戦争ってあった?」

「はい? まぁ……フェラドゥだって歴史が長い国なので、何度かありますけど」

「それに、王族と宗教が同時に関わったことは?」

「……1度だけ、ですね」


 なら、それだな。


「よし、王墓に忍び込もう!」

「えぇ!? なんでそんな話になるんですか!?」


 フェラドゥに存在している王墓は、当然ながら王族しか入ることのできない特別な場所で、歴代国王の遺骨の一部が納められているとても神聖な場所なのだが……歴代の国王が戦争によって宗教を巻き込んだのならば、そこに女神の肉体が保管されていてもおかしくはない。大体、宗教と国ってのは1回は喧嘩するもんだからな。


「無かったらその時だし、見つかったら万々歳だ」

「そ、そんな感覚で忍び込んでいいんですか? 見つかったら審問無しに処刑ですよ?」

「だろうね」


 普通に考えて、王墓の墓荒らしとか速攻で処刑されてから死体を街中で引きずって首を落としてから晒されるのがオチだろうと思う。ただ……それはつまり、誰もその王墓に入ったことがないということを指し示すものでもある。俺がこの世界に転生してから、王家の人間が王墓に入ったなんてニュースは聞いたことが無いから、王族すらも王墓には入っていないんじゃないかと思う。


「魂の方は知らん! 女神が自分で感知してくれ」

『……一応、肉体の方も力と意識が結合すれば感知できると思うけど』

「なら先に聖堂行こう! デザスターもついてきてくれるよな!」

『構わんが……身体を小さくする魔法には少々時間がかかるぞ』

「いや、できることが驚きなんだけど」


 なに、その身体を小さくする魔法って。


『身体が小さくなれば相応に力も落ちていくから、今のようにモンスターを蹴散らすことはできなくなるが……それでもいいか?』

「まぁ……正直、付いてきてもらうことの方が重要だからいいかな」


 元々は、女神に仕えた白き神獣を探してきてくれって依頼を受けてここに来た訳だし、神官の人にちゃんと見つけてきましたって言うためにも、身体を小さくしてもらった方が便利かな。


『では、数日かかるからな』

「数日!?」


 数時間とかじゃないのかよ。

 ま、まぁ……数日待つだけで潤沢な資金が神官から貰えるなら、いい……のか?

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