第108話 永遠の封印

 女神と魔の者による魔法の攻防は、俺がぼーっと眺めていることしかできないくらいの規模になってきた。さっきはまだ魔法を挟み込んで俺が介入する余地もあったのだが、今はもう俺が介入することなんて考えられないような戦いになっている。

 隕石が降ってきたり、斬撃が飛んできたりするのはまだいいのだが……何処からともなく巨大なモンスターが現れたと思ったら、女神に近づいた瞬間に頭が弾け飛んで、今度は白い鳥のようなものが魔の者に殺到したと思ったらその全てが汚い音を鳴らしながら潰れて死に、空間に穴が空いて巨大な拳が出てきたと思ったら、白色の光る盾が出現して拳を逆に砕いてしまっていた。

 何が起きているのか、横から眺めている俺には全く理解できない。正直に言って、これが神同士の戦いなのかと思うと、俺の力がどんどん上昇してそのうち神に届くかもしれないなんて考えが思いあがりでしかなかったことがよくわかる。やはり、魔の者が言うように人間がどれだけ成長しようとも神よりも強くなることはないのだろう。


「このっ!」

『ふっ!』


 魔法の名前すら叫ばずにこれだけの事象を巻き起こしている……俺の目にも何がなんだかわからないと言うことは、魔の者と女神は互いに魔法ではないなにかを使って戦っている。それは権能と呼ばれる神の特権なのか、それすらも判断することができないのだが……はっきり言って俺ができることなんて隙を窺っているような動きで魔の者の行動を少しでも阻害させることだけだ。なんてちっぽけなことをしているんだと自分でも思うが……今の状況ではこんなことしか俺にはできない。

 何処からともなく竜のような存在が飛んできては女神に近づいた瞬間に消し飛び、地面が割れて光の奔流が魔の者に襲い掛かっても即座に地面の割れ目が閉じて無傷の魔の者が現れたり、天から杭が何十本も降って来たと思ったら全てが途中でひび割れて崩壊して、触手が高速で女神に迫ったらこれも一瞬で消し飛んだ。


疑似・神の裁きホーリージャッジメント

『むっ?』


 女神が背後に大量の光の剣を出現させたタイミングで、俺は神の裁きホーリージャッジメントを放つ。攻撃の為ではなく……単純な目くらましである。

 俺の攻撃を不審に思った魔の者は訝し気に俺の方へと視線を向けた、次の瞬間には全身に女神の剣が突き刺さっていた。油断していた訳ではないだろう……だが、恐らくだがバリアを張っていたのではないだろうか。だから無警戒に俺の方へと視線を向けた……バリアで防げると思ったから。


『馬鹿なっ!?』

「透過、したのか?」


 横から見ていたからわかる。今の攻撃は、決してバリアを破壊したのではなく、その全てが透過したのだ。恐らくだが、これまでの戦いから魔の者が張っているバリアが、内側から攻撃を通して外側から全てを弾いていることを見て、何かしらの条件で通していると女神が考えたのだろう。俺だってそれは考えたのだが……それを識別することは困難だったので物理的な破壊を選んだのが、女神はそれを難なく、そして魔の者が最も無警戒になったタイミングでやった。


神の縛鎖ホーリーチェーン

『くっ!? また我を封印するつもりか!? そんなことをしても、先延ばしにしかならないぞ!』

「いえ、今度こそ全てを解決する……その為に、まずは意識が途絶えるほど強烈な封印を施してあげるってだけのことよ」


 何処からともなく出現した鎖が魔の者の身体を覆っていく。肉体を貫通してから身体を縛り付けるその鎖は、まさしく封印をしているように見えた。そして、どんどんと魔の者の魔力が薄くなっていくのが見えるので……本当に封印が完了しているのだと言うことはわかった。ならば、俺からもできることをしよう。


疑似・神の縛鎖ホーリーチェーン

『なにっ!?』


 疑似再現するのはそこまで難しい魔法ではなかった。なにせ……根本的な部分が神聖魔法と似ていたからだ。全く俺に使えない女神の持つ不思議な力によるものではなく、しっかりとした魔法による封印ならば俺にも疑似再現することはできる。

 ちらりとこちらに視線を向けてきた女神が微笑むと、更に鎖の量は増え……天から大量の十字架が降って来た。こちらは魔法ではないので俺には再現できないが、十字架が鎖の先を地面に繋ぎ止めているのがわかる。


「もう二度と会うことはないと思うけれど……今まで無駄に苦しめてくれたお礼をしなくちゃならないわ。だから……念入りにしっかりと封印してあげる」

『絶対に消えない封印などありはしない! 再びお前と出会う日は必ず来る……必ずだ! その日までお前が庇護した人間共がどんな世界へと変えていくのか楽しみに待っているぞ! 生物の本質は混沌だ! それを忘れるな──』

「封印っと」


 おい、せめて話ぐらい聞いてやれよ。明らかに今の対応は無視してた奴の動きだろ……俺だって人生で何度もやられた記憶があるからわかるんだぞ、そういうの。

 まぁ……女神としてはそれこそ何万年って付き合いだろうし、それこそ何度煮え湯を飲まされたのかわからないような相手みたいなので、嫌がらせのように話の途中で封印したんだろう……やはりこの女神、いい性格してると思う。


「ふぅ……さて」

「……永遠に封印する方法なんてあるのか?」


 魔の者も言っていたが、無限に、永遠に、絶対に解けない封印なんて俺には全く想像できない。魔法と言うのは想像の延長線上に存在しているものなので、もしそれが想像できるのならば、女神には永遠の封印が可能なのかもしれないが……どうなのだろうか。


「ないですよ?」

「ないんかい」


 やっぱりないのか……解決する的なことを言っていたからてっきり存在しているのかと思ったんだけども、存在しないのならばどうするのだろうか。


「ふふ……永遠に封印する方法はないけど、二度と蘇らないようにすることはできるんですよ?」


 そう不敵に笑いながら、女神は巨大な白の十字架をバラバラに砕いた。


「……は?」


 そんなことをしたら封印が解けてしまうのではないかと思ったが、プラスチックの玩具がバラバラに砕けるように、全てが地面にぼとぼとと落ちた。


「これを別々の場所に離してしまえばもう二度と帰ってこれない」

「いや、それを集める奴がいたら?」

「別々の次元に、放流したらどうなると思う?」


 あー、はい、そういうことね。なんて傍迷惑なことを考えるんだと思ったが……これだけの脅威を封じ込めるにはそれぐらいしないと駄目なんだなって納得することにしよう、うん。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る