第5話 ギルドを結成しよう

 ギルドに所属するのは、パーティーメンバーを固定すること以上に探索者として他人に対して信頼性を示すことができるという大きなメリットがある。単純に個人で活動している人間よりも、組織に入って活動している人間の方が信頼できるってのは当たり前のことだと思うが、そもそもギルドは一定期間内にある程度以上の成果を示さないと強制的に解散させられてしまうので、ギルドに長い期間所属しているという事実だけで社会的な信頼をかなり得ることができる。

 探索者協会がギルドに所属して活動することを推奨している理由は、そういう信頼できる人間を増やそうとしているからなのかもしれない……特にこの国では、近場の迷宮を探索する人間が増えることこそが経済の成長と街の発展に必要不可欠だからな。


 シェリーと共に探索者協会の建物を訪れ、新しいギルドを作りに来ていた。俺だけが訪れてギルドを作りたいと言っても馬鹿にされたような反応を返されるだけだろうが、聖女シェリーがいるのならば話は別だ。


「シェリーさん!? 今日はどのようなご用件でしょうか? もしかして、新たに入るギルドの選別に来たのでしょうか? そうなのだとしたらそのことを公表してから少し時間を頂く必要があるのですが……」

「自分で作ります」

「え?」

「作ります」


 すごい圧力を職員にかけながら詰め寄るシェリーを見て、自分たちのギルドに勧誘しようとしていた周囲の探索者たちが逃げていく。俺もその場から逃げたいような気持ちになっていたのだが、ちらりと視線を向けられることで動きを制限されてしまった。結局、シェリーの後ろに立ったままお付きの人みたいになっているのだが……職員さんたちは慌てているからあんまり気にしていないみたい。


「あ、新たに作るということでしたが、まずはギルドマスターとしてシェリーさんの」

「あ、マスターはリンネさんなのでそういう話はリンネさんにしてください」

「……え?」

「俺?」


 なんでシェリーじゃなくて俺がギルドマスターなんだよ。普通に考えて知名度的にも魔導士の実力としても明らかにギルドマスターに相応しいのはシェリーだろう。


「知名度はないですけど、魔導士としての力は既に私を凌駕しつつありますし、今に私たちの想像を遥かに超える力を持つ人になるんですから。というか、そもそも私は貴方についていくってギルドを抜けたんですから、ちゃんと責任取ってください」


 言い方が悪い! 探索者協会の職員さんが俺のことめちゃくちゃ冷たい目で見て来てるよ! このままだと対して実力もないのに将来有望な女の子を誑かしている屑の男として知れ渡って……いや、割と事実なのでは?


「その……ちょーっとお時間を頂けますか?」

「勿論です。色々と時間は必要でしょうから、また後日にやってきますから」


 ちょ、ちょーっと……シェリーさんが暴走している気がするのは俺だけか?



 探索者協会から外に出たシェリーは満足した顔をしていた。もしかして、ここまで全部シェリーが仕組んでいたことなんじゃないのだろうか。シェリーは俺のことを本気で神に選ばれた人間だと思っていて、その力をもっと広い範囲で使うことこそが人類の為になるなんて考えているんじゃないのだろうか。

 実際、俺は秩序の女神……と思われる存在と出会ってこの世界に転生してきた訳だから、俺はシェリーの考えている通り神に選ばれた人間なのかもしれないけれども。


「ん?」


 そう言えば、神に選ばれた人間って話で思い出したけど……俺、秩序の女神に出会った時に「世界を救ってくれ」って言われた気がしたんだけど、世界ってどんな危機に瀕しているのか全くわからないんだけど……何をすれば世界を救ったことになるんだろうか?

 秩序の女神に関する話だから……もしかしたら聖女と呼ばれるシェリーならば、秩序の女神に会話することができるのかもしれない。でも、もしそんなことができずに……秩序の女神と会話したことがあるなんて話したら、面倒なことになるかもしれないと思ってなんとなく話せないでいる。


「リンネさん!」

「はっ!?」


 目の前にいきなり美少女の顔がやってきて驚いてしまったのだが、俺のことを心配して覗き込んでくるシェリーだった。確かにちょっと考え込んでいたのは事実だが、すぐに俺の顔に近づいてくるのはちょっとどうかと思う。いや、既に互いのことを好きだと伝えあった仲なのだから当たり前のことなのかもしれないけど、それにしてももうちょっとなんかさ……いや、求めるだけ無駄かな。


「どうしたんですか?」

「うーん……伝えたいことではあるかもしれないんだけど、ちょっとまだ面倒な気がするから今度でもいいかな? 絶対にそのうち、話すから」

「いいですけど……なにか抱え込んでいるのならば、しっかりと話してくださいね?」


 微笑むシェリーを見ていると、俺が彼女の信仰している秩序の女神に選ばれた人間かもしれないと思うと少し気後れしてしまう。きっと、そのことを話せばシェリーは嬉しそうに俺のことを秩序の女神様が選んだ人間として風潮するのだろうか……それとも、いくら俺でも神のことを騙る者のことは許せないと思うのだろうか。

 なんにせよ、今は何も言うことができない……下手に口にすれば世界に影響を与えることになるかもしれないし、そもそもだけど本当に俺が出会ったのが秩序の女神なのかが確定していないのだから言うべきではないだろう。まぁ……俺が臆病なだけなのかもしれないんだけどさ。


「それで、ギルドメンバーが私たちだけってのも寂しいですから……人を探しましょうって話なんですけど」

「無理じゃない? 正直、シェリーだけなら人を集めることもできるかもしれないけど、俺みたいな足を引っ張る存在がいるとそんなこともできないと思う。先に言うけど、これは自虐とかじゃなくて事実だから。そこはシェリーが何を言おうとも変わらないから」


 シェリーがむすーっとした顔をしているが、実際に俺が勧誘活動をして人を誘えるなんて全く思っていないので仕方がない。まぁ、そもそも結成もしていないギルドに勧誘して入ってくれる人の方が怪しいと思うんだけど、シェリーはそこら辺はどう思うんだろうか。気にしないのかもしれないけど、俺がギルドマスターになるんだったら徹底的に管理したいな。

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