第286話 迫る小田原に勝つ手段は……

 事態が急転した。


 小田原が崇神教の教皇を殺し、奴の相棒らしき男が奴の悪事を動画で暴露したのだ。この動きによって反魔王を掲げていた者らは勢いを失い、世界中を騒がせていた事態は一気に収束へと向かっていた。


「一体なにがどうなっているのか……?」


 自室で俺は首を傾げる。


 反魔王だった教皇がなぜあの場で小田原を裏切ってあのような発言をしたのか? タイミング良く小田原の相棒だった男が裏切った動きも奇妙だった。


「よくはわからないけど、これで平和になったってことでいいのかな?」


 俺の隣でアカネちゃんが不思議そうな表情で聞いてくる。


「いや……まだだよ」


 この事態を引き起こした原因がまだ残っている。

 そいつを排除しない限り、同じようなことはまた起こるだろう。


「小田原の居場所は掴めたのか?」


 目の前で跪いているジグドラスへと問う。


「も、申し訳ありません。全世界へ指名手配をしておりますが、今だ居場所は掴めておらず……」

「そうか……」


 奴をこのまま放って置くわけにはいかない。

 早急に見つけ出して始末しなければ……。


「俺も奴を探しに出向こう。少しでも早く奴を始末するために……」

「その必要は無いと思うよ」

「うん?」


 声のしたほうへ目をやると、扉を開けて入って来る戸塚の姿が見えた。


「戸塚?」


 そういえばここのところ姿を見せていなかった。

 自由な奴なのでそれほど気にもしていなかったが。


「やあひさしぶり」

「どこへ行ってたんだ?」

「休暇を取って少し旅行を楽しんでいたのさ」

「旅行……ねぇ」


 こんなときに旅行を楽しむなんてと言いたいが、こんなときだからこそ旅行に行きそうな奴でもあった。


「……お前もしかして、小田原になにかしたか?」


 以前も同じような状況へ陥ったとき、戸塚の考えで助かったことがある。


 今回も事態の急変に関わっているのではないか?

 いやむしろ、事態を急変させた張本人ではないかと俺は思ったが。


「さてね」


 しかし戸塚は肩をすくめるだけで肯定も否定もしなかった。


「それよりも君が動く必要は無いよ。奴は自分からここへ来る」

「そうかもしれないけど、いつ来るものか……」


 奴は俺を殺したくてしかたがないのはわかっている。

 いずれはここへふたたび訪れるだろう。しかしそれがいつになるのか……。


「すぐに来る。遅くても明日。早ければ今日にもね」

「なぜそう思う?」

「君が思っているよりも、彼は君を殺したいと思っている。君を嵌めて絶望させる計画が破綻した今、君を殺すという目的を遅らせる理由は無い」

「……」


 確かに戸塚の言う通りかもしれないが……。


 と、そのときジグドラスの腰にある通信機が鳴る。


「こ、これは失礼しました」

「いや、大丈夫だ。構わないから通信に答えろ」

「は、はい。……私だ。な、なにっ!?」

「どうした?」


 俺はなにが起こったのか、ある程度の予想をしつつジグドラスへ問う。


「は、はい。例の小田原智が魔王城の入り口へ現れたとの報告が……」

「戸塚の言った通りか」


 戸塚の言葉通り奴はすぐに来た。

 探す手間は省けたが、不安もあった。


「前回と同じく兵には手を出させるな。ここへ来させればいい」

「はっ。し、しかし失礼ながら魔王様、奴に勝つことはできますか?」

「……」


 不安とはジグドラスの言ったことそのものだ。

 前回、奴がここへ来たとき俺は敗北をした。あのときは俺を世界の敵にするという目的があったから殺しはしなかったのだろうが、今回は違う。


 戦えば負けるかもしれない。

 絶対ではないが、その懸念は小さくなかった。


「アカネちゃんとジグドラスは別の場所に……」

「嫌だっ!」


 2人を安全な場所へ移そうとしたが、アカネちゃんは声を上げて拒否する。


「コタローがもしもあいつに負けるならわたしも一緒に死ぬからっ!」

「そ、そういうわけには……」

「絶対に嫌だっ! コタローと一緒にいるっ!」


 絶対に離れない。

 俺の腕に抱きつくアカネちゃんからはそんな強い意志を感じた。


「私もここを離れるつもりはありません。魔王様が敗北をするならば、私も運命をともに致しましょう」

「ジグドラス……」


 2人の意志は固い。

 それは俺を見つめる強い眼差しから明らかだった。


「僕も運命をともにしようか?」

「お前は死なないだろ」

「はははっ。そうだったね」


 とは言え、今の小田原なら霊魂を消滅させるくらいのことはできそうか。


「勝算はあるかい?」

「前回にやられたときのことを考えるとまったくだな」


 奴は神から直接に力を与えられている。奴を倒すには、神と同等に近い力が必要かもしれない。しかし俺にあるのは神獣であるコタツから力を借りる神法と、神の使った力の残滓を集めて使う魔法だけだ。これで勝つのは難しい。


 もうすぐ奴はここへ来る。


 この戦いは負けられない。

 なにか必勝の方法はないものか……。


「危険な方法ですが、勝てる方法はひとつだけありますよ」


 いつからそこにいたのか、千年魔導士がそう言う。


「か、勝てる方法って、どうすればいいんだ?」


 危険でもなんでもいい。

 千年魔導士の言う勝てる方法をやるしかない状況だった。


 ――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 魔王様を救う功績を上げた戸塚ですが、褒めの言葉も褒美なども必要無いみたいですね。ほしいのは魔王様が統治する世界のみ……。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回、千年魔導士が知る危険な方法とは……?

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