第17話 レイカーズの報復

 今日も夜からアカネとダンジョンへ赴く。

 入り口でリターン板に触れると、昨日のボス部屋からひとつ先の部屋へと瞬時に移動した。


「配信開始は次の階層に行ってから始めよっか」


 そう言ってアカネは部屋の端にある下り階段へと近づく。


「あ、俺が先に行くよ。下にすぐ魔物が現れるかもしれないから」

「わかった。じゃあ一緒に行こ」

「おおうっ!?」


 アカネが俺の腕へ抱きつく。


 大きなおっぱいが俺の腕へ触れてふわりと潰れる。

 こうされるともう俺はアカネに逆らえないのだ。


「さあ行くよコタロー」

「あい」


 骨抜きにされながらアカネに引かれて俺は階段を降りる。……と、


「む……っ」


 広い部屋には多くの人間がいた。

 魔物の姿は無いのにそいつらは武器を持ち、全員がこちらを向いていた。


 100人はいるだろうか。

 今にも襲い掛かって来そうな雰囲気だった。


「なんだお前らは?」

「俺たちはレイカーズだ。こうなる心当たりはあるんじゃねーの?」


 集団から出て来た男の姿に俺は仮面の奥で目を見開く。


 小田原だ。

 姿を現したのは探索者の格好をしたコネ入社の年下上司、小田原智だった。


 小田原が探索者をやっていたことにも驚いたが、まさかレイカーズに所属していたとは。まあ、性格を考えれば驚くことでもなかった。


「コタローあいつ……」

「シッ」


 俺は仮面、アカネはサングラスにマスク姿で正体がバレていない。

 わざわざ教えてやることもないだろう。


「皇隆哉をやられたからその復讐か?」

「はははっ。あんな負け犬野郎のことなんてどうだっていいさ。しかし昨日の動画が配信されたおかげで俺たちは迷惑を被ったんだ。落とし前はつけさせてもらうぜ」


 アカネの言った通りだ。

 しかしまさかこんなに早く報復をしてくるとは……。


「こ、こんなことして、また配信されたら困るんじゃないのっ?」

「この状況をネットで配信しようとしても無駄だぜ。この部屋には電波遮断装置を設置してるからな」

「なっ……」


 相手も馬鹿じゃない。

 それくらいの準備はしてくるだろう。


「本当だ……。スマホの電波が入らない……」

「だから言ったろ」


 小田原が卑しく笑う。


「女のほうは美人ならかわいがってやる。仮面野郎のほうは……まあ英太さんに任せるぜ」


 じりりとレイカーズの連中が俺たちのほうへ迫る。


「皇が言っていたことは本当なのか?」

「本当だぜ。俺たちレイカーズはそういうチームだ。なんなら動画を見るか? 最後にシコらせてやってもいいぜ。ひゃははっ!」


 クソ野郎だとは思っていたが、その通りだったな。


 自分の小田原に対する評価が正しくてある意味で安心した。


「一応、聞いておくが、話し合いで見逃してもらうことは可能か?」

「はっ、そこで土下座すれば見逃すことを考えてやってもいいぜ」


 土下座が好きだなこいつ。


 しかし実際に土下座をしたところでこいつの性格からして、見逃すなんて絶対にしないだろう。ならばやるしかない。


「交渉は決裂だな」

「おいおい本当にいいのか? こっちは100人以上を連れて来てるんだぜ? しかも全員がシルバー級だ。土下座しといたほうがいいと思うぜ?」

「土下座をしたところで見逃す気なんてないだろう?」

「よくわかってるじゃねーの。だったらそろそろ痛い目を見てもらうぜ」

「……っ」


 俺はアカネを連れて壁際まで後退した。


「よっしゃっ! お前らかかれっ!」


 全員が一斉に襲い掛かって来る。


「しかたないか」


 この人数をひとりひとり相手にしていては、アカネのほうにも危害が及ぶ。

 ならば魔法で一気に片付けるしかない。


「はっ!」


 右手を上に向ける。と、


「えっ? うぐあっ!?」


 地面から勢い良く飛び出た無数の石がレイカーズ全員に襲い掛かる。


「ぐあっ!?」

「ごあっ!?」

「ぼごぉあっ!?」


 拳大の石での攻撃に次々とレイカーズは倒れて行く。

 やがて全員が倒れ、白目を剥いて気を失った。


「な、なにさっきの? スキル?」

「えっ? あーその……うん。スキル」


 そういうしかないだろう。

 魔法と言っても信じてはもらえなさそうだし。


「じゃあどうしようか? 一応、国家ハンターに……」

「……その必要はありませんよ」

「っ!?」


 部屋に野太い声が響く。

 遠くに誰かが座っている。


 大柄なその者は立ち上がるとゆっくりこちらへ歩いて来る。


「素晴らしいスキルをお持ちですね」


 笑っているような表情の男はパチパチと手を叩く。

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