第16話 国家ハンター本部へ連れて行かれる

 外回りから会社へ戻って来ると丁度、昼休みだった。

 俺は昼食をとるため、会社の外へと出る。


「コタロー」

「うひゃあっ!?」


 むにゅりと柔らかい感触が腕に当たり、俺は思わず声を上げる。


「ア、アカネちゃんっ?」


 俺の腕にはサングラスとマスク姿のアカネが絡みついていた。


「昼休みでしょ? ちょっと付き合って」

「えっ? でもアカネちゃん学校は?」

「創立記念日で休みなの。だからネカフェで昼まで待ってた」

「待ってたってどうして……あ、お昼ごはん?」


 一緒に食べたかったのかな? それは嬉しい。


「それはあと。今朝、レイカーズのリーダーがわたしの配信した動画がネットで話題になってることに関して声明を発表したのは知ってる?」

「いや……」

「レイカーズのチームリーダー藤河原英太って言うんだけど、そいつが言うには配信された動画での皇の発言はすべて狂言でチームが反社会的な行為をしているという事実は無いって答えたらしいの」

「えっ?」


 じゃあ昨夜に皇が言ったことは嘘だったのか?

 ……いや、嘘を吐く理由がない。


「調べたんだけど、この藤河原英太って国家ハンターらしいんだよね」

「えっ? でも公務員って副業禁止なんじゃないの?」

「そのことも含めて、これから確認しに行くから」

「確認って……」

「ちょっとこっち」


 と、誰もいない路地へと連れ込まれる。


「仮面を被って一緒に来て」

「仮面って、ダンジョンへ行くの?」


 社長から副業の許可をもらったのでもう顔を隠す必要は無いが、目立つのは嫌だしこれからも仮面は必要だろうけど。


「昼休みだし、ダンジョンへ行くのは……」

「ダンジョンじゃない。とにかく行くよ」

「行くってどこへ……うあっ!?


 仮面を被ると、路地を出てぐいぐい引かれ連れて行かれる。

 ……やがてやって来たのは、


「こ、ここは……」


 国家ハンターの本部だった。


「さあ入るよ」

「ちょ、ちょっと待って。なんの用でここへ来たの?」

「昨日のこと、国家ハンターに問い合わせたけどなんか変なの」

「問い合わせたって……」

「皇が逮捕されたこと。あのことでレイカーズがどうなったか聞いたんだけど、教えられないって言うから直接、聞きに来たの。ほら行くよ」

「いやでも、お役所ってお固いからそういうの教えてくれないだけじゃ……うおんっ!?」


 問答無用でで連れて行かれる。

 俺が一緒に行く意味はあるんだろうかと思いながら。


「責任者と会わせなさい」


 受付へ行くと第一声でアカネはそう言った。


「えっ? あの……どういったご用件でしょうか?」

「それは責任者に話すから。責任者と会わせて」

「お、お約束はございますか?」

「無い」


 受付の女性が困ったような表情をする。


「あの……お約束が無いと難しいかと」

「聞きたいことがあるの。それだけ。だから早く通しなさい」

「いやあの……」


 さすがはお嬢様だ。

 お固いお役所でも物怖じしない高圧的な物言いである。


「ア、アカ……ツキちゃん、無理だって。約束が無いと」

「ここって税金で運営されてるんでしょ? 税金払ってる国民が会いたいって言ってるのに責任者が出て来ないっておかしいじゃない?」

「いやまあ理屈ではそうかもしれないけど……」

「あなたはサラリーマンでしょ? わたしよりもいっぱい税金を納めてるんだから、言ってやりなさいよ」

「いや俺は……おふぉっ! 責任者と会わせろーっ!」


 おっぱいの谷間に腕を沈められた俺は言う通りに言ってやってしまう。


 俺の精神はもはやアカネちゃんのおっぱいで運営されています。


「ほら、税金をいっぱい納めてる人が言ってるんだから責任者と会わせなさい」

「そう言われましても……」


 騒ぎにこちらへ周囲の注目が集まる。


 警察を呼ばれたりしないだろうか?

 まあ国家ハンターも警察組織に近いものだが……。


「なんの騒ぎだ?」


 と、そこへ髭を生やした偉そうな中年の男が現れる。


「あ、ほ、本部長……」


 本部長、ということは国家ハンター本部の責任者か。


「あなたがここの責任者?」

「そうだが」

「あなたに言いたいことがあって来たの。わたしたちは昨日、シルバー級1位でレイカーズってチームに所属してる皇隆哉に襲われたの」

「レイカーズ……」


 レイカーズと聞いて本部長の表情がやや強張った気がする。


「ここにいる白面が返り討ちにして国家ハンターに引き渡したんだけど、問い合わせたら教えられないって言われたの? だから直接、聞きに来たの」

「問い合わせでそう言われたのならばそういうことだ」

「シルバー級1位が逮捕されたのに報道も無いし、もしかして逮捕した事実を隠蔽してるんじゃないの?」

「馬鹿な。そんなことは無い」

「調べたらレイカーズのリーダー藤河原英太は国家ハンターのそこそこ偉い人ってわかったけど? これってどういうこと? 公務員は副業禁止でしょ?」

「藤河原は優秀な職員だ。ダンジョン内の治安向上になるという理由で、特例的にチームの運営を認めている」

「治安の向上? レイカーズが女性を騙したり捕まえて乱暴してるんだけど? それを知っててそう言ってるの?」

「言いがかりだ。そんな事実は無い」

「サブリーダーの皇が言ってたんだから、言いがかりは無いでしょ」

「ならば証拠を持って来たまえ。証拠も無いのに勝手なことを言うもんじゃない」

「皇を取り調べたらわかることじゃない?」

「理由も無いのに取り調べはできない」

「理由が無いって……」

「我々は忙しいんだ。さっさと帰りたまえ」


 そう言い残して、本部長は背を向けて去って行く。


「ちょっとまだ話は終わってないっ!」

「アカツキちゃん」


 これ以上は話しても無駄だろう。


 納得いかずに渋るアカネを宥めて俺は国家ハンター本部から出た。


「なにあいつむかつくっ!」


 出て早々アカネはそう声を上げる。


「まあね」


 彼の言っていることは確かにおかしい。

 レイカーズを庇っているような、そんな風だった。


「やっぱり動かぬ証拠みたいのを持って来ないとダメじゃないかな?」

「捕まえた皇を調べればわかるじゃない? まさか釈放したのかな……」

「俺たちがあいつに襲われたのは事実だし、それは配信した動画でも証拠として残ってるから、釈放なんて有り得ないと思うけど……」

「あの感じだと有り得そうじゃない?」

「まあ……」


 だとしたらやはり国家ハンターはレイカーズを庇っているのか。


「わたしの配信はネットで話題になってるのにマスコミの報道が無いのも変だよね? もしかしたらマスコミもグルなのかも」

「そ、そこまでなのかな?」


 レイカーズはマスコミを操作できる力があるのだろうか?

 リーダーが国家ハンターならばそれが可能でも不思議はないかもしれないが。


「ねえコタロー、これって配信のネタになると思わない?」

「えっ? 配信のネタって?」

「VTuberアカツキの配信でレイカーズのやってることを世間に暴露するの。そうしたらマスコミや国家ハンターがレイカーズと繋がっていたって、世間が連中を許さない。世論の圧力を受けた国がレイカーズを潰さざるを得なくなるはず」

「それはまあ……そうかもしれないけど」


 このままだとたぶんレイカーズは今まで通りだ。

 配信で奴らの悪行を暴露して世間の圧力で潰すというのは良い方法だと思うが。


「コタローは反対?」

「うん。やっぱり危険だし、アカネちゃんにあぶないことはさせられないよ」

「コタローが一緒なら大丈夫だと思うけど?」

「俺の力を過信しないで。レイカーズには俺より強い奴だっているかもしれないんだ。奴らには関わらないほうがいい」

「けど、このままだとレイカーズの被害者が増えるんじゃない?」

「失望するかもしれないけど、俺は正義の味方じゃないんだ。アカネちゃんを助けたのだって、君が素敵な女性だからだよ。他の人がどうなってもいいとは言わないけど、アカネちゃんを危険な目に遭わせてまで救おうとは思わない」


 これが本音だ。


 これを聞いてアカネは俺を嫌うかもしれない。

 しかし俺がどういう人間かは正しく知って置いてほしかった。


「うーんそっか」


 アカネは特に失望した様子も無く、腕を組んでうんうんと頷いていた。


「まあわたしも正しいことしてやるって感じには言ったけど、実際はこの件を暴露して配信がバズればいいなってのが本当のところだし、コタローを悪く思ったりしないから安心して」

「あ、そ、そう」


 嫌われる覚悟だったが、嫌われてないようで心底ホッとしていた俺だった。


「コタローがそう言うなら諦めるよ」

「そ、そう?」


 それを聞いて俺は安堵するが。


「まあどうせ、昨夜に配信した動画を見て向こうからわたしたちに危害を加えてくるだろうしね。それをコタローがボコボコに返り討ちしてから、奴らの所持品とかを探って証拠を見つければいいし」」

「は、はは……まあそう、だね」


 諦めるとはなんだったのか?


 アカネはレイカーズに関わる気まんまんだった。


 だがアカネの言うことも確かだ。

 レイカーズが俺たちに危害を加えてくる可能性はあった。


「けどそのときは俺がアカネちゃんを守るよ。命に代えてもね」


 自然とくさいセリフが口から出てきて俺は顔が熱くなる。


 そんな俺をアカネはニヤニヤした表情で見ていた。


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