第15話 社長からお礼を言われる

 社長室へと連れて来られた俺は客用のソファーへ座るよう促される。

 向かいのソファーに社長は腰を下ろし、アカネはその隣に座ると思ったが、なぜか俺の横へと座った。


「末松小太郎君だったね?」

「あ、は、はい」


 社長に名を呼ばれて緊張する。


 一体なんの話をされるのか?


 俺の心臓はドキドキしていた。


「まずは礼を言おう。ありがとう末松君」


 社長は俺へ向かって深く頭を下げた。


「えっ? お、お礼って……」

「君がダンジョンでアカネを魔物から救ってくれたと聞いた。君がいなければアカネは……。本当に感謝しているよ」

「あ、はい」


 理由はともかく、アカネを助けたのは事実だ。だから感謝は素直に受け取っておくことにする。


「アカネは私の大切な娘だ。それを救ってくれた君には感謝してもしきれない。なにかほしいものがあれば言ってくれ。できる限り用意しよう」

「い、いやそんな、ほしいものなんて……」

「なんでも言ってくれていい。昇進がしたいならば特例で役職を与えよう。金でいいなら私の財産を半分譲ってもいい」

「そ、そこまでしていただくわけには……」


 小田原みたいなコネ入社の図太い嫌味な性格でもない限り、実力が伴っていない昇進をしたって下からの突き上げで苦労するだけだ。

 金はほしいけど、社長の財産を半分もらうのはさすがに気が引ける。


「ではなにがほしいんだ? なにも無いでは私の気が済まないよ」

「そ、それは……その」

「パパ、コタローはお金も昇進もいらないの。コタローがほしいのはわたし」

「えっ?」


 不意に腕へと抱きついてくるアカネ。

 その瞬間、俺の肝は冷え切った。


「な……」


 社長の目が丸く見開く。


 終わった。


 俺はクビを覚悟した。


「き、君はその……ア、アカネに……好意があるのかね?」

「は、いやその……えーと……」

「はっきりしたまえっ!」

「大好きですっ!」


 大声で迫られ、俺の口から本能が吐き出る。


 性格に関してはまだ会って間もないのでなんとも言えない。

 しかし外見は大好きであり、そういう意味で本能が吐き出た。


「そうか大好きか……」

「だ、大好きです……」


 16歳の愛娘をおっさんの俺に大好きだと言われる父親の心情。

 それは決して快くないものだと、娘のいない俺でも理解できた。


「アカネは彼のことをどう思っているんだね?」

「んー会ってからそんなに経ってないし、まだよくわからない。けど……今のところはかなり気に入ってる、かな」


 気に入られていたのか。


 それは単純に嬉しかった。


「歳はずいぶん上だぞ?」

「パパだって20歳下のママと結婚したでしょ? それにくらべたらわたしとコタローのほうが歳は近いよ?」

「そ、それはそうだが……」

「コタローがほしいのはわたしなの。だったらパパは黙ってコタローのしたいようにさせてあげるべきじゃない? わたしが思いを受け入れるかは別としてね」

「う、うーん……」


 社長は強面の顔を悩ませる。


 なんだかすごい話になってしまった。

 ここから社長になにを言われるのか想像もつかない。


「末松君……いや小太郎君と呼ばせてもらおうか」

「は、はい。すいません……」


 名前を呼ばれただけでなぜか謝ってしまう俺。


 強面社長の神妙な面持ちが怖い。


「君がアカネを好きなのはわかった。本来ならば娘にちょっかいを出すなと父親として君を叱りつけなければならないのだが……」


 それはもちろんそうだろうと俺は覚悟をしていた。


「しかし君はアカネの命を救ってくれた恩人だ。君がアカネを好きだと言うのならば、私はなにも言わん。それが私から君に送る感謝だ」

「は、はい」

「アカネも君を気に入っているようだし、まあこれからどうなるかはわからないけど、将来アカネと小太郎君が……け、結婚ということになったならば、私はたぶん反対をしないよ。歳の差は気になるけど、私も妻とは歳の差がある結婚をしたからね。そこは強く言えない」

「け、結婚はさすがに話が早いのでは……」


 アカネはまだ16歳の女子高生だ。

 俺なんかよりよっぽど良い男に出会える機会もたくさんあるだろうし……。


「そうだね。まあこの話は君たちの今後に任せるとして、小太郎君には私からお願いしたいことがあるんだ」

「お願いしたいことですか?」


 なんだろうという顔をしつつ、なんとなくその願いを俺は察していた。


「うん。アカネがやっているVTuberだったか。その配信をするとかでアカネが毎日のようにダンジョンへ行っていることに私は悩んでいてね。あぶないからやめなさいと何度も注意をしているんだが、言うことを聞かなくて困っているんだ」

「それは……もちろん心配でしょうね」


 ダンジョンは危険な場所だ。

 そこへ娘が行っていれば心配なのは父親として当然だろう。


「ああ。そこで君へのお願いとは、これからも娘の護衛を務めてほしいということなんだ」

「護衛を……」


 やはりそのことだったかと俺は思う。


「もちろんアカネを守る過程で魔物の素材を手に入れて、それで収入を得て副業にしても不問とするよ。本来は就業規則違反だが、特例で認めよう」

「は、はあ……」


 それはありがたいが……。


 しかしこれからもずっと、俺の力でアカネを守っていけるのか? ここで断ってもっと良い護衛を雇ってもらったほうが……。


「それを頼む必要は無いよパパ」


 考える俺の隣でアカネが代わりに答える。


「コタローはわたしのことが大好きなの。パパが頼まなくたって、コタローはわたしのことを守ってくれるよ。ね、コタロー?」

「えっ? そ、それは……」


 腕に抱きつくアカネにぎゅーと巨乳を押し付けられる。


「も、もちろんですぅ!」

「ね、パパ」

「う、うん。そうだな。それじゃあ小太郎君、これからもアカネを頼むよ」

「は、はい……」


 もうやるしかない。

 自分の力を信じて、アカネを守り抜こうと俺は誓った。


 それからアカネを会社の外まで送って、俺が自分の机に戻ると、


「おい末松」

「あ、はい」


 不機嫌そうな小田原が俺のところへやってくる。


「土下座をまだ見てねーんだけど?」

「はあ」

「はあじゃねーよ、土下座しねーならてめえはクビに……」

「副業は社長から許可をもらったんで」

「えっ?」

「疑うなら社長に聞いてください。話は終わりですか? だったら俺、外回り行ってきますんで」


 俺は鞄を持って逃げるように机から離れる。

 扉から出る瞬間、小田原の舌打ちが聞こえた。


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