かつて異世界で最強の魔王をやってた平社員のおっさん ダンジョンで助けた巨乳女子高生VTuberの護衛をすることになったけど、今の俺はクソザコなんで期待しないでね
第14話 副業がバレて土下座をさせられそうになるが……
第14話 副業がバレて土下座をさせられそうになるが……
昨日は予定より帰りが遅くなり、あまり眠れなかった。
遅刻はせずに出社できたが、眠くてしかたがない。
まだ誰も来ていないし少し寝ようか。
いやそんなわけにはいかない。寝たら始業までに起きられない。
今夜はもう少し早く帰るようにしよう。
まあそれはアカネ次第で、自分ではどうにもできないのだが。
「はあ……」
昨夜を思い出して右手をじっと見つめる。
皇が現れてくれたおかげと言ってはなんだが、魔法を使った件はなんとか誤魔化せた。今後は安易に使わないようにしようと反省する。
しかし今後はどうするか?
数回で断るつもりだったが、アカネのことは心配だ。
ダンジョン探索をやめるように言っても恐らく無駄だろう。
俺が手伝ってやらないとあの子はあぶない目に遭ってしまう。
自分自身が怪我を負うのももちろん嫌だ。
だがそれ以上にアカネが危険な目に逢うのは嫌だった。
これからも手伝うとして、この先もあの子を守り続けられる力が俺にあるか?
昨日は浅い層だったから無事に帰ることはできたけど、深く潜れば深く潜るほどダンジョンに現れる魔物は強くなるのだ。
かつてより弱体化した俺の力でアカネを守り切れるだろうか?
机で仕事の準備をしながら俺はそれをずっと考えていた。
「おい末松!」
そこへ急に大声で名前を呼ばれてビクリと身体を震わす。
「あ、お、小田原課長、おはようございます」
いつもは遅刻してくる小田原が今日は珍しく始業のだいぶ前に来た。
珍しいこともあるものだ。
早くなんて来なくてもいいのにと思いながら、あいさつだけはちゃんとした。
「お前、昨日は退社後にどこへ行ってた?」
「えっ? そ、それはもちろんすぐに帰宅しましたけど……」
なにか嫌な予感がする。
小田原の雰囲気からそれを察した。
「ふーん帰ったのか? 本当だろうな?」
「は、はい」
「じゃあこれはどういうことだ?」
スマホの画面を見せられる。
そこには昨夜、ダンジョンから出てアカネの乗ったタクシーを見送っている俺が写っていた。
「これお前だよな?」
「あ、こ、これは……その」
「うちの会社は副業禁止だ。それはわかってんだよな?」
「は、はい……」
まずい。ダンジョンに行ってるのがバレた。
謝れば許してもらえるか? いや、相手は小田原だ。
たぶん一発でクビにされる。クビはまずい。
社会保険を払いながら安寧なサラリーマン生活を送るという俺の人生が台無しになって、脳筋ハンター生活が始まってしまう。それはダメだ。
どうしたらいいか、俺は困惑した頭で考える。
「お前はクビだ」
「ク、クビはちょっと……」
「嫌だよな? だったら俺に土下座しろよ。そしたらこの件は不問にしてやる」
「えっ? ど、土下座……ですか?」
この野郎。
完全にパワハラだが、副業禁止を破った俺のほうが分は悪い。
「早くしろよ。クビにされたいか?」
「うう……」
幸い、俺たち以外はまだ誰も出勤していない。
しかしこんな奴に土下座をするなんて……。
「おはようございまーす」
「あ」
そのときタイミング悪く後輩の相良早矢菜が出勤してきてしまう。
「あ、末松さん……と小田原課長、どうかしたんですか?
俺たちの異様な雰囲気を察したのか、早矢菜が訝し気な表情でこちらへ来る。
「おお、相良ちゃん。今からこいつがおもしれーこするからさ。一緒に見ようぜ」
「お、おもしろいことって……」
不安そうな表場が俺を見つめる。
やるしかないのか。
土下座などやりたくはないが、しかしクビにはなりたくない。
覚悟を決めた俺は床へと膝をつく。……と、
「あ、いたいた」
聞いたことのある声が聞こえた。
「えっ?」
声のしたほうへ目を向けると、こちらへ歩いて来るアカネの姿が見えた。
「ア、アカネちゃんっ!?」
どうしてアカネがここに?
さっぱりわからなかった。
「コタローが会社へ入って行くのが見えたから追って来たんだけど、途中で見失っちゃってね。受付で聞いたらここだって言うから」
「そ、そうなの」
なにか用があるのだろうか?
しかしなにもこんな最悪なときに来なくたって……。
「なんだこの綺麗な子? 末松の知り合いか?」
「いやまあ……はい」
「へー」
小田原が舐めるような視線をアカネへ向ける。
「お嬢ちゃんも見ていけよ。今からこいつがおもしれーことするからよ」
「おもしろいこと? なにするのコタロー?」
「え、えっと……」
「見てりゃわかるよ」
嫌みに笑う小田原。
本当に嫌な奴だ。
「おい早くしろよ。クビになりたいか?」
「は、はい」
俺は両ひざをつき、あとは両手を地面へつけるだけとなる。
「なあお嬢ちゃん。今度、俺と出掛けねーか? いいとこ連れてってやるぜ」
こいつアカネをナンパしてやがる。
クソがと思いながら、俺の手が地面へつこうとしたとき、また扉の開く音。
誰かが出勤してきたのだとうんざりしたが、
「しゃ、社長っ!」
小田原の声を聞いて、入室してきたのがこの課の社員でないと気付く。
「なにをしているのかね?」
「えっ? あ、そ、その、無能な社員の教育をちょっと……。あ、こ、この部外者は今すぐに追い出しますんで……」
「この子は私の娘だ」
「そう社長の娘を今すぐ追い出して……って、社長の娘っ!」
素っ頓狂な声を上げる小田原。
社長の娘? アカネが?
小田原と同じく、俺も驚いていた。
「出勤してきたら私の娘を名乗る者がここへ行ったというので来てみたのだ。しかしまさか本当にアカネが来てるとはな。どうしたんだ?」
「パパがお弁当を忘れて行ったから届けに来たの。はい」
と、アカネは弁当箱が入っているであろう青い包みを社長へ差し出す。
「べ、弁当はいらないと言っただろう?」
「ダメ。どうせ外食で身体に悪いもの食べるんでしょ? もう若くないんだから、健康に気をつかわないとダメなんだから」
「わかったわかった。ありがとうアカネ」
やや強面の社長が相貌を崩して弁当箱を受け取る。
娘に弱いんだな。
2人のやり取りを見ていてそれがわかる。
伊馬。どこかで聞いたような名字だと思っていたが、社長の名字だったのだ。
しかしまさかアカネが社長の娘だったとは、とんだ偶然である。
「丁度良かった。パパ。この人が例の人だよ」
「うん? おお、君がアカネの話していた」
小田原を押し退けて社長が俺の前に立つ。
「君のことはアカネからよく聞いているよ。まさかうちの社員だったとは……ん? 君はどうして床に膝をついているんだね?」
「あ、いや別に……そのすいません」
俺は立ち上がる。
「君には少し話したいことがある。社長室に来てくれるかい?」
「わ、わかりました」
なんの話だろう?
やっぱり副業の件か? アカネから話を聞いたって言ってたし、その可能性が高いけど、社長の雰囲気からしてクビとかそういう悪い話ではないような気がする。
「しゃ、社長、実はこいつ副業を……」
小田原の奴。
俺が土下座をしなかったからか、それとも土下座をしてもクビにするつもりだったのか、副業の件を社長へ言おうとしていた。
「副業? そういえば君が終業後にダンジョンへ入って行ったところを見たと何人かの社員が話をしているのを耳にしたが?」
「えっ? そ、それはその……」
「まあ見間違いかもしれんがね。それと君、遅刻が多いそうじゃないか。困るよ。役職のある人間が遅刻をすると示しがつかないからね」
「す、すいません。気をつけます」
「うむ。それじゃあ末松君、行こうか。アカネも来なさい」
「あ、はい」
「うん」
俺とアカネは社長へついて行く。
小田原はすれ違う俺を苦々しい表情で睨んでいた。
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