第19話 小田原智、土下座する
どういうことだ?
俺が首を傾げていると、
「攻撃に耐えられなくなって、玉石が機能を停止したんだよ。進化の玉石は想定以上に強い攻撃を受けると機能を停止して今までに受けた攻撃で進化した肉体もリセットされるって、ネットで検索したら出てきた」
「ふーん。あれ? 電波妨害装置でネットは使えないはずじゃ?」
検索と言ってアカネがスマホをタップしていたので不思議に思う。
「コタローがあいつと戦ってるあいだに装置を見つけて壊したの」
「あ、そうなんだ」
いつの間に……。
しかしこの状況に怯えているかと思いきや、たいした胆力である。
「じゃあこれから配信する?」
「んー今までのは撮影してるからあとで普通に配信しようかな。ライブじゃないけど、まあ今回はしょうがないよね」
「うん。そうだね」
と、俺は倒れている小田原のところへ行く。
「おい」
雑に蹴っ飛ばす。
「い、いた……えっ? あれ?」
「目が覚めたか」
目覚めた小田原を睨み下ろす。
「ひっ……か、仮面野郎っ! え、英太さんっ! 英太さんは……」
「あそこに転がってるぞ」
近くに倒れている藤河原を親指で指す。
「誰だあのおっさんっ? あれは英太さんじゃねーよっ!」
「信じようが信じまいがどうだっていいよ」
俺は小田原の顔面を掴む。
「ひ……い。な、なにをっ?」
「スマホ出せ」
「えっ? な、なんで……」
「出さないならこのまま頭を握り潰してやるけど?」
「ひいいっ! わかりましたーっ!」
差し出されたスマホを奪い取って中身を確認する。
「これはひどいな」
女性を犯している動画がわんさかだ。
こんな奴の下で働いてたと思うと反吐が出る。
「お前、どうしようもないクズだな」
「す、すいません」
「土下座しろよ」
「えっ?」
俺は小田原の頬をひっぱたく。
「い、いたいっ!」
「早く土下座しろよ」
「な、なんで……いたいっ!」
もう一度ひっぱたく。
「いいから早くしろよ」
「な、なんで俺だけ? 他の奴らだって同じことしてるのに……」
「お前はむかつくから特別だ」
「そ、そんな……いたっ!」
「早くしろよ。殺されたいか?」
「うう……」
観念したのか小田原は膝をつき、額を地面へ擦りつけた。
良い気分だ。
日頃の恨みが解消される。
「こ、これでいいですか?」
「ああいいよっと」
「あう……」
最後にぶん殴り、ふたたび小田原は気を失った。
「ああ、すっきりした」
立ち上がってアカネのもとへ戻ると、なぜかジトりとした目で見られる。
「な、なに?」
「コタローって根に持つタイプなんだね。仕返しもちょっと陰湿というか……」
「い、いいじゃないか。あんな奴にちょっと仕返してやったってさ」
「まあそうだね。さて、あとはこいつらのスマホから証拠の動画データを抜き出して、今回撮った動画を合わせて編集してわたしのチャンネルで配信すればめっちゃバズるはず。忙しくなるぞー」
やる気に腕を振り上げるアカネ。
その後、俺はアカネの指示で気絶している連中からスマホを回収した。
……
俺は気を失っている藤河原を縄で縛って担ぐ。そのまま俺とアカネは国家ハンターの本部に赴いた。
「あっ、ちょ……お約束はっ?」
「どいて」
受付の女性を押し退けてアカネは進む。
俺はそのうしろを申し訳なさそうに歩いていた。
「アカツキちゃん、受付はちゃんと通したほうが……」
「わたしたちはこいつに襲われてひどい目に遭わされそうになったんだよ? こいつの親玉に直接、文句を言ってやるんだから受付なんて通してやる必要は無い」
「ま、まあそうかもだけど」
気の強い子だな本当に。
本部長室の前まで来ると、アカネは扉を乱暴に開く。
「な、なんだ君たちはっ?」
奥の机に座っている国家ハンター本部長が目を見開いて声を上げる。
「コタロー」
「あ、うん」
肩に担いでいる藤河原を床へと降ろす。
「そ、その男は……」
「こいつにダンジョンで襲われたの」
「そんなはず……」
「証拠の動画もあるけど?」
ズカズカと強い足取りで部屋へ入ったアカネは、本部長の前にスマホの動画を見せつける。
「こ、れは……その」
「レイカーズの犯罪行為を撮影した動画もあるけど?」
「う……この動画は……」
「今回の件もネットで配信させてもらうからね。そうなったら国家ハンターは終わりだと思うけど、しかたないよね」
スマホを下げたアカネが本部長に背を向けてこちらへ戻る。
「ま、待ってくれっ!」
「なに?」
本部長の顔には以前見た余裕が無い。
縋るような表情でアカネに声をかけていた。
「こ、これは我々の大変な不祥事だ。即座に対応をさせてもらう」
「不祥事で済むこと? 国家ハンター全体が犯罪組織なのに」
「それは違う。そこに倒れている藤河原のやっていることを隠蔽していたのは事実だが、肯定していたわけではない。この男のやっていることが明るみに出れば国家ハンターの信頼が失墜すると考えて、隠さざるを得なかっただけなのだ。決して、国家ハンターが犯罪組織というわけではない。これは信じてほしい」
「ふん。まあどっちでもいいけど。あんたがなんて言おうと、動画のほうは配信させてもらうからね」
「しかたがない。この男にやりたい放題させていたのは我々の大きな過ちだ。君たちの好きにしたまえ。その後の批判は真摯に受け止めるつもりだ。それと、君たちには多大な迷惑とかけたことと失礼を詫びたい。すまなかった」
そう言って本部長は俺たちへ深く頭を下げた。
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