第288話 神の目的
……俺は小田原が部屋へ入って来る直前ごろに装置のリミッターを解除した。それから身体には膨大な力が流れ込み続けている。
「終わりだ小田原」
「馬鹿な……っ! こんなことあってたまるかっ! 俺は……俺は神の力を得たんだぞっ! 負けることなんて絶対にねぇっ!」
そう叫んで小田原はあらゆる方法で俺へ攻撃をしてくる。
しかし無駄だ。
すべての攻撃は俺へと吸収された。
……だが恐ろしい力だ。少しでも気を抜けば世界のすべてを力として食らい尽くしてしまうような、そんな感覚が常にあった。
世界が無くなってしまえば勝ちも負けも無い。
平静を装いつつも、俺は装置の制御に苦心して内心は冷や汗まみれだった。
「今の俺は神の力を吸収できるようになっている。神の力を使うお前の攻撃は一切通じない」
「ぐ……っ。こ、この野郎……っ! 末松のくせに……っ! たいして仕事もできねー低学歴のクズ野郎が、どうしていつも俺より上にいやがるんだっ!」
「さあな」
俺は右手に力を込める。
これを放てば小田原は塵ひとつ残さず消滅するだろう。
「小田原、地獄に帰れ」
「ぐ……うっ」
そして右手に込めた力を放った。……そのとき、
「っ!?」
小田原の前になにかが現れ、俺の放った攻撃を消し去る。
「お前は……」
「ふふふっ」
神だ。
俺に呪いをかけた上、この事態を起こした女神が目の前に姿を現した。
「小田原を助けるために現れたか」
小田原に力を与えたのはこいつだ。
助けに現れたことは明白であった。
「は……うははははっ! これで形勢逆転だぜっ! なあ女神様よっ! 俺にもっと強い力をくれよっ! あいつを殺せるだけの……」
「あなたはもう用済み」
「えっ?」
女神の背後で小田原は煙のように消えていく。
やがて完全に消失し、部屋には俺と女神だけになる。
「どういうつもりだ?」
「あれはもう用済み。あなたは私の与えた試練に合格しました」
「試練だと?」
なにを言っているんだ一体……?
「そう試練。すべては試練だったのですよ。あなたを成長させるための」
「俺を成長って……?」
「あなたが初めて魔王になったときから、ずっと試練を与えていました。あなたが自分の世界へ戻ったあと、天使を使ってイレイアにメルモダーガを送らせたのはわたしです」
「それが試練だと言うのか?」
「そうです。あなたはメルモダーガとイレイアを倒し、そして最後の試練である小田原智をも倒した」
「どうして小田原なんかを復活させた?」
「あなたへの殺意がもっとも強く、それが試練に適していたからです。しかしあなたは最大の殺意を持った最強の敵を倒した。素晴らしいことです」
「素晴らしいものか。お前が奴を復活させたせいで大勢が死んだ」
「凡庸な者らの命が失われることなど、たいしたことではありません」
神とは思えない……いや、むしろ神だからこそこんなことを言えるのだろうか?
しかしあまりに下衆。
到底、理解できる考えではなかった。
「死んだ中に必要な命があったならば復活させればよいだけです。まあ、幸いなことに死んだ命の中に必要なものはありませんでしたけど」
「……俺への試練は大勢の命と引き換えになるほどなのか?」
「もちろん。世界にとって重要なことです」
「……」
もしかして世界の存亡がかかっているとかだろうか? それならば、ここまでのことをした理由にも納得できなくもないが……。
「あなたに試練を与えなければならなかった世界にとって重要なこととは」
「ゴクリ……」
「私が自由になるためです」
「……は?」
自由になるため?
どういう意味だと思いつつ、俺は神を見ていた。
「私は神という最大の位置に存在する者です。しかし神とは永遠の存在。私は神である限り、神という役目を永遠に全うし続けなければなりません」
「それと俺に試練とやらを与えたことには、なにか関係があるのか?」
「ええ。私が神をやめるために」
「神をやめる? まさか……」
俺を神に?
話の流れからそう思ったが。
「あなたが思っていることとは違います。あなたは強者であっても所詮は人の子。神になる資格はありません」
「じゃあ……」
「ほしいのは私と対になる者の血」
「えっ?」
「私とあなたで子供を作ってその者に神を継がせるのです」
「な、なに……?」
神と俺の子だと?
その子に神を継がせる。
そんな話を聞かされた俺の表情は戸惑いに歪む。
「神の座を降りる唯一の方法。それは神に匹敵する力を持つ者と子を成し、その子に神の座を譲ることなのです。あなたは私の与えた試練を乗り越え、神に匹敵する力を得た。私と子を成すには十分なほどに」
「じゃあお前が神をやめたいという理由だけでこんな事態を引き起こしたのか……」
「そうです。我が子へ神の座を譲り、神の力を持ったまま自由に永遠を過ごす。これは神にとって夢なのですよ」
「そんな身勝手な理由で……」
メルモダーガ、イレイア、小田原を使って多くの人間を苦しめたのか。
あまりに身勝手な所業に俺は絶句していた。
「それが世界にとって重要なことだと言うのか?」
「神の望みですよ? 世界にとって重要でないはずがないでしょう」
身勝手の極み。
そしてあまりに下衆。
自分の望みを叶えるために多くを犠牲にした神に対して言えることはそれしかなかった。
「さて、まずはその呪いを解いて差し上げましょうか」
そう神が言うと、身体に精力が戻ったような感じがした。
「神と交わる者は純潔でなくてはなりません。他の女と交わらないよう、あなたが最初に魔王となったときから軽い呪いをかけていました」
「な、なんだって?」
「しかしあなたは成長したことで私のかけた呪いを自然に解いてしまい、別の女と交わってしまう可能性があったので強い呪いをかけたということです」
「もしかして俺が今までアカネちゃんとそういうことができなかったのは……」
「呪いによって事象を歪められていたからですね」
今までに何度かアカネちゃんと行為に至りそうなことはあった。そのたびになにかしら邪魔が入っていたが、それがまさか神にかけられた呪いの影響だったなんて……。
「さて、あなたは私の課した試練を乗り越え、純潔のまま今に至りました。すべての準備は完了です。さあ、わたしと交わりなさい。神と交わるという最高の栄誉を褒美としてあなたに与えてあげましょう」
「断る」
最高の栄誉を与えるという神からの申し出。
俺はそれを迷うことなく断った。
――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
いくら巨乳女神でも、こんな下衆神には魔王様もお怒りですよ。
しかし神の求めを断ってしまった魔王様はどうなってしまうのか……?
☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
次回は拒否した魔王様に神は強硬手段を取ろうとするが……。
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