第287話 小田原が見た魔王様の素顔
……やがて魔王の間の扉が破壊され、そこから小田原が姿を現す。
「よお。ひさしぶり……でもねーな。くっくっく」
卑しく笑う小田原を俺は玉座に座って見つめる。
見た目は初めて会ったときとなにも変わらない。
しかし今のこいつには神の力があり、単なる嫌な上司だったときとは違う。
「今回はずいぶんとおとなしく入って来たな」
以前のように部屋ごと燃やし尽くされる可能性を考え、ここには俺だけで待っていた。しかし今回は意外にも静かな入室だった。
「あんまり簡単に殺しちゃつまらねーからな。じっくり殺してやる」
「……お前ともずいぶん長い付き合いになったな」
「ああ。だが今日で最後になるぜ仮面野郎」
「そうだろうな」
そう言いながら俺は自分の仮面を外す。
「な……っ!?」
俺の顔には今だ呪い言葉が刻まれたままだ。
しかし憎い仮面野郎の正体を知ってしまった小田原にとって、そんなことはまったくどうでもいいことだろう。
「す……末松っ? なんでてめえが……っ?」
「見ての通りだ。小田原課長」
俺は仮面を投げ捨て、驚愕の表情でこちらを見続ける小田原を睨む。
「最初から……てめえだったのかっ?」
「ああ。レイカーズを潰したときも俺だ」
驚きの表情が少しずつ怒りへと変わっていく。
それからなぜか小田原は表情を崩した。
「……くっくっく。そうか。まさかてめえなんかに今までやられていたなんてな。低学歴のクソ野郎に今まで散々に辛酸を舐めさせられてきたかと思うと、怒りを通り越して笑えてくるぜ」
「……」
「だが今まで受けた屈辱は全部、今から返せる。そう考えるとよぉ、この怒りもこれからてめえをなぶり殺す楽しみのスパイスになるってもんだ。その顔にあるふざけた落書きもただただ笑えるぜ」
「お前の思い通りにはならない」
「なるぜ。今の俺には神の力がある。神から力をもらった勇者様だ。魔王のてめえが勝てるはずはねーんだよ」
「さて……それはどうかな」
「くくくっ。さてまずはどうしてやるかな? 四肢をもいでてめえの大切なものを目の前でひとつずつ破壊してやるか。てめえの女は目の前で犯してやる。それから惨たらしく殺してやるぜ。ひゃっはっはっ!」
「……お前はなにも変わらないな」
性格は最初からなにも変わっていない。
相変わらずの下衆野郎だ。
「魔人の女を殺したとき、少しは心があるのかもと思ったが」
「黙れ」
笑っていた表情を一転して怒らせ、小田原は強い目で俺を睨んだ。
「心なんてくだらねーこと言ってんじゃねーよ。俺はあの女なんてどうでもいい」
「……そうか」
こいつは俺が殺したあの魔人に対してなにか思うところがあるのかもしれない。しかしそんなことはどうだっていいことだ。
こいつは倒さなければならない邪悪な敵。
それだけわかっていれば十分だった。
「ふん。じゃあまずは……右腕をもらってやるぜっ!」
こちらへ向けた小田原の人差し指から、風の刃が飛ぶ。それは俺の右腕を目掛けて飛んで来たが……。
「な、なに……っ!?」
刃は当たる寸前で消えた。
「これは一体……どうなってやがるっ?」
「簡単だ。お前の力を吸い取ったんだよ」
驚愕に目を見開く小田原へ、俺はそう言ってやった。
……
この戦いが始まる前、千年魔導士は小田原に勝つ方法を俺に教えた。
「集合装置のリミッターを外す?」
「はい」
神の使った力の集合装置のリミッターを外す。
千年魔導士は俺にそう言った。
「集合装置にはリミッターがかけてあります。それを外せば効果を強めて、より多くの力を集めることができるでしょう」
「しかしなんでリミッターなんかつけているんだ? 無いほうが効果は上がるだろうにさ」
「装置は研究者の想定を超えて力を集め過ぎてしまうものでした。なのでリミッターを設けて、残滓のみを集めるように調整したのです」
「外すと残滓以外も集めるのか?」
「神の力すべてを集めてしまいます。つまり神の創造したこの世界を破壊して、すべて力として吸収してしまうかもしれないということですね」
「そ、そんな危険な力……」
使えるはずがない。
小田原を倒せたとしても、世界を破壊しては本末転倒だ。
「使うのは危険です。しかし使わなければ魔王様は殺され、アカネ様たちも殺されるでしょう。そして世界は小田原智という男によって惨たらしく蹂躙されます」
「……」
「短いあいだならリミッターを解除しても大丈夫でしょう。解除コードを教えますので、使うときになったら頭の中で唱えてください」
「……わかった」
それから俺は千年魔導士から解除コードを聞き、小田原との戦いを迎えた。
――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
ついに魔王様の素顔を知った小田原。しかしもはや正体なんてどうでもよかったでしょうね。
☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。
次回は小田原の最後です。
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