第180話 小太郎の判断は……

 ……それから3日経ち、俺は同じ時間に同じファミレスへ来ていた。


「答えは出たかな?」


 席へ来た俺へ向かって女がニコリと笑いつつそう言う。


 偶然か必然か席は3日前と同じ場所で、戸塚我琉真はまるで3日間そこに座っていたかのような雰囲気で席に座っていた。


 俺は憂鬱な気持ちで向かいの席へ座り、戸塚我琉真を見据える。


「俺なりに調べて、お前の言っていることがまったくのデタラメでもないことは確認した」


 ネットで調べたところ、実際に中国では誘拐という形で失踪者が続出しているらしく、政府にとって不都合な人間が謎の魔物に殺されているのも実際に起こっているらしいということはわかった。


「なら僕の言うことを信用してくれるかい?」

「調べた結果が信用できると判断しただけだ。お前の言葉を信用したわけじゃない」

「それは悲しいね」


 と、戸塚は苦笑しつつ肩をすくめる。


「ただ、俺の調べた情報では攫われた人たちがどこへ連れて行かれたかまではわからなかった。お前の言っていることを信じるなら、山奥の施設で魔人に魔獣という生き物へ変えられていることになるが」

「ふふ、僕を信じて一緒に例の施設へ行くか。それとも中国へ行ってひとりで地道に探すかだね。さてどうするんだい?」

「答えは決めてきた。お前とその施設へ行く」

「賢明な判断だよ。嬉しいね。僕を信じてくれたんだ?」


 そう、したり顔で言う戸塚を俺は睨む。


「言っておくが、やろうと思えば俺は霊魂を消滅させることもできる。もしも騙しているとわかったら、即刻、お前の存在を消してやるからな」

「怖いねぇ。結構だよ」

「はったりで言っているわけじゃないぞ?」

「もちろん。君ほどの実力者なら、僕を消すことなんて造作も無いなんてことはわかっているよ。安心してくれ。僕は君を騙してはいないし、今後も君を騙すつもりは無い。未来永劫、君に隷属することを誓おう」

「……いや、それは気持ち悪いからやめてくれ」


 こんなおかしな奴にこれからも付きまとわれるなんて勘弁だ。

 関係は今回の件で終わりにしたい。


「さてじゃあ中国へはいつ行く? 君の力ならすぐにでも行けるだろう?」

「中国のどこだ?」


 場所がわかれば転移ゲートですぐに行けるが。


「いや、それが僕にも正確な場所がはっきりとはわからないんだ」

「そこへ行ったんじゃないのか?」

「ああ、行ったけどね。連れて行かれるときは縛られてトラックの荷台に放り込まれていたから、外の様子がわからなかったんだ」

「お前は死体に憑依しているだけなんだから、身体を抜けて外を見ることはできたんじゃないか?」

「霊魂っていうのは慣性の法則が通用しないんだ。つまり肉体から出た瞬間に僕は移動するトラックに置いて行かれてしまうってこと」

「そ、そうなのか」


 知らなかった。

 しかし知ってても死んだあとにしか役に立たないだろう無駄知識である。


「だから僕はこうやって頻繁に人の身体へ憑依して移動しているのさ。霊魂はどこへでも行けるけど、移動はひどく遅いし乗り物にも乗れない。手足が無いからしがみ付くこともできないしね」

「意外に不便なんだな……。ん? だったらどうやって俺に付きまとってたんだ? 俺は頻繁に電車へ乗ったりするけど」

「背後霊ってあるだろう? 霊魂は人間へくっつくことで一緒に移動することができるようになるんだ。つまり僕は君の背後霊になってたってこと」

「背後霊……」


 そういえばちょっと前まで肩が重かったような……。

 こいつのせいだったのか。


「……2度と俺に付きまとうなよ」

「約束しよう」


 にやけ顔でそう言う戸塚。

 信用はできないので、肩に重さを感じたら消滅させてやろうと思った。


「話を戻すけど、行くときはそうでも、施設から帰るときはどうしたんだ? 帰ってきたなら道はわかるはずだろ? 空高くに浮かべば場所も特定できたんじゃないか?」

「もちろん。霊魂であることを生かして施設の上空へ浮かぼうと思ったよ。けど途中で風に飛ばされてしまってね。グルグル回って、ようやく止まったと思ったら全然知らないところにいてねぇ。適当な人に憑りついてようやく日本へ戻って来たんだよ」

「そう……」


 案外、マヌケだなこいつ。


「まあでも、だいたいの位置はわかったし、詳しい位置は協力者に探らせているから大丈夫だと思うよ」

「協力者? 俺以外に誰かいるのか?」

「僕のファンがいてね。いろいろ手伝ってくれるんだ」

「お前のファン? ファンね……」


 こいつが以前に起こした国会議事堂襲撃事件。あの事件では多くの国会議員や議事堂に勤める人たちが亡くなり、怒りや悲しみの声が世間には溢れた。

 しかし一方で、国会議員を殺した戸塚我琉真の犯行を称賛する者たちも少なくはなく、この男をヒーローのように崇める者らもいたとか……。


 事件からはだいぶ経ったが、そういうファンがまだいるということだろうか。


「まずは彼女と合流しようか。北京のホテルにいるはずだから」

「女性? 大丈夫なのか? 女性にそんな危険な調査をさせて」

「ああ。彼女はブラック級のハンターさ。心配には及ばない」

「ブラック級がお前のファンか……」


 危険な予感しかしない……。


「じゃあまずは北京のホテルだな。行くのは次の土曜日でいいか?」

「僕は今すぐでも構わないよ」

「俺は勤め人だ。お前みたいに暇なテロリストじゃない」

「わからないな。君ほどの人間が使われる側でいるなんて。君は支配者になる器だ。使われているなんてもったいないよ」

「……」


 確かに以前は魔王をやっていた身だ。

 そんな俺が今は安月給の雇われなんて知ったら、かつての配下たちは笑うだろう。


「君は支配者になるべきだ。世界はそれを望んでいる」

「お前とそういう話をする気は無い」


 俺が睨むと戸塚は目を閉じ、両手を上げて黙った。


「じゃあ土曜日の朝に……うちへ来い。知ってるんだろ?」

「ああ。もちろん」


 テロリストに家を知られてるなんて嫌だなぁ。


 引っ越そうかなと思いつつ、俺は席を立つ。


「ああ待った」

「うん?」

「いや、たいしたことじゃないんだけど、中国へは小太郎君として行くのかな? それとも仮面のスーパーヒーローとして?」

「いや、仮面のほうはチャンネルのキャラクターみたいなものだから、プライベートなことではあれをつけて行動できない」

「じゃあ小太郎君として行くんだね?」

「うん? うーん……」


 末松小太郎は普通のサラリーマンだ。

 白面のように戦うところを誰かに見られて動画でも撮られたりしたら面倒か。


「その表情から察するに、小太郎君では都合が悪そうだね。なら良い方法がある。誰にも君とは認識されない簡単な方法さ」

「なんだ?」

「ああ……」


 ニコニコ笑顔でその方法を話す戸塚。

 それは簡単な方法であったが、提案を受け入れるには少し時間がかかった。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 魔獣が作られている施設へ戸塚とともに行くことにした小太郎ですが、場所がはっきりせず思ったより時間がかかりそうですね。


 フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。

 感想もお待ちしております。


 次回はメルモダーガが彼の目指す世界支配の方法を詳しく語ります。

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