かつて異世界で最強の魔王をやってた平社員のおっさん ダンジョンで助けた巨乳女子高生VTuberの護衛をすることになったけど、今の俺はクソザコなんで期待しないでね
第181話 デュカスによる世界支配(メルモダーガ視点)
第181話 デュカスによる世界支配(メルモダーガ視点)
世界を恐怖に陥れている魔人に人類はどう対抗するか?
そのような話し合いをするという名目で国連本部に訪れたメルモダーガは、国連の事務総長と会っていた。
「遠いところご足労いただきありがとうございます。メルモダーガさん」
「いえいえ。こちらこそお忙しいところお時間を作っていただいて、ありがたいと感謝しておりますよ」
2人は握手をし。向かい合ってソファーへと腰を下ろす。
「しかしなぜデュカスの本部は日本にあるのですか? なにか日本へ思い入れが?」
「いえ、そういうわけでは。ただ……」
メルモダーガはすっと目を細める。
「私がこちらへ来たとき、そこが日本だったというだけですよ」
「ほお。例の異世界というやつですか?」
「ええ」
メルモダーガが異世界からこちらの世界へ来たのは今から2年ほど前のこと。謎の女によって捕らわれの身から救われたメルモダーガはその女から力をもらい、異世界を支配するよう言われてこちらの世界へ転移させられた。
与えられた力は人を魔人という怪物に変えて支配することができるスキル『エビルエンペラー』。このスキルを使えば、人間を魔人という怪物へ変えることができる。邪悪な心が深いほど強力なスキルを与えられて優秀な魔人とはなるが、悪人とは誰しも利己的で油断をすれば裏切られるという扱いづらさはあった。
「しかしそんなものが存在するとはにわかに信じられませんな。いえ、メルモダーガさんを疑っているわけではありませんよ。あまりに非現実的な話はなかなか受け入れがたいものですよ」
「私もこちらへ来るまでは異世界の存在など知りませんでした。異世界の存在など、話を聞いただけでは受け入れないのは当然でしょう」
「そう言っていただけると……。ああ、それで本日のお話ですが、メルモダーガさんが想定する世界平和の展望をお聞かせ願いたい」
「ええ。そのようなお話をする予定でしたな」
と、メルモダーガは両手を組んでソファーへ背を預ける。
「私が考える世界平和とは……恐怖による支配です」
「恐怖による支配、ですか。それは魔人を使ってのものですか?」
「そうです。世界中の人間に魔人を恐れさせるのです。魔人は力で勝つことのできない超自然災害と世界中の人間に認識させます」
「メルモダーガさんが魔人を使って恐怖の支配をすると?」
「それは違います」
そういう方法も考えてはいた。
だがそれはあまりに野蛮で品が無い。自分のやり方ではないと考えたメルモダーガは、もっと素晴らしい方法を思いついていた。
「魔人はデュカス信者の祈りによって撃退できるようにするのです。デュカス信者の祈りでしか魔人を撃退できないと知れば、世界中の人間はデュカスに入信をするでしょう。そして私の言葉によって、世界は動くようになる」
「な、なるほど」
「世界中の国々は私に従ってもらいます。従わなければ魔人による制裁が行われる。大国の大統領であろうと、小国の独裁者であろうと逃れることはできません」
「ほう……」
語るメルモダーガを前に事務総長は感嘆の声を漏らす。
「魔人という共通の敵を持つことで人類はひとつになります。そうなれば人類同士の争いはもう起きません。兵器も必要無くなるでしょう」
「素晴らしい。それならば世界から戦争が無くなるかもしれない。いや、きっと無くなるでしょう。あらゆる宗教が実現できなかった人類の統一が、デュカスによってついに為される。協力しますよ。我々は全力で」
「ありがとうございます」
この答えは予想できていた。
魔人の強さは事務総長も知っている。そしてその魔人をいくらでも作り出せるメルモダーガの存在を踏まえ、計画の現実味を理解したのだろう。
正直、世界平和などはどうでもいい。
ほしいのは世界を支配するという最大の地位であった。
国連はそこへ至るためにできる限り利用させてもらう。
目の前の男も純粋な子供ではない。本気で世界平和のためなどと信じているわけではなく、今のうちデュカスに媚を売っておこうと協力しているに過ぎないだろう。
「それで、計画の本格的な実行はいつ頃になりますか?」
「今は準備段階です。全人類が魔人を絶対に倒せない災害と認識するには、まだもう少し時間がかかるかと」
「絶対に勝てない災害、ですか」
そう言った事務総長の表情がやや曇る。
「魔人の強さは私も存じております。しかし絶対に勝てないと人類に思わせるのは失敗しているのではないでしょうか?」
「それは……」
「白面です。あの男は魔人を倒した。しかもあっさりとです。あれは非常にまずい。あの男の存在は計画の妨げになりますよ」
「それは承知しております」
やはりジェイニーとミレーラがやられた動画を出されたのはまずかった。すでに動画は削除させたが、内容は多くの人間が知っていることだろう。
「世界平和の妨げとなる存在はすぐに排除されるでしょう。必ず」
「それならばよいのですが。あと、魔人は邪悪な者ばかりと聞きます。身勝手な理由でデュカスを裏切って繋がりを暴露する可能性もあるのでは?」
「それは心配いりません。魔人はそれを口にできないようになっておりますので」
魔人にする際、いくつか絶対遵守の命令を頭に仕込んでいる。
まずメルモダーガへの攻撃は不能。あとはデュカスと魔人の繋がりを口外しないなどだ。魔人はメルモダーガの仕込んだ命令に自分の意志では逆らえない。命令でガチガチに縛ることもできるが、そうすると精神がおとなしくなり過ぎて邪悪な心が弱まり、弱体化してしまうのであまり多くの命令は仕込めない。
「それを聞いて安心しました」
「はい。おわかりと思いますが、デュカスと魔人の関係を口外すれば誰であろうと不幸になります。どんな地位の者であっても」
「もちろんです。そうであってなくては困りますよ」
メルモダーガの言った言葉の意味を理解しているのだろう。
事務総長は厳しい表情でメルモダーガの目を見返していた。
「ああ、今回の件とは関係無いのですがね。メルモダーガさん、最近、中国の街中で発生している奇妙な魔物をご存じですか?」
「奇妙な魔物? 街中でということはダンジョンから出てきた異形種ですかな?」
「特定異形種ではと言われています。ただ、強さが異常な上、政府に不都合な者だけを殺しているようなので、存在を奇妙に思われているのです。一部では魔人が関与しているのではという憶測もあるようで……」
「ふむ。そのような魔物は私も知りませんな」
ターゲットを狙って殺す魔物。
中国に発生した魔物がなにかは知らないが、心当たりはある。
もしも中国で発生している魔物がそれだとしたら、自分の知らないところで魔人が活動している可能性があった。
……そうして話は終わり、別れを言って部屋を出たメルモダーガは外にいたドルアンを連れて駐車場へ行き、高級外車の後部座席へと乗り込む。
「ポタニャコフ兄弟はまだ見つからないのか?」
隣に座るドルアンへと尋ねる。
ポタニャコフ兄弟は行方不明になったまま帰って来ない。
奴らのことだ。すぐにどこかで人を食って事件を起こすはず。そうなれば所在は明らかになると思ったが……。
「はい。依然、2人の所在は不明です。ただ、弟のほうが末松上一郎に興味を持っていたようで、あとを追ったのかもしれません」
「あとを追ったか……」
だとして、それからどうしたのか?
ロシアの秘密研究所が爆破されたとは聞いたが、末松親子がそこへ連れて行かれたとして、追ったポタニャコフ兄弟は爆破に巻き込まれた可能性も……。
……いや、施設ひとつを吹っ飛ばす程度の爆破で魔人は死なない。
なら連中はどこへ行ったというのか……?
「もしや白面の仕業では?」
「や、奴か……」
現状、間違いなく魔人以上の力を持っているのは奴だけだ。末松親子の亡命を知った被害者遺族の連中が奴へ殺害を依頼し、ポタニャコフ兄弟と戦った可能性は考えられなくはなかった。
「仮にポタニャコフ兄弟が奴に殺されていたとしたら、これは我々にとって脅威でしょう。対策を考えるべきかと」
「むう……」
奴の持つ強さの底が見えない以上、ただ魔人を差し向けても確実に倒せるとは限らない。どうするべきか……。
「ユン・チャンシュンを行かせますか? 奴のスキルならあるいは……」
「ユンか……」
奴の魔人スキルならば白面を始末できる可能性はあった。
「うん? そういえばユンは中国の高官だったな」
「はい。中国政府ではかなり重要なポジションについております」
「ふむ……」
中国で発生している魔物の件でまさかの可能性がメルモダーガの頭に浮かぶ。
「奴め、もしかすれば我々を裏切っているのではないか?」
「可能性がゼロではありません。奴はそもそも中国政府に忠誠を誓っていた男です。最初からデュカスを利用する目的だったのかもしれません」
「うーん……」
だとすれば今も中国政府のために動いているか。
中国で発生している魔物の件も、もしかすれば奴が関わっているという可能性も……。
「過剰に不安視する必要も無いでしょう。魔人はすべてメルモダーガ様への攻撃が不可能です。しかし裏切りの意志がある者を放置もできません。始末を命じて下されば、私が行って処理してきましょう」
「いや……本当に裏切りの意志があるのならば排除は必要だが、奴のスキルは魅力だ。対白面にもっとも有効かもしれん」
「では様子を見ますか?」
「そうだな……ふむ。とりあえずイーに奴を探らせてみるか」
「よい考えです。あの女ならば探らせるのに適任でしょう。裏切りが発覚したと同時に始末も任せることができます」
「うむ。ではイーへの指示を頼んだぞ」
「はい。奴も中国にいます。指示を出せば早急に動くでしょう」
「ああ」
イー・チェン。探らせるということにかけては奴以上の適任はいない。探らせた結果、ユンが始末されることになってもそれはしかたないことだ。どんなに有能でも、裏切者は組織の毒にしかならない。
「ユンに不安がある以上、対白面には別の方法も考えておく必要があるな」
「別の方法ですか」
「ああ。ふむ……あの白面と組んでいる動画配信者、アカツキだったか。あの女に裏切られたら白面はどうすると思う?」
「魔人の中にアカツキと動画配信をしたことがあるという男がいます。その男に依りますと、あの2人は恋人同士のようです。恋人ならば、裏切られた場合は高い確率で絶望するでしょう」
「なるほど。ならば裏切らせる価値はあるな」
「フランソワをお使いになるのですね?」
意図を理解したドルアンが女性の名を声に出す。
「そうだ。奴の魔人スキルでアカツキを洗脳する。洗脳したアカツキに白面を呼び出させたら、油断しているところをお前のスキルで始末をしてしまえばいい。奴とて、油断しているところへお前のスキルで攻撃を食らえば絶命は必須だろう」
「わかりました。油断をしていれば、私のスキルで白面の始末は可能でしょう。アカツキの素性を調べたのち、接触をするようフランソワへ伝えます。白面の素性も一応、調べておきますか?」
「必要無い。始末してしまえば中身が誰であろうと同じことだ」
「かしこまりました」
「うむ」
順調に思えた計画だが、次から次へと問題がでてきて頭を悩ませてくれる。
「はあ……」
あの御方のような絶対的な力が自分にもあれば。
思い浮かぶのは自分が知る中でもっとも強く、もっとも偉大な支配者の姿。
あの御方ほどの力があれば、世界支配の確立など一瞬であったろう。
しかしどんなに望んでも目指してもあの御方のような存在にはなれない。
あの御方の偉大さはもはや神の領域であり、自分がそこまでの支配者になれるとは微塵も思えなかった。
――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
メルモダーガの語る世界支配構想に国連の事務総長は賛同したようです。魔人を使っての世界支配を行うにはやはり白面を倒すことが不可欠のようで、打倒するためにいろいろ考えてはいるようですが、相手が強過ぎて前途多難ですね。
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感想もお待ちしております。
次回は戸塚とともに中国へ。
しかしその前にアカネちゃんがやって来て……。
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