第182話 不意なアカネちゃんの訪問に驚く

 ……土曜日の朝、家にいるとインターホンが鳴った。


「誰か来たようじゃな」

「ああ、俺が出るよ」


 恐らくあいつだろう。


 立ち上がろうとした雪華を制止した俺は、憂鬱な気持ちでインターホンのカメラで訪問者を確かめる。


 と、そこに立っていたのアカネちゃんだった。


「ア、アカネちゃんっ!」


 慌てた俺は急いで玄関へ行って扉を開く。


「あ……ひさしぶり、だね。コタロー」


 外にはバツが悪そうな表情のアカネちゃんが立っていた。


「う、うん。あっ、と、とりあえず入って」

「うん」


 中へ入って座ってもらう。

 雪華は軽くアカネちゃんへあいさつをすると、立ち上がってキッチンへ向かい、お茶を入れてくれていた。


「あ、あのその……」


 向かいへ座った俺だが、なにを言ったらいいかわからず言葉が出てこない。


 ごめん……は、違う。

 謝罪なんかアカネちゃんが求めていないのはわかっている。彼女が求めている言葉を俺はわかっているはずなのに、それを言えなかった。


「コタロー」

「は、はい」


 名前を呼ばれて返事をする。

 なにを言われるのか少し怖かった。


「今度ね、家族でクルーズ船に乗るの」

「えっ? クルーズ船?」


 想定外の話題に俺は少し戸惑いつつ聞き返す。


「うん。日本と中国を往復するクルーズ船で、国内外の偉い政治家とかお金持ちとかがたくさん来てパーティするんだって」

「そ、そうなんだ」


 アカネちゃんの家はお金持ち一家なので、そういう豪勢なパーティに参加しても不思議ではなかった。


「それでママがね、コタローも呼んだらって」

「えっ? お、俺も?」

「うん。その……ほら、わたしたち今ちょっとギクシャクしてるじゃん? だからその、仲直りのきっかけにしたらって……ママが」

「アカネちゃんのママが……」


 俺たちのことでいろいろ気を使わせてしまっているようだ。


 本当は俺がもっとしっかりして、アカネちゃんと話して仲直りしなきゃいけないのに、楓さんに気を使わせてしまい、情けない心地になる。


「それでクルーズ船なんだけど、出発が今夜なんだよね」

「こ、今夜?」

「うん。急なんだけど……どうかな?」

「今夜……今夜は……」

「――今夜は無理じゃないかなぁ」

「えっ? うおっ!?」


 声のほうへ顔を向けると、そこには女の死体に憑依した戸塚我琉真が立っていた。


「お前どこから……」

「この小さな君のお母さんに入れてもらったんだよ」


 と、戸塚は雪華のほうへ目をやる。


「友達だって言っとったけど、違うのかの?」

「知り合いだけど友達ではないよ」


 むしろ敵である。


「誰この人?」

「あ、えと……こ、この人は……」


 戸塚我琉真だと言えば、これからこいつと中国へ行って魔人を締め上げてくることまで話さなければならない。それを言えばアカネちゃんも動画配信をしたいと言って、ついて来てしまう可能性があった。


 コタツを連れて行けばきっとアカネちゃんへの危険は無いだろう。しかしだからと言って、わざわざ危険な場所へ連れて行くことも無い。


「この人はね……その」

「戸塚我琉真だよ」

「って、おおいっ!」


 俺が誤魔化そうとする前で、戸塚は勝手に名乗ってしまう。


「えっ? 戸塚我琉真ってあの……グレートチームのときにわたしを人質した凶悪なテロリストの? 本当に? コタロー?」

「あの、それは……はあ」


 諦めた俺は理由をすべてアカネちゃんへ話すことにした。


「……ふぅん。中国の魔人ね」


 話を聞いたアカネちゃんは腕を組んで頷く。


「うん。だからこれからその魔人を締め上げて魔人の正体を聞き出して来ようとね。そういう話になっているんだ」

「これから、ね。そういう動画配信したらバズりそうな話はもっと早くに聞きたかったんだけど」

「ごめん……」

「まあコタローがわたしを心配してくれてのことだってのわかってるけどね。ちょっと残念だけど急だし、今回は諦めようかな。予定もあるし」

「そ、そうだね」

「けどコタローもクルーズ船のほうは来れないね」


 そう言って残念そうに俯くアカネちゃん。

 その表情は見た俺は、そうだねなんて言うことはできなかった。


「いや、夜までには終わらせて必ず行くよ」

「えっ? で、でも無理しなくていいよ。パーティなんて遊びなんだしさ」

「行きたいんだ。必ず行くから待ってて」

「そう? ……うん。じゃあ待ってるから」


 わずかに微笑んだアカネちゃんへ俺も笑みを返す。


 中国にいる魔人の件は速攻で終わらせる。

 アカネちゃんとの約束を守るためと、俺は気合を入れた。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 戸塚かと思いきや、訪問者はアカネちゃんでした。なにやらクルーズ船で行われるパーティのお誘いみたいですが、小太郎は間に合うのか……。


 フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。

 感想もお待ちしております。


 次回は中国に行って戸塚の協力者と合流します。

 しかし戸塚のファンだからか、小太郎は少し嫌われ気味なようで……。

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