第183話 テロリストの協力者

 ……転移ゲートを開いて中国へ出発した俺は、戸塚の協力者がいるらしい北京の町へと来ていた。


「それで、そいつがいるホテルってのはどこなんだ?」

「ああ。これから案内するよ。あと、話し方を改めたほうがいいね。その外見にはそぐわないよ」

「……」


 俺は自分の姿を見下ろす。


 動画撮影ではないので白面で来るわけにはいかない。しかし素顔もダメ。……ということで、俺は魔法を使って戸塚とまったく同じ姿の女になっていた。


「別にこの姿じゃなくたって……。他の誰かの姿を借りてもよかったんじゃないか?」

「生きてる誰かの姿じゃ、その人に迷惑がかかるかもしれないだろう? だからと言って死体を探しに行くのも面倒だ。手っ取り早く君の正体を隠すには僕と同じ姿になってしまうのがいいんだ」

「そ、そうか」


 死体でも勝手に動かされたら迷惑だと思うが……。


「双子という設定なんだ。変に思われても面倒だから、ボロはださないようにね」

「ああ」


 そうして俺たち偽双子の巨乳美人姉妹は、戸塚の協力者がいるというホテルへと向かう。


 ……やって来たのは豪華なホテルだ。

 エレベーターで上へ向かい、7階で降りてその協力者がいるらしい部屋の前に立つ。


「ここか?」

「ああ」


 凶悪なテロリストのファンなんて、一体どんな頭のおかしい奴が出てくるやら。


 怖いもの見たさというものか。多少の興味はあった。


「シェン、僕だ開けてくれ」


 合図を決めているのだろう。不規則に扉を叩いて戸塚が中へ呼びかける。

 と、中から駆ける足音が聞こえてきて、


「我琉真様っ!」

「えっ?」


 扉を開いて出てきたのはアカネちゃんよりも若い、たぶん中学生くらいの綺麗な女の子だった。


「持たせて悪かったね」

「いえ、ぜんぜんだいじょーぶですっ!」


 そう言ってにっこり笑う女の子。

 どこにでもいそうな至って普通の女の子だ。


「おや? もしかしてこの人が……」

「ああ。姿は違うけど、例の彼さ」

「そうですか。なら……」

「? いたぁっ!?」


 不意に脛を右足のつま先で蹴られる。

 痛みに叫んだ俺を、女の子はしたり顔で見上げていた。


「我琉真様の敵っ! わたしがやっつけたっ!」

「て、敵って……」


 俺は蹴った女の子ではなく、戸塚を睨む。


「僕は今までの経緯を彼女に話しただけさ。その結果、君を僕の敵と判断したようだ」

「それは正しい判断だけどね……。」


 間違いではないが、蹴られたのはやはり理不尽に思う。


 とりあえず部屋へと入ってイスへ座る。

 女の子……シェンは強い視線で俺を睨んでいた。


「こんなのいりませんよっ! わたしたちだけであの施設の魔人は倒せますってっ!」

「こ、こんなの……」


 ひどい言われようである。


「魔獣はブラック級も倒せる強敵だからね。それを作り出す魔人を相手にするんだから、彼の力は必要だよ」

「わたしのスキルだけでも倒せますっ!」

「あ、そういえばその子のスキルってなんなんだ?」


 確かブラック級だったか。

 ならばかなり強力なスキルなのだろう。


「この子のスキルは……あっ!? こらっ!」

「えっ? なに?」


 戸塚が慌てた様子でシェンの目を覆う。


「ぎりぎり大丈夫だったかな? 申し訳ないね」

「なにが?」

「この子は『腐食の痛み』っていうスキルを使うんだけど、これは攻撃を与えた場所に腐食を起こすものなんだ。腐食させるタイミングは自在で、攻撃した箇所を睨めばそこが腐り始める」

「つまりさっき蹴った俺の脚を腐らせようとしたってことか」


 なんともゾッとするようなスキルであるが、


「まあ大丈夫だよ。俺そういう呪いみたいなの効かないから」

「えっ? あ、ああ。君にはこういうスキルも通じないのか。たいしたものだよ」


 と、戸塚はシェンの目から手を離す。

 シェンは蹴った俺の脚を睨むが、もちろんなにも起こらなかった。


「な、なんでよっ! わたしのスキルが通じないっ!」

「だから言ったでしょ。俺そういうの効かないから」

「ムカつくっ! あんたなんか死んじゃえっ!」

「ははは……」


 とことん嫌われてしまったようである。


「手伝ってくれるバイトを募集したら彼女が応募してきてくれてね。ブラック級15位で僕のファンだって言うからさ。即採用したんだ」

「バイトね……」


 テロリストの手伝い。まさに闇バイトであった。


「と言うかお前、本名で募集したのか?」

「ああ。戸塚我琉真はネームバリューがあるからね。もちろん利用するさ」

「……捕まるぞ?」

「はははっ。それが無意味なのはよく知っているだろう?」

「……」


 捕まえることができない。死刑にしても別の死体に憑依して復活する。

 こいつは社会泣かせの無敵テロリストであった。


「ああそれで、例の施設がどこにあるかはわかったの?」

「シェン」


 戸塚に名を呼ばれたシェンが不服そうに俺を見る。


「ちゃんと発見はした。わたしひとりで行って魔人を仕留めようと思ったけど、我琉真様の命令だから……」

「偉いよ。命令は絶対だからね。命令を守れない人間はクズさ」


 法律を守れないテロリストには言われたくない言葉である。


「じゃあ行くか。地図で場所を示してくれ。転移ゲートでそこへ移動する」

「転移ゲート?」

「彼の使う魔法……まあスキルみたいなもんさ。瞬間移動ができるんだ」

「そうなんですか。移動の足としては便利ですね。まあ、我琉真様の崇高な理念を理解できない残念頭脳男には過ぎたスキルだと思いますけど」

「あはは……」


 なんと言うか、こういう若い子は偏った危険な思想に感化されてしまうものなのだろうか? 間違いを指摘して正しい道を教えてやるのが真っ当な大人の役目だと思うが、思いっきり嫌われてる俺の言葉など聞く耳は持たなそうである。


「じゃあこのパソコンでネットの地図を開いて場所を教えてもらおうか」


 戸塚がノートパソコンを立ち上げてネットの地図を開く。


「うーん……」


 シェンはそれをじっと見つめるが、なかなか場所を示さない。


「わかりませんね……」

「えっ? わ、わからないって……?」

「こんな道なかったと思う。この地図は正しいのかな? うーん……」

「衛星写真の地図だし、正しいと思うけど」


 道を忘れてしまったのだろうか?


 まいったなと、俺は頭を掻く。


「ああ。たぶん地図には載ってない場所なんだよそこは」

「どういうことだ?」

「中国には昔から倫理的に許されない実験なんかを行う施設があってね。その場所が特定されないように、地図を作る業者やネットのマップを作る業者に圧力をかけてデタラメを載せさせてるんだ。それをしつこく指摘した人間や調べようとした人間は行方不明になるとか」

「な、なんだか闇深い場所なんだな」


 まあ、それは初めからわかっていたことだから、今さらなんとも思わないが。


「じゃあわかるところまでは転移ゲートで行って、そこからは車か歩きで行くか」

「じゃあ車。歩くとかなり距離があるの。とりあえず近くの町でレンタカー借りるから」

「あ、でも運転は誰がするんだ? 俺は中国で使える免許証もこの見た目で使える免許証も持ってないけど。免許証が無いとレンタカーも借りれないし……」」

「運転はわたしがするの」

「えっ?」


 どう見ても中学生くらいであるシェンは、片手に免許証を持ってそう言った。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 戸塚の協力者は中学生くらいの女の子でした。しかし車の免許を持っているので、幼く見えるだけで実は大人かも……? 


 フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。

 感想もお待ちしております。


 次回は戸塚我琉真の過去が明らかに……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る