かつて異世界で最強の魔王をやってた平社員のおっさん ダンジョンで助けた巨乳女子高生VTuberの護衛をすることになったけど、今の俺はクソザコなんで期待しないでね
第184話 語られる凶悪テロリストの過去
第184話 語られる凶悪テロリストの過去
シェンの言う町へ転移ゲートでやって来る。レンタカーを借り、シェンの運転で目的地へ向かうが……。
「本当にレンタカーを借りられるとは思わなかった……」
シェンは見た目だけでなく、実際に中学生くらいの年齢だ。つまり免許は偽造なのだが、レンタカーはあっさりと借りることができた。
「中国はおおらかな国だからね。細かいことは気にしないのさ」
「おおらかとは違う気がする……」
「ともかく車は借りれたんだ。あとは目的地に向かうだけだよ」
と、後部座席で隣に座っている戸塚は呑気そうに言った。
「目的地に着くまでまだかかりそうだから、少し僕の昔話でもしてあげようか」
「昔話?」
「僕の生い立ちさ。気になるだろう? 僕のような人間がどのように生まれてどのように育ったかさ」
「まあ……多少は」
積極的に知りたいとまでは思わないが、こんな危険人物が送ってきた人生にはある程度の興味はあった。
「はははっ。まあ期待させて悪いんだけど、別に奇抜な生い立ちでもなんでもなくてね。ごく普通に生まれてありきたりな人生を送ってきたんだよ」
「お前の言うありきたりが普通の人にとってありきたりかは怪しいけどな」
「いや実際に普通だよ。父親はまあまあ大きな企業に勤めるサラリーマンで、母親は専業主婦。どちらも時に厳しく時にやさしい普通の両親だったよ。兄弟は上に姉がいて、下には弟がいる。姉は地元の役所で公務員をやっていてね、弟は会計士をやっているよ。どちらともすごく仲が良かった」
「そ、そう」
こういう人間は荒んだ子供時代を送っているのだろうと勝手に思っていたが、戸塚の話が真実なら家庭は至って普通である。
「普通の家庭で育った僕も至って普通の人生を歩んでいたよ。これといった苦労も無く大学まで卒業した僕は、財務省に勤めることになってね。まあここへ行ったことが今の僕を作る切っ掛けになったと思うんだ」
「なにかあったのか?」
「なにも。平常通りさ。国の機関というものは腐っている部分も普通で、そういった闇の部分も含めて国益となっている。だから誰も改善しようとしないし、その闇を受け入れている。それが僕にはできなかったんだ」
戸塚は笑顔で話すが、細めた目の奥にはかすかな憤りを感じた。
「国益になっていようがなんだろうが、僕はそういう権力の闇が許せないたちでね。闇を晴らそうといろいろ動いたんだけど、結局はたいしたことはできずに財務省を追い出されるような形でクビを切られたのさ」
「そのあとに起こしたのがあのテロ事件か」
「ああ。僕は財務省で職員として働いていた時代、組織を変えようと死力を尽くして動いていた。腐りきった部分を払拭しても国益を損なわない案を出したり、あっちこっち駆けずり回って政府のお偉いさんに頭も下げた。でも全部ダメだったんだ。無駄だった。そのとき僕は気付いたね。腐った部分を変えることはできない。腐りを無くすには、すべてを破壊して1から作り直すしかないんだって」
「極端な考えに至ったな」
「気付いたのさ。僕がいた財務省だけじゃない。政府も……いや、世界中の政府が腐っている。それを正すのに必要なのは知識じゃない。圧倒的な暴力だ。正しい考えを持った者が圧倒的な暴力を持って世界を支配することで、世界は正しく自由で平和となる。そのために僕はダンジョンで力を手に入れた」
そう演説のように語る戸塚。
真っ当な人生を送っていたこの男だが、育った環境が良いとか悪いとか以前に、生まれたときからどこか壊れていたのかもしれない。あえて言うならば、曲がった部分はわずかでも許せないという、行き過ぎた正義感だろうか。
「素晴らしい理念です我琉真様。我琉真様が世界を支配をしたそのときこそ、世界から闇が払われて自由と正義、そして平和が訪れるのです。邪魔をする奴がいればわたしは迷うことなくそいつを始末しましょう。今すぐにでも」
……なにやら運転席から殺気を感じるも、俺はそれを無視した。
「僕よりもここにいる彼のほうが支配者には向いているよ。僕は彼が支配者になるための道になれればいいと思っている」
「いけません我琉真様っ! そんな男よりも、高い志を持った我琉真様こそが世界を支配するべきなのですっ!」
「君にも話しただろう。彼は異世界で魔王をやっていた、世界支配の経験者だ。そしてなにより僕より圧倒的に強い。支配者として彼以上の適任はいない。彼が支配者になる道となれるなら、僕はそのために死んだっていいんだ」
「が、我琉真様……その男に対してそこまでの期待を持たれているとは……。わかりました。不本意ではありますが、このわたしもその男が世界の支配者になれるよう協力いたしましょう」
「わかってくれて嬉しいよ」
「いや、待て待て勝手に話を進めるな。俺は世界を支配する気なんてないって言ったろ」
「君が拒否をしても、世界が君を求める。逃れることはできないよ。ふふふっ」
戸塚は不気味に笑いながら俺を見る。
嫌な男に懐かれてしまったようで辟易する。願わくば諦めてほしいものだ。
「ああ、ちなみに僕は結婚していたこともあってね。子供も3人いるんだ。上の子はもう20才くらいになるかなぁ」
「え、ええ……」
聞いた中でこれが一番、衝撃的な話であった。
……車で山中の道路を走る。
このまま目的地まで行くのかと思いきや、車はなにもない車道のわきへと止まった。
「この先にある脇道を進むと施設へ行けるのですが、途中に警備員がいて先へ行こうとすると止められます。なのでここからは警備員に見つからないよう歩きで行きます」
「わかった」
車を降りて山の中を進む。
道など無いのでめちゃくちゃ歩きづらい。生い茂る木を掻き分けつつ、前を歩くシェンのあとをついて行く。
いつの間にか空は暗く、夜になってしまった。クルーズ船の出発にはたぶん間に合わない。しかし船が出発してしまったとしても、アカネちゃんには光の玉がついているので海の上だって居場所はわかる。
魔人を締め上げてすぐに転移ゲートで行けば大丈夫だろう。
山道を歩いていると、やがて遠くになにやら建物が見えてくる。
「あれか」
話に聞いていた通りの屋敷がそこにあった。
外観はボロボロで、人が住んでいるようには見えない。朽ち果てた廃墟という様子であった。
「ああ。さてどうしようか? 見張りもいるみたいだし、安全にこっそり入れそうな場所でも探してみる?」
「そんな必要はありませんよ。見張りなんてわたしが倒しますし」
「いや、もっと手っ取り早い方法がある」
と、俺は転移ゲートを開く。
「これで中に入ればいい」
「さすが。けどそこを通った先にも見張りがいるかもよ?」
「邪魔をするなら殲滅すればいい」
魔人の悪行に加担する奴らだ。
どうせ禄でもない連中なので、始末に心は痛まない。
「ははっ、まったくだね。じゃあ行こうか」
と、俺たちは転移ゲートで屋敷の中へ入った。
――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
意外にも凡庸な人生を歩んで来た戸塚我琉真。育った環境ではなく、生まれたときからすでにどこか普通ではなかったのかもしれませんね。
フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。
感想もお待ちしております。
次回はあの男と再会……。
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